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不正競争防止法Q&A

松 本 直 樹
初出: 本間崇編『不正競争防止法Q&A』(1994年 きんざい)アマゾンのページ
ウェブページへのアップ: 2000年8月13日

 上記の本のうちの、私の担当部分です。「1.1」のようにした部分が、元の文章では「1」などとなっていたところですが、HTML化にあたって全部を1ファイルにしたので、ご覧のように変更しました。また、ほんの少し言葉を加えました。

 この本は、不正競争防止法の全面改正の際のものですが、今までアップするのを忘れていました。私が忘れていたというだけではなく(私がアップしなかったのは、忘れていたというだけではなくて、単行本をウェブページに掲載するのはちょっと控えておこうかと思っていたのが当初の理由ではありますが; でもその後すっかり忘れていました)、この本は余り売れなかったんですが、北大の田村先生との会話の中で言及したら、なんと、ご存知ありませんでした(その存在自体を)。しかし、あれだけ研究熱心な田村先生がご存知なかったというのは驚きで、きんざいの売り方も問題あったような気もします(って非難する訳じゃないんですが)(2003年5月28日追記: その後、実は、田村先生はお忘れになっていただけで、本棚の片隅に埋もれていたことが発見されました。)

目次
1. 「氏名」の保護(Q8)
2. 「商号」の保護(Q9)
3. 「商標」の意義(Q10)
4. 「標章」の意義(Q11)
5. 商品とは(Q12)
6. 持ち帰りラーメンの出所混同(Q13)
7. 容器の外観類似(Q15)
8. その他の営業表示(Q20)


1. 「氏名」の保護(Q8)  目次へ戻る

 Q8 人の業務に係わる「氏名」は、どのような場合に不正競争防止法によって保護されるのでしょうか。歌舞伎役者の「二代目辰之助」を無断で名乗る田舎芝居はどうなりますか。

 A 法2条1項1号または2号の要件を充たした場合に保護されます。ただし、自己の氏名を不正の目的なく使用している人に対しては、差止や損害賠償を請求することはできません(法11条1項2号)。歌舞伎役者の「二代目辰之助」を無断で名乗ることは、「二代目辰之助」が周知であることを前提とすれば、それが混同を引き起こす場合には1号の不正競争として差止や損害賠償の請求の対象となります。著名であるなら、2号の不正競争として、混同を要件とすることなく同様の請求の対象となります。

1.1 法2条1項の定義

 法2条1項各号は、不正競争防止法による差止請求などの対象となる「不正競争」を定義しています。このうちで、1号と2号は、「他人の商品等表示」に関するものを規定しています。この「他人の商品等表示」の1つとして、商号・商標・標章などと並んで「氏名」があげられています。したがって、1号または2号の他の要件を充たせば、氏名も、他人による無断使用に対して保護されることになります。

 いずれの場合にも、氏名は「商品等表示」となるものの1つとしてあげられているに過ぎず、「商品又は営業を表示するもの」でありさえすれば結局は保護の対象となるように規定されています。したがって、厳密に「氏名」であるかどうかは、問題とはなりません。「二代目辰之助」のように、芸名、それも名のみの変則的なものであっても、「氏名」としてかどうかはともかくとして、この点では保護の対象となり得ることに問題ありません。

1.2 営業

 不正競争防止法による保護の対象となるためには、商品表示または営業表示である必要があります(法2条1項各号の定義)

 旧法についてですが、古くはこの営業の要件を根拠として不正競争防止法による保護を否定する裁判例も見られました。

 しかし、近時はこれを広く解釈するようになっており、営業でないといって保護を否定した例は知られていません。取引社会における事業活動でさえあれば、ここでいう「営業」に該当するものと解されています。歌舞伎の場合に多少なりとも近いものとして、大阪地決昭和56年3月30日・判例時報1028号83頁(日本舞踊の普及事業について「営業」であると認めた・なお、大阪高裁昭和56年6月26日決定・無体集13巻1号503頁によって抗告が却下されている)などが参考になります。

 歌舞伎役者の名前という設例は、問題がないというわけではありませんが、不正競争防止法にいう営業は旧法当時から上記のとおり広く解釈されてきており、歌舞伎も営業ということになるものと見られます。

1.3 法2条1項1号の場合

 1号では、「需要者の間に広く認識されている」こと(周知性)が必要であり、さらに「混同を生じさせる行為」に限って、不正競争になるものとされています。この「混同」の要件は、旧法において柔軟に解釈されていたもので、その者自体が主体となっていると誤認される場合(狭義の混同)ではなくても、関係のある者が行っていると考えさせる(広義の混同)ことで十分であるとされています。

1.4 法2条1項2号の場合

 2号では、「著名」であることが要件となっていますが、その代わり混同は必要とされていません。この点で本号は、旧法にはなかったもので、旧法下では上記の通り「広義の混同」等として若干無理をして保護していたものを、正面から認めるようにしたものです。新法では、この無理を立法的に解決したわけです。

1.5 「著名」とはどういうものか

 「著名」というのは、周知(需要者の間に広く認識されていること)よりも一段と高いレベルのもので、全国的に誰でも知っているようなものを指すとされています。混同を生じないような使用さえも禁じるのに相応しいものに限られる必要があるわけです。

