平成一一年/一一月二九日/判決言渡 同日/判決原本領収/裁判所書記官/大塚善弘 平成一一年(ネ)第三二〇九号 特許出願公告に基づく仮保護の権利侵害禁止請求控 訴事伴(原審・東京地方裁判所平成八年(ワ)第七〇二五号事件)(平成一一年一 一月一日口頭弁論終結) 判決 アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウォルサム、ヒッコリー・ドライブ二一     控訴人(原審原告) サミット・テクノロジー・インコ               ーポレーテッド     右代表者      ロバート・ジェイ・パルミサノ オランダ国一〇七一デーイェー・アムステルダム、ミューセウムプレイン一一     控訴人(原審原告) サミット・テクノロジー・アイル               ランド・ビー・ヴィー     右代表者      ロバート・ジェイ・パルミサノ     右両名訴訟代理人弁護士 近藤恵嗣 愛知県蒲郡市栄町七番九号     被控訴人(原審被告)株式会社ニデック     右代表者代表取締役 小澤秀雄     右訴訟代理人弁護士 松本直樹     同         赤堀文信 主文  本件控訴を棄却する。  控訴費用は控訴人らの負担とする。  本判決の上告及び上告受理の申立てのための付加期間を三〇日 と定める。 事実 第一 当事者の求めた載判  一 控訴人ら   1 原判決を取り消す。   2 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の外科的装置を製造し、販先し    てはならない。   3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。  二 被控訴人    主文一、二項と同旨 第二 当事者の主張   当事者の主張の要点は、以下に付加するほかは、原判決の事実及び理由  欄の「第二事案の概要四争点に開する当事者の主張」記載のとおり  であるから、これを引用する。 一 控訴人ら   被告装置が、本拌発明の構成要伴A、Bを充足することは、当事者間に  争いがなく、また、構成要件C、Eの充足性について、被控訴人はこれを  争うが実質的な反論を行つていない。したがつて、本件では、構成要件D  の充足性のみが問題となるところ、原判決は、以下のとおり、構成要伴D  の解釈を誤つて解釈し、被告装置がこれを充足しないとしたものである。 1 原判決が、構成要伴Dにおける「進行的に変化」の解釈において、  「『進行的』とは、その文言のとおり、時間の経過と共に、順次、一定の  方向に変化することを意株し、変化を「連続的」に限定する必要はなく、  「段階的」な変化も含むものと解され、まして、レンズ又は絞りを角膜  に対して動かすことに限定する理由はない。」(原判決二二頁九行〜二  三頁一行)と認定したことは正当であるが、構成要拌Dの「角膜上の前  記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき  前記ゾーンの全てを前記光スポットによつて走査する」の解釈において、  「角模上の前記光スポットの面積を進行的に変化させること『のみ』に  より」とし、この解釈に基づいて、「光スポットの面積を進行的に変化  させることのみでは、右ゾーン全体を走査することができないものは、  文言上、構成要伴Dを充足するということはできない。」(同二四頁六  〜八行)と判断したことは誤りである。   すなわち、本伴発明の本質は、光スポットの面積を進行的に変化させ  ることで角膜の各部分がレーザーに照射される時間を変化させることに  あるから、光スポットの面積の進行的変化は、除去されるべき角膜の全  ゾーンを走査するための必要条伴であるが、光スポットの面積の進行的  変化を伴う限り、同時に光スポットの位置を変化させることは、何ら本  伴発明の本質を損なわないものである。 2 原判決が、「原告らは、訂正請求において、本伴発明が、光スポット  の面積の進行的変化のみによつて、放射状に厚みが変化するレンズ状の  薄片が除去されるゾーン全体を走査するものである旨の主張を行い」  (原判決二六頁五〜七行)と認定したことも誤りである。   すなわち、被控訴人が無効審判において引用したレスペラント特詳は、  本件発明に対して特許法二九条の二の先願の関係となるところ、同特許  は、本件発のように光スポットの面積の変化にっいて全く開示してい  ななかかたが、一定の大きさの光スポットが移動する範囲を変化させて切  除される角膜の厚さを変化させるものであった。