 混同がない場合までを不正競争とするのは、著名な表示は、表示が現実につかわれている個別具体的な商品や営業との関係をこえて、独自の顧客吸引力および財産的価値を有しているものと考えられることが根拠とされています。著名表示を無断で利用する行為は、そういった価値にタダ乗り(フリー・ライド)するものであり、一方では著名表示の価値を希釈化(ダイリューション)によって減じてしまうが故に、禁止される、ということです。2号のいう「著名」に該当するためには、こうした趣旨が妥当するだけのものであることが必要とされます。

1.6 氏名についての例外規定

 なお、氏名については、法11条1項2号が特に例外を規定しています。すなわち、「自己の氏名を不正の目的でなく使用」する行為は、1号または2号の要件を充たして不正競争とされる場合でも、差止請求や損害賠償請求の対象となりません。自己の氏名を不正の目的でなく使用することまで禁止をするのは、不便が大きすぎることが、こうした例外を認める理由であると考えられます。

 この場合には、営業上の利益を侵害される者は、代わりに、「混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができ」ます(法11条2項)

 ここでいう「自己の氏名」とは、自然人(法人を含まない)の、原則として本名を意味するものと考えられています(商標法26条1項1号が芸名などにも言及しているのと違いがあります・なお、前出の花柳流名取事件を芸名についても認めたものと理解する考えもありますが、この事案は代表者の本名をつかっているものであり区別するべきです)。設例の「二代目辰之助」は、本名ということはないと思われますから、これを自己の氏名(芸名)であるとして11条1項2号の規定する例外にあたるとすることはできません。

1.7 「二代目辰之助」の場合

 歌舞伎役者の「二代目辰之助」を無断で名乗ることは、「二代目辰之助」が周知であることを前提とすれば、それが混同を引き起こす場合に1号の不正競争として差止や損害賠償の請求の対象となります。すなわち、「二代目辰之助」が周知とすれば、「田舎芝居」での使用というのが混同を生じさせるような場合は、不正競争として差止請求や損害賠償請求の対象となります。「二代目辰之助」が演ずると聞いた人が、本物の二代目辰之助が来演するのだと理解するなら、混同が生じたと言えます。

 しかし、「田舎芝居」での使用というのは、「二代目辰之助」という名前を使っても、本物が来ると間違える人はいない、という類のものかもしれません。そうなると、混同はないわけですから、1号の不正競争には該当しません。

 混同がないという場合でも、「二代目辰之助」が著名であるなら、2号の不正競争として、混同を要件とすることなく同様の請求の対象となります。すなわち、「著名」な場合に限って2号の不正競争となります。具体的に考えるほかありませんが、「二代目辰之助」が果たして「著名」とまで言えるかどうかは、その可能性はあるでしょうが、問題なしとしません。

2. 「商号」の保護(Q9)  目次へ戻る

 Q9 「商号」は、どのような場合に不正競争防止法によって保護されるのでしょうか。「株式会社 三井地所」を名乗って新しく不動産業を開業するとどうなりますか。

 A 三井グループの会社(例えば「三井不動産」)から、不正競争防止法に基づいて、差止請求および損害賠償請求を受けることになることが考えられます。

2.1 商号と不正競争防止法

 商号というのは、商人が営業について自己を表示する名称のことです。商人が営業について使用するものであるという点で、人が一般生活において使用するのが氏名であるのに対して、違いがあるとされています。また、営業について自己を表示するものである点で、商品または役務について使用する商標とは違います。

 前問の氏名の場合と同様に、商号も「商品等表示」の1つとして、他人による無断使用に対しては不正競争防止法による保護があり得ます。すなわち、周知の場合で混同があれば1号に該当することになりますし、「著名」であれば2号の不正競争になります。

 商号は、上記のように氏名や商標とは区別できるものと考えられますが、不正競争防止法上は、「商品等表示」の例示に過ぎませんから、ある表示がはたして商号であるかどうかは特に意味を持ちません。

 設例では、「株式会社 三井地所」を名乗って新しく不動産業を開業するという例が想定されています。これは、商号として「株式会社 三井地所」を使用するということですが、不正競争防止法でいう商品等表示の一種であることに間違いはなく、同法による保護(差止または損害賠償)の対象になり得ます。

2.2 「三井地所」は混同されるか

 三井グループには、「三井不動産」などの会社がありますが、「三井地所」という会社はないようです。この場合、「三井」の名が入っているために三井グループと関連があると誤解される可能性はありますが、特にいずれかの会社と混同されるということはないと見られます。

 こうしたものでも、三井グループとの関連を誤解させる限り、禁止する必要があると考えられますが、旧法では無理がありました。混同が要件とされていたからです。それでもいくつかの裁判例では、若干の無理のある解釈によって、「広義の混同」があるとしていました。本問のような場合には、系列会社の一員ではないかという誤信を生じるものであるがこれも「混同」といえるとしたのです。大阪高判昭和41年4月5日・高民集19巻3号215頁・判例時報451号41頁の「三菱建設」についての裁判例が参考になります。この事件では、被告「三菱建設株式会社」を相手取って、三菱地所株式会社が「三菱」という文字を含む商号の使用の禁止などを求めました。被告は、「三菱地所」と「三菱建設」では類似しておらず、また営業内容から見て競業関係にないから混同がない、と主張しました。これに対して裁判所は、「講学上説かれる競争観念の希釈化の理念を重視しなければならない。」として、この場合にも「混同」の要件が認められるとして三菱の二文字と三菱マークを「三菱系各会社の周知団体標章」であるとし、三菱系各社はいずれも不正競争防止法(旧法1条2号)による差止請求権を有するものとして請求を認容しました。

 旧法でもこのように保護はあり得ましたが、条文解釈としてはやや無理がありました。新法は、この無理を立法的に解決しています。2号が新設され、「著名」であれば混同が生じなくても、不正競争として禁じられることになりました。新法の下でも、こうした場合に混同を認めること(すなわち1号の不正競争とすること)が考えられないわけではありませんが、新法の趣旨からして、本問のような例は専らこの2号によることを検討するべきものと思われます。

2.3 「三井」は著名か

 法2条1項2号によれば、他人の商品等表示で「著名」なものと同一または類似なものを使用することは、不正競争になるとされています。不正競争行為は、差止請求や損害賠償請求の対象となります。

 「著名」ということの意味内容が問題となります。これは、単に「周知」というよりも、より高い程度のもので、全国的にだれでも知っているようなものを指すとされています。混同を生じないような使用さえも禁じるのに相応しいものに限られる必要があるわけですから、それが正当化されるような、高度なものでなければなりません。

 著名性が認められるのは、相当に限られるものと考えられますが、「三井」は、確かに企業名として誰でも知っている水準のものであり、おそらくは著名であると言えると考えられます。そこで、「三井」の名の入った三井グループの会社名と同一または類似の名称を使用することは、2号のいう不正競争となることが考えられます。

2.4 類似性

 著名性が認められるとしても、「株式会社 三井地所」という会社があるわけではないので、本問の行為は、たとえば「三井不動産」との関係で問題とされることになります。そうすると、2号の不正競争となるためには、「三井」だけを共通にしている「三井地所」との間で類似性が認められることが必要ということになります。

 これがたとえば「朝日新聞」との関係であれば、「あさひ」を共通にするというだけでは、類似性を認めるわけにはいきません。「アサヒビール」など、無関係でも同じく「あさひ」を含んだ名称があるからです。「あさひ」を共通に含んでいるというだけで類似性を認めたのでは、これらが並行して使用されている現実を説明することができなくなります。これは、「あさひ」の識別力が強力ではないために、それが共通して含まれているというだけでは類似にはならない、ということであると理解されます。

 「三井」の場合には、こうした例はないようですから、「三井」を共通にするだけでも類似性を認めるべきでしょう。しかし、このように使用実態に応じて類似かどうかが変わるというのは、「類似」という観念の素直な意味からは疑問が残らないわけではありません。

2.5 不正競争に対して

 以上のように、「株式会社 三井地所」を名乗って不動産業を営むのは、法の言う不正競争とされることになると見られます。よって、これによって営業上の利益を侵害される者(すなわち三井グループ各社)からの差止請求(法3条)や損害賠償請求(法4条)を受けることになります。

 なお差止請求は、具体的には、使用された商号の使用を禁ずる旨の主文を得て、これを間接強制することができるとされています。すなわち、判決に従わない者に対しては、執行裁判所が相当と認める金銭を期間に応じて権利者に対して支払わせる、という形での強制がなされます(民事執行法172条1項)。また、「株式会社 三井地所」が登記されているのならば、これについて抹消請求することもできると考えられています。

 さらに、法3条2項により、侵害行為を組成したものの廃棄などを請求することも可能です。「株式会社 三井地所」との商号を付したパンフレットや名刺、看板などが、この廃棄請求の対象になるものと見られます。すなわち、営業上の利益を侵害される者からの請求によって、こうした物の廃棄をさせられることになります。

3. 「商標」の意義(Q10)  目次へ戻る

 Q10 不正競争防止法2条1項1号の「商標」とは、何を意味しますか。また、どうした場合に保護されますか。

 A 法の規定により、商標法上の「商標」と同じであるとされています(法2条2項)。もっとも、不正競争防止法では、「商標」は「商品等表示」となるものの例示としてあげられているに止まりますので、「商標」であるかどうかを厳密に考えることには意味はありません。商品表示または営業表示として「商品等表示」に該当しさえすれば、不正競争防止法による保護の対象となり得るのであり、問題は法の規定する周知性や混同の存在などの要件を充たすかどうかです。

3.1 不正競争防止法における「商標」

 不正競争防止法では、2条1項1号の中で「商品等表示」を定義して、それが周知な場合に混同を生じるような形で他人が使用すること(法2条1項1号)や、著名な場合に他人が使用すること(法2条1項2号)を不正競争行為として規制しています。この「商品等表示」の定義の中で、表示となるものの例の1つとして「商標」があげられています。

 そしてこの「商標」は、商標法上の「商標」と同じであるとされています(法2条2項)。なお、「商標」という語は、法2条1項1号以外にもいくつかの条項で使われています(法2条1項12号・法9条1項・法9条3項・法10条)。法2条2項は、不正競争防止法全体においての「商標」の定義規定となっていますから、これらの条項でも同じく、商標法上の「商標」と同じ意味を有することになります。