ところが、訂正前の本   件明細書には、「面積」ではなく「領域」という用語が用いられており、  「領域の進行的変化」が「移動範囲の進行的変化」を包含すると解釈さ  れるおそれがあったことから、控訴人らは、本件発明に係る訂正請求に  おいて、「領域」を「面積」と訂正することにより、レスペラント特許   の発明と本件発明とが、特許法二九条の二の意味における同一発明に該  当しないことを明確にしたものである。   したがって、訂正請求の趣旨は、「面積」の変化を必須のものとする  ことにあるが、訂正後においても、光スポットの「面積」の進行的変化  のみによって、除去されるべき全ゾーンが走査されなければならないこ  とは要求されていない。 3 また、原判決が、「訂正後、請求項3は、本件発明の技術的範囲に含  まれなくなり、本件発明の実施態様ではなくなったものである。」(原  判決二八頁六〜七行)と述べたことも誤りである。   すなわち、請求項3を削除しなければならないとの請求人(被控訴人)  の主張に対して、被請求人ら(控訴人ら)は、意図的に請求項3を維持  し、そのことを答弁書に明記したものであって、過誤により楕求項3が  残存したものではなく、したがって、被控訴人、控訴人ら、特許庁のい  ずれもが、請求項3の存在を認識した上で、本件発明に係る訂正が認め  られたものである。   しかも、本件が適用される昭和五〇年特許法においては、必須要件項  が構成要件を明らかにしており、その解釈に当たつては、実施態様項を  含むように解釈することが要請されるから、本件においても、必須要件  項である請求項1のみを切り離して解釈することは許されず、実施態様  項である請求項3を含むように構成要件Dを解釈しなければならない。   したがつて、光スポットの面積の変化が全てのゾーンの走査に不可欠  であれば、その他の走査方法が併用されていても、構成要件Dは充足さ  れるのである。 4 以上のとおりであるから、被告装置は、光スポットの面積の変化によ  り照射時間の差を生じさせるという本件発明の本質をそのまま利用し実  現しており、本件発明の実施例における円形のスポットを、短冊状の複  数のスポットに分けて行つているにすぎないものである。   したがって、被告装置は、実質的にみても本件発明の技術的範囲に属  することが明らかであり、特許請求の範囲を限定解釈する理由はないの  である。 二 被控訴人 1 構成要件Dの文理自体が、面積の「進行的変化」により「前記ゾーン  の全てを」走査することを要求しており、他にも変化することは妨げな  いが、他の変化がなくてはゾーンの全てを走査しないというのであれば、  前記の「進行的変化」に該当しないことが明らかである。「前記ゾーン  の全て」とは、紫外線レーザ光が当たることによつて除去される部分で  あるから、そこが何らかの形で照射されるのは必然的なことであり、控  訴人ら主張のように、他の変化を伴って初めて全てを走査するものでも  この要件を満たすとしたのでは、構成要件D自体が全くの同義反復の無  内容なものになってしまう。 2 レスペラント特許では、境界円に囲まれた一定の領域を設定して、そ  こをくまなく照射するために微小スポットを移動し、次にその領域の大  きさを変化させていくという手法が関示されているが、微小スポットが  領域内をくまなく移動するとは、実効的には、領域の大きさにまでスポ  ット自体を広げておくというのと同じであるから、領域の大きさを変化  させることにより切削量のカーブを作り出すものである。   これに対して、本件発明の訂正前の特許請求の範囲の記載でも、「領  域」の大きさを変化させるとしていたから、レスペラント特許の手法と  区別ができないものであった。そこで、控訴人らは、「領域」を「面積」  と訂正し、スポットの各瞬間の「面積」をゾーンの全体に及ぶように変  化させていくことにより切削量のカープを得る手法だけを意味するもの  とした。   右の訂正の経緯からすれば、本件訂正は、レスペラント特許と異なり、  スポットの面積変化自体が、除去ゾーンの全てに及ぶものに限定する趣  旨であったことが明白である。 3 原判決は、前示のとおり、「訂正後、請求項3は、本件発明の技術的  範囲に含まれなくなり、本件発明の実施態様ではなくなった」と判示し  ているが、そうではなく、請求項1の面積の進行的変化により除去され  るべきゾーンの全てを走査する走査手段に加えて、場所を変化させる走  査手設を特つことを、請求項3は要件として外的に付加しているものと  解釈することが可能である。   しかし、被告装置は、このように解釈した請求項3にも、当然、該当  するものではない。 4 構成要件Dの「進行的変化」は、本来、前後動を指してのことであり、  これに該当しない被告装置は侵害ではない。仮に、進行的変化が、原判  決のいうように一方向の変化を意味するとしても、被告装置はこれに該  当しない。