3.2 商標法上の「商標」

 商標法2条1項によれば、「商標」とは「標章であって、次に掲げるものをいう。 一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの 二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く)」と定義されています。

 上記のとおり、法2条2項により、不正競争防止法における「商標」もこれと同一の意味を有します。

 新法が「商標」について商標法の規定を援用したのは、ある意味で自然なことではありますが、商標法上の「商標」の定義からすると問題がないわけではありません。上記の商標法における定義には、出所表示機能を要求する旨の文言がありませんが、一般に、これをそのままに解釈して、例えば「取扱注意」の文字も商品について使用されるものである限りは「商標」であることになると考えられています(網野誠『商標[新版再増補]』84頁)。このように無内容なものと考えるのには異論もあり、問題があることは確かです。新不正競争防止法は、商標法の規定を援用することによって、こうした問題点までも取り込んでしまったとも考えられます。

3.3 「商標」を考えることの意義

 もっとも、不正競争防止法では、「商標」は「商品等表示」となるものの例示としてあげられているに止まります。「商標」であろうとなかろうと、「表示」でありさえすれば保護の対象となり得ますから、「商標」であるかどうかを厳密に考えることには意味はありません。商品表示または営業表示として「商品等表示」に該当しさえすれば、不正競争防止法による保護の対象となり得るのであり、問題は法の規定する周知性や混同の存在などの要件を充たすかどうかです。

 商標法においては、登録主義をとっているところから、どのようなものを登録することが可能であるかを定めておく必要があり、この関係から「商標」の定義にも意味があります。これに対して不正競争防止法では、現実に使用された結果として周知性なり著名性なりを獲得した表示を保護しますので、保護の対象たる「表示」やその一例たる「商標」をあらかじめ限定しておく必要性は薄いのです。

3.4 商標法との関係

 このように、商標法による登録や保護の対象となる「商標」は、不正競争防止法の対象ともなりますから、その間の調整が必要となる場合があります。

 典型的には、Aが△△△△という商標を使用して周知となっているとして、同じく△△△△をBが商標登録しているという場合の権利関係はどうなるか、という問題があります。Bが使用することによって混同が生じるというなら、これは法2条1項1号の不正競争行為に該当するはずですから、この点では、Aはこれに対して差止請求をしたり損害賠償請求をしたりすることが認められるべきです。しかしBは商標権者ですから、商標の使用権が認められるはずでもあります。この間に何らかの調整が必要です。

 旧法では、この調整に言及した条項がありました。すなわち、旧法6条が「商標法に依り権利の行使と認めらるる行為には之を適用せす」と規定していたのです。この条文にしたがえば、上記のBの行為は不正競争防止法違反として差し止められることはありませんでした。

 新法には、この旧法6条に相当する条項はありません。しかし、だからといって、商標権の行使が認められなくなるとは限りません。商標法と不正競争防止法の間の調整について明示的規定がない状態となっているわけであり、この調整は解釈に委ねられているわけです。また、新法に旧法6条に相当する条項がないのは、旧法下においても商標権の行使としての使用が主張された事案の多くにおいて権利濫用とされており、旧法6条が文字どおりに適用された例は少なかったという事実を反映させたものであって、商標権などの行使として適法化される場合のあることを敢えて否定する趣旨ではない、という説明もされています。

 この問題は、結局、どういった場合に不正競争でなくなるのかについては決着が付いていないということになります。

4. 「標章」の意義(Q11)  目次へ戻る

 Q11 不正競争防止法2条1項1号の「標章」とは、何を意味しますか。また、どうした場合に保護されますか。

 A 法の規定により、商標法上の「標章」と同じであるとされています(法2条3項)。もっとも、不正競争防止法では、「標章」は「商品等表示」となるものの例示としてあげられているに止まりますので、「標章」であるかどうかを厳密に考えることには意味はありません。これは、前問の商標についてとまったく同様です。

4.1 不正競争防止法の「標章」

 不正競争防止法では、2条1項1号の中で「商品等表示」を定義して、それが周知な場合に混同を生じるような形で他人が使用すること(法2条1項1号)や、著名な場合に他人が使用すること(法2条1項2号)を不正競争行為として規制しています。この「商品等表示」の定義の中で、表示となるものの例の1つとして「標章」があげられています。

 そしてこの「標章」は、商標法上の「標章」と同じであるとされています(法2条3項)

 以上の点は、前問の「商標」についてとまったく同じです。

4.2 商標法の「標章」

 商標法2条1項は、「商標」を定義する中で、「標章」を「文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」と定義しています。こうして定義された「標章」であって、商品または役務について使用されるものが「商標」とされます。

 商標法における「標章」の定義として特異とも言えるのは、その構成要素が、文字・図形・記号・色彩の4つに限定されていて、それ以外の要素を認めない趣旨である、と理解されていることです。すなわち、例えば立体的な標章というものは認められないわけです。立体的標章が認められないということは、立体的商標というのも認められないことになります。

4.3 「標章」を考えることの意義

 前問の「商標」についてと同様に、不正競争防止法では、「標章」は「商品等表示」となるものの例示としてあげられているに止まります。「標章」であろうとなかろうと、「表示」でありさえすれば保護の対象となり得ますから、「標章」であるかどうかを厳密に考えることには意味はありません。

 例えば上記のとおり立体的標章ないし商標は認められないにしても、「その他の商品表示」として保護の対象となり得ます。

4.4 例示としての「標章」の意義

 「標章」があげられていることに意義あるかどうかは、例示としても疑問があります。「商標」があげられているため、それに加えて「標章」を例示する必要はないのではないかと思われるのです。

 商品等表示の中でも、商品表示たる標章であれば当然に「商標」であることになります。また、営業表示であっても、普通には役務について使用されるものとして「商標」(役務商標として)であると考えられます。一応は、商品も役務も提供しない営業についての表示であれば、「商標」とはならないと見られますが、どうしたものがこれに該当するのかは明かではありません。結局、「商標」に加えて「標章」を例示に掲げていることの独自の意味は、殆ど無いものと思われます。

5. 「商品」とは(Q12)  目次へ戻る

 Q12 不正競争防止法にいう商品とはなにを意味しますか。

 A 一応、市場で流通する有体動産を意味するものと考えられます。もっとも、旧法とは違って新法では、「商品等表示」でありさえすれば、商品を表示するものであっても、そうでなく営業を表示するものであっても、取扱上の区別はまったくありませんから、商品とは何かを厳密に考える意味はなくなっています。

5.1 「商品」の意味

 不正競争防止法では、新法でも旧法でも、商品を表示するものがその保護の対象の1つとされています。そこで、商品とは何を意味するかが問題になるものと一応は見られます。

 不正競争防止法において「商品」とは、商取引の対象となり得るような有体物をいうとされています。

 商取引の対象ということから、転々流通することを予定しない即時に消費されるもの、たとえば飲食店で提供される料理などは、商品ではないとされます。店内で飲食されてしまうものは商品ではないことに異論がないにしても、持ち帰るものの場合には、微妙な問題となります。

 不正競争防止法について「商品」の意義を詳細に判示した裁判例は知られていません。そこで、商標法についてのものを参考にするべきことになります。商標権侵害が主張された事案において、和食料理店で顧客の注文に応じて持ち帰り用に提供される料理の折り詰めは「商品」にあたらない、とした裁判例があります(天一事件・東京地判昭和62年4月27日・判例時報1229号138頁・なお、この事件では不正競争防止法違反も主張されたのですが、周知性の点で棄却されています)。また同じく商標法についてですが、中華料理店が、料理店としての営業と並行して販売していた箱に入れたギョウザやシュウマイを「商品」と認めた裁判例もあります(東天紅事件・名古屋地判昭和60年7月26日・無体集17巻2号333頁)

5.2 旧法の仕組みと問題点

 旧法では、商品表示の保護を規定する条項と、営業表示の保護を規定する条項とが分かれていました。すなわち、まず旧法1条1項1号が、他の事業者の商品を表示するものとして周知なものを、商品について使用することを不正競争と規定していました。他方、旧法1条1項2号は、営業について、同様に、不正競争を規定していました。

 このために、他者の周知な商品表示を営業について使用する場合や、その逆に周知な営業表示を商品について使用する場合については、条文の文理上は規制をすることが難しいという不合理なところがありました。これらについても、禁止の必要性のある場合があることは間違いありません。にもかかわらず条文上は、1号にも2号にも該当性を認めるには無理があったのです。

 こうした結果、商品に該当するかどうかの議論にも一応の実益がありました。

5.3 新法の仕組み

 新法でも、保護の対象として、商品を表示するものがあげられています。この意味では、商品とは何かが問題となり得るようにも見えます。商品を表示するものであることによって初めて法の保護対象になるとすれば、商品の定義が問題になります。

 しかし新法では、商品表示と営業表示を区別していません。いずれであっても「商品等表示」としてまったく同様に法2条1項の規定する不正競争を構成することがあり得ます。したがって、商品表示であるか営業表示であるかの区別は意味がなくなりました。よって新法では、「商品」に該当するかどうかも、厳密に検討することには実際的な意義はありません。

5.4 新法の「商品等表示」と「営業」

 新法では、商品を表示するものと営業を表示するものとを合わせて「商品等表示」としています(法2条1項1号)。このため、不正競争防止法による保護を得るためには、「商品」の表示ではないにしても「営業」を表示するものであることは必要であり、この点から「営業」とは何かが問題となることになります。また、法3条において差止請求権をあたえられているのは「営業上の利益を侵害されるもの」であり、この点でも「営業」の意義が問題となりそうです。

5.5 営業とは

 商法では、営業とは、営利目的のために同種の行為を反復継続する意図を持って行うことをいうとされます。営利目的というと、原則的には、積極的に利潤を獲得する意思をいうものと考えられますから、事業のうちでも営業とはいえないものを考えることができそうです。そうなると、営業にあたるかどうかも実質的な議論の対象となります。

 しかし、少なくとも現在では、不正競争防止法にいう「営業」は相当に広く考えられており、これに外れるがために同法の保護が受けられない場合というのが問題となることは多くありません。

 古くは、不正競争防止法についても、営業を狭く解した裁判例もありました。たとえば、オリンピック委員会について営業性を否定した裁判例(東京地判昭和39年9月25日・下民集15巻9号2293頁)が知られています。

 しかし近時は、このように「営業」を狭く解する考えは採用されていません。裁判例としても、収支計算の上に立って行われる事業でありさえすれば足りる、と解されており、多くの場合に営業性を肯定する方向にあります。