すなわち、被告装置における面積の変化は、大きくなつたり  小さくなつたりしているものであり、そうした変化の中から勝手な時点  を取り出して、一方向の変化が生じているとするのは誤つた解釈である。 理由 一 当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がないものと判断する。   その理由は、当審における主張について、次に項を改めて説示するほか、  原判決の「第三当裁判所の判断」と同じであるから、これを引用する。 二 当審における主張について 1 控訴人らは、原判決が構成要件Dの解釈を誤った旨主張する。   しかし、原判決が、構成要件Dの「角膜上の前記光スポットの面積を進  行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光  スポットによつて走査する」の解釈において、「光スポットの面積を進行  的に変化させることのみでは、右ゾーン全体を走査することができないも  のは、文言上、構成要件Dを充足するということはできない。」(原判決  二四頁六〜八行)と判断したことは、原判決が認定説示した、構成要件D  に関する文理的な解釈(同二二頁五行〜二四頁八行)及び控訴人らによる  本件発明の訂正請求の経緯(同二四頁九行〜二六頁一〇行)に照らして、  正当なものといわなければならないから、控訴人らの主張を採用する余地  はない。   また、控訴人らは、訂正前の本件明細書に、「面積」ではなく「領域」  という用語が用いられており、「領域の進行的変化」が「移動範囲の進行  的変化」を包含すると解釈されるおそれがあったことから、「領域」を  「面積」と訂正し、レスペラント特許の発明と本件発明との区別を明確に  したものであり、訂正請求の趣旨は、「面積」の変化を必須のものとする  ことにあるが、訂正後においても、光スポットの「面積」の進行的変化の  みによって、除去されるべき全ゾーンが走査されなけれはならないことは  要求されていない旨主張する。   しかし、前示訂正請求書の記載(原判決二四頁一〇行〜二五頁一一行)  によれば、控訴人らは、本件発明が、除去されるべきゾーンの全てにわた  り、光スポットの面積を漸進的に増減変化させながらゾーンの全体的面積  を走査する走査手段を具備することのみを訂正請求したことが明らかであ  り、その訂正の前後を問わず、請求項1において、光スポットが右ゾーン  の全体を走査するために他の手段を要することは全く開示されていないも  のと認められる。そして、訂正請求書に基づく訂正請求の内容が、右のと  おり客観的に解釈される以上、控訴人らが、先願の関係にあるレスペラン  ト特許に係る発明と本件発明とを区別するために、どのような主観的意図  により訂正請求を行ったものであるとしても、前記控訴人らの主張は失当  というほかなく、到底これを採用することはできない。   さらに、控訴人らは、被控訴人、控訴人ら、特許庁のいずれもが、請求  項3の存在を認識した上で、本件発明の訂正が認められたものであり、し  かも、本件が適用される昭和五〇年特許法における必須要件項の解釈に当  たっては、実施態様項を含むように解釈することが要請されるから、本件  においても、必須要件項である請求項1のみを切り離して解釈することは  許されず、実施態様項である請求項3を含むように構成要件Dを解釈しな  ければならない旨主張する。   しかし、必須要件項である請求項1における構成要件D自体が、訂正後  において、前示のとおり、光スポットの面積を進行的に変化させることの  みでは、ゾーン全体を走査することができないものを含まないことを明確  にする以上、これを前提とする実施態様項にすぎない請求項3の解釈、あ  るいは、同請求項が本件発明に含まれるか否かによって、前記構成要件D  の解釈が左右されるものでないことは当然であり、したがって、被告装置  が、構成要件Dを充足しないことも明らかであるから、控訴人らの右主張  も、これを採用する余地はない。 三 以上によれば、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却し  た原判決は正当であって、控訴人らの本件控訴は理由がないから、これを棄  却することとし、控訴費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための  付加期間の指定につき、民事訴訟法六一条、六五条一項本文、六七条一項本  文、九六条二項を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第一三民事部 裁判長裁判宮 田中康久    裁判官 石原直樹    裁判宮 清水節 右は正本である。 平成一一年一一月二九日 東京高等裁判所第一三民事部 裁判所書記官 大塚善弘 (印)