 たとえば、公益法人の音楽普及事業について認めた裁判例(大阪高決昭和54年8月29日・判例タイムズ396号138頁)、日本舞踊の普及事業について認めた裁判例(大阪地決昭和56年3月30日・無体集13巻1号507頁)、などが知られています。

 このように、現在では「営業」該当性が問題となることは殆どありません。

6. 持ち帰りラーメンの出所混同(Q13)  目次へ戻る

 Q13 東京郊外に最近できた中華料理店Bが、お持ち帰り用に出口で客に頒布している即席ラーメンに、銀座の老舗として有名な中華料理店Aの店名を勝手に表示しています。Aは、どんな対処をとることができますか。

 A 出所の誤解を生ぜしめているのなら、自己の周知な商品等表示を使用して混同を生じさせている不正競争行為(法2条1項1号)として、差止の請求や損害賠償の請求が可能です。

6.1 店名は「営業表示」

 中華料理店Aの「A」という店名は、その店を指す営業表示であると見られます。

 これを中華料理店Bが使用することは、法でいう不正競争ということになる可能性があります。Bが自己の店名として「A」を使用しているのならば、営業表示についての不正競争となることにまず問題はありません。しかしBは、これを中華料理店の店名として使用しているわけではなく、お持ち帰り用の即席ラーメンに表示しているということですから、このような仕方での使用がどのように対処されるべきか、検討が必要となります。

6.2 旧法の仕組み

 前問でも説明したように、旧法では、商品表示と営業表示の保護が別の条項で規定されていました。この結果、営業表示として周知のものを商品表示として窃用する行為や、その逆に商品表示として周知のものを営業表示として窃用する行為については、条文の適用上でどう扱うか、問題となり得ました。

 本問でも、「A」という店名は営業表示として周知なものであり、これを商品について窃用するとなると旧法では取扱に疑問があったわけです。

6.3 お持ち帰り用ラーメンの法的性質

 お持ち帰り用ラーメンの法的性質の理解によっては、本問の設例は丁度この旧法において取扱が難しい場合に該当してしまう可能性があります。

 お持ち帰り用ラーメンは、販売された後に転々流通するわけではないのを原則とすることからすると、商品ではないと考える余地もあります。しかし、前問で紹介した東天紅事件を参考にすると、「商品」とされる可能性もあります。仮にこれが「商品」だとすると、Bは商品表示として「A」を使用していることになります。「A」は営業表示として周知であるにしても、それを商品表示として使用しているBの行為は、旧法の条項からは不正競争とするのに多少の無理がありました。

6.4 新法の場合

 しかし、新法では、商品表示と営業表示とを区別していません。いずれであっても「商品等表示」としてまったく同様に法2条1項の規定する不正競争を構成することがあり得ます。

 Aは、老舗として有名な中華料理店であるということですから、Aという店名は周知性を有しているものと考えて良いでしょう。そこで、即席ラーメンへの表示によって混同が生じるものであれば、法2条1項1号の不正競争ということになります。即席ラーメンが商品であるかどうかによって違いが生ずるということはありません。

6.5 混同とは

 「混同」というのを極端に狭く考えるなら、Aの方でも即席ラーメンを出していてそれと混同するという場合に初めて混同があるといえる、といった解釈もあり得ます。本問では、Aは自身では即席ラーメンを出しているわけではありませんから、こうした極端に狭い混同概念をとるのならば、混同のおそれはなくBの行為も法2条1項1号の不正競争とはならないことになります。

 しかし、「混同」というのはここまで狭く考えられているわけではありません。Aは中華料理店ですから、即席ラーメンにAという表示が付されているのを見た人は、Aが出所であると判断することが十分に予想されます。これも混同というべきでしょう。

6.6 著名表示

 もっとも、Bの方での使用の仕方によっては、こうした誤解は生じないということもあり得ましょう。Bという店名の下で販売しているわけですから、その態様によっては、誤解が生じ得ないような場合というのも考えられます。Aを出所とするかのように見えるわけではなく、一種のデザインのようにAの名前が使われているというような場合です。

 こうした使用に対しては、Aという名前が「著名」である場合に限って、混同を要件とすることなく不正競争とされます(法2条1項2号)。この度の法改正で新しく設けられた不正競争類型です。

 このように、たとえBによる使用が出所の誤解を生じないようなものであっても、Aの営業表示が著名であるという場合には、なお不正競争とされます。

6.7 差止および損害賠償

 Bの行為が不正競争に該当する場合には、営業上の利益を侵害されることになるAは、Bを相手取って、差止を請求すること(法3条)および損害の賠償を請求すること(法4条)ができます。

 また3条2項により、侵害組成物の廃棄などを求めることができます。すなわち、「A」の名を付した看板や商品を入れるための箱などの廃棄を請求することができます。

7. 容器の外観類似(Q15)  目次へ戻る

 Q15 当社のアミノ酸入りシャンプーは、チョコレート色をしたキャップがついた小豆色のプラスチック性の筒型容器に入っており、容器の外側に商品名を白で「Aminosaure Shampoo」と表示したほか、白地で小さく使用説明と当社名が書かれ、かつ波形の模様が白色で下半分をとりまくように着色されており、発売以来約10年間、国内の各地の美容院で大量に使用されています。最近、他社が「Amino Acid Shampoo」と表示した他は、容器の外観が色彩・形状ともにそっくりのものを他社の名入りでアミノ酸入りシャンプーとして一般小売市場に売り出しました。当社のとるべき手段を教えてください。

 A おそらくは、この他社の製品の販売を、法2条1項1号の不正競争として、差止請求や損害賠償請求をすることが可能です。ただし、容器の外観が、貴社の製品であることを表していると言える程度に特徴的なものであることが必要です。さらに、美容院での使用を通じて一般消費者にも相当に知られているものであることが前提となります。

7.1 商品等表示

 本件の他社のシャンプーは、その容器の外観が貴社のシャンプーのそれにそっくりだということですから、この点で不正競争とされる可能性があります。

 不正競争防止法が保護対象とする商品等表示は、特に限定列挙されているわけではありません。例示的にあげられているものの他、「その他」のものも、商品の出所を示すもの(=商品表示)または営業の主体を示すもの(=営業表示)でありさえすれば保護対象となり得ます。容器は、この「商品等表示」の1例としてあげられていますから、他の要件を充たすものであれば、もちろん保護の対象となり得ます。もっとも、出所を表示するものと言えるだけの標識力(=見た目の特徴)を備えていることが前提です。

7.2 周知性

 本問の場合で考えられるのは、不正競争防止法2条1項1号の規定する不正競争行為とされることによる保護です。貴社がこの法2条1項1号による保護を得るためには、まず、貴社の商品表示が「需要者の間に広く認識されている」必要があります。すなわち周知性の要件を充たさなければなりません。

 貴社のシャンプーは、国内各地の美容院で大量に使用されているとのことですから、その容器の外観は、美容院関係者の間では広く知られていると言えるでしょう。すなわち、美容院関係者の間では周知であると見て間違いないと思われます。したがって、貴社製品と同様に美容院関係に向けた製品による不正競争を考えるならば、貴社製品の周知性が認められることに問題はありません。

 もっとも本問の場合には、他社の製品は一般向けのものだということですから、法2条1項1号にいう周知性が認められるためにはどういった範囲の人に知られている必要があるのか、検討の必要があります。一般論としては、取引業者や需要者の間で知られていることが必要とされます。

 本問の他社は、一般小売市場に売り出したのですから、これとの関係で貴社が不正競争防止法による保護を受けるためには、一般小売市場においての周知性が必要とされるとの考えもあり得ます。しかし、貴社の製品もその需要者の間では広く認識されているには違いないのですから、周知性の要件はこれで満足されているものとして、一般小売市場で周知かどうかといった事項は、後述の混同の有無の点で考えるというのが法意であると見られます。

 容器に関する裁判例としては、前橋地決昭和50年10月29日・無体集7巻2号411頁(インスタント焼きそばの容器について、ありふれた形状であるとして、周知商品表示ではないとした)や、大阪地判昭和58年8月31日・判例タイムズ514号278頁(ルービック・キューブの容器と形態が周知商品表示であるとした)が知られています。

7.3 類似性と混同

 法2条1項1号では、同一または類似の商品等表示をつかっていることが不正競争とされるための要件です。他社のシャンプーは、容器の外観が色彩・形状ともにそっくりだということですから、一応、類似であるということになると考えられます。

 問題は、こうした製品と貴社の製品との間で混同が生ずるかどうか、ということです。容器の外観が似ているといっても、仮にシャンプーの容器としてごく普通の形および色なのだとすれば、混同を生じることはないでしょう(まったく当たり前の形および色なのだとすれば、そもそも商品等表示と言えないということさえあるかもしれませんし、また、類似性が否定されることも考えられます)。色と形はそっくりであるにしても、「Amino Acid Shampoo」という別の商品名が付されており、さらにその他社の名も入れられているということは、混同を生じないようにするのに役立つものと思われます。

7.4 混同を肯定する要素

 微妙な判断が要求されるところではありますが、貴社の製品容器は、かなり特徴的な外観を持っているものと理解されます。チョコレート色をしたキャップがついた小豆色のプラスチック性の筒型容器で、波形の模様が白色で下半分をとりまくように着色されているということであり、当たり前のシャンプー容器というわけではなく、かなり特徴的なものであると理解されます。他社の容器は、これにそっくりだというのですから、混同を招くおそれがあるでしょう。

 さらには、貴社の容器では、商品名を白で「Aminosaure Shampoo」と表示しているのに対して、他社の商品名記載の配色も同様であるというのも、外観からくる混同を生じさせる可能性を高めていると言えましょう。

7.5 混同を否定する要素

 しかし、混同の可能性を否定する要素もあります。他社は、その他社の名入りでシャンプーを売り出しているのですから、注意深い需要者なら、間違えることはないとは言えます。

 さらに問題なのは、貴社の製品は発売以来約10年間大量に使用されているとのことですが、それは美容院でのことだということです。その他社の製品は、一般消費者向けのものであるとのことですから、はたして混同が生じることになるかどうか、問題です。

 国内の各地の美容院で大量に使用されているということですから、美容院の関係者にはよく知られていることは問題ないでしょう。しかし、美容院関係者に知られているからといって、一般消費者にも周知だとは限りません。他社の製品は、一般消費者向けに売り出されたのですから、一般消費者が貴社のものを知らないとなると、混同は生じないことになります。

 結局、この問題は、美容院での使用を通じて、本問の場合にも混同を生じる程度にまで、一般消費者にも知られていたのであれば、貴社はこの他社の製品の販売を、法2条1項1号の不正競争として、差止請求や損害賠償請求をすることが可能である、ということになります。

8. その他の営業表示(Q20)  目次へ戻る

 Q20 不正競争防止法2条1項1号の「人の業務に係るその他の営業を表示するもの」には、どのようなものがあるのでしょうか。

 A 「氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装」以外のもので、営業を表示するものであれば、何でもこれに該当することになります。よくあるものとしては、立体的な看板やネオンサインが考えられます。さらには、音によるものや触覚によるものなども、表示でありさえすれば保護の対象になり得ます。

8.1 商品等表示

 不正競争防止法では、「商品等表示」について、一定の要件を充たす場合に保護を与えています。法2条1項1号中の「商品等表示」の定義によれば、「商品等表示」とは、他人の業務にかかる「商品」表示または「営業」表示のことであるとされ、その例示として「氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装」があげられています。

 氏名などは、あくまでも例示としてあげられているに過ぎませんから、「商品」表示または「営業」表示に該当すれば、何等の限定なく不正競争防止法による保護があり得ます。この点は旧法でも同じで、氏名などがあげられてはいましたが例示に過ぎず、商品または営業を表示するものでありさえすれば保護の対象となることになっていました(ただし、商品と営業とで条項が別れていました)

 現実にも、判例によって保護が与えられた「その他の表示」がいくつかあります。条文の仕組みの上からは、新法の下でも同様にこれらについても保護が与えられ得ます。

8.2 営業表示として認められるもの

 例示されていないものでも、営業表示である限りは、当然に不正競争防止法2条1項1号の保護の対象となります。

 たとえば、立体的な看板は、こうした「その他」にあたることになるものと考えられます。立体的にできた看板は、極めてありふれてはいますが、不正競争防止法の使っている言葉からすると、例示には該当しません。「商標、標章」という言葉は、これらを含んでも必ずしもおかしくないところですが、法2条2項・3項によれば、これらの言葉は商標法上の定義に従った意味を持つことになっており、商標法の定義する「標章」は「文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」を意味するものとされていて、立体的なものを含んでいないからです。

 この種のものとして、大阪地判昭和62年5月27日・無体集19巻2号174頁(動くカニの形をした看板について不正競争防止法上の保護を認めた)が広く知られています。

 表示でありさえすれば、目に見えるものに限定される理由はありませんから、音やニオイ、さらには触覚的なものも、営業表示として使用 される場合には保護の対象となり得るはずです。もっとも、実例が知られているわけではありません。

8.3 商品表示として認められた例

 本問は「営業表示」を対象としていますが、参考のため、その他の商品表示として保護が認められる例についても考察しておくことにしましょう。

 例示されたもの以外で、商品表示として不正競争防止法による保護が認められることがあるものの代表例として、商品自体の形態があります。保護を認めた裁判例として、東京地判昭和48年3月9日・無体集5巻1号42頁(ナイロール眼鏡枠の形態を、特異性のあるものとして、保護を認めた)、大阪地判昭和59年4月26日・判例タイムズ536号410頁(電線保護カバーの形態について、保護を認めた)などがあります。

 このように、いくつかの裁判例で商品自体の形態について保護が認められていますが、問題もあります。すなわち、商品自体の形態を法2条1項1号で保護するのは、本来特許法などによって審査の上で一定期間だけ独占が認められるべきものを、審査も無しにしかも永久的に独占させてしまうことになってしまう可能性があります。この点を重視して、商品の技術的機能に由来する形態については保護を与えないとする考えもあります(技術的形態除外説)。しかし、東京高判昭和58年11月15日・無体集15巻3号720頁(伝票会計用伝票の不正競争防止法による保護について、商品表示としての保護と特許権などによる保護の間での調整は不要であると判示した)の後は、技術的形態だからといって不正競争防止法による保護を否定する裁判例は見られないといわれています。もっとも、除外といった考え方を取るかどうかはともかくとして、技術的形態である場合には表示としての機能が否定されるないしは弱められることは争いの少ないところであると見られます。

8.4 営業の方法

 その他の営業表示の特殊なものとして、営業のやり方そのものに表示としての機能を認める可能性があります。これを肯定したものとして、大阪高判昭和58年3月3日・判例時報1084号122頁(通信販売カタログによる営業の方法について保護を認めた)が知られています。

 こうした裁判例に対しては、営業自体を独占させてしまうことになって不当である、などといった批判があります。確かに、技術的形態を保護した場合と同様の問題が生ずるものと見られます。

 しかしまた、単なる「ものまね」に対しては、先行者の利益を保護することが具体的妥当性に適うという場合も十分に想像できるところですす。それでも、表示としての保護を認めてしまうというのは、法の趣旨を曲げるものであるとの批判を免れないでしょう。新法が新設した商品形態模倣行為の禁止(法2条1項3号)のように、立法によって、期間を限定して保護を与えるのが本来の解決法だということになろうかと思われます。


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