Last Modified: 2005年7月9日(土)17時03分08秒

知財判決速報コメント、2005年

By 松本直樹 (御連絡はメールでホームページの末尾にあるアドレスまで。) (2002年分はこちら) (2003年分はこちら...3月までしかないですが) (2004年分はこちら...これもホンの部分的ですが)

  知財判決速報掲載の裁判例にコメントを付けました。主に東京地裁の速報のページを見てのもので、そのそれぞれのケースのページにリンクをしてあります。元は、全部に簡単なコメントを付けるのを目指していたのですが、今年(05年)に関しては、まだほんの少ししか出来ていません(ずっと出来ないかも)。

2005年6月

H17. 6.21 東京地裁 平成17(ワ)768 商標権 民事訴訟事件

 

最高裁 平成17年06月17日 第二小法廷判決
 ダミー原子を使ってリガンド分子の云々の特許の件で、専用実施権の設定のある場合の特許権者の差止請求権の点についてだけ上告受理。そして高裁判決を維持して、差止請求権を認めた。
 制限される根拠はない、とした。実質としても、として、ランニングロイヤリティの場合や、消滅の可能性などに言及している。
 ……一般の全国紙にもそれなりの説明を伴って掲載されましたね。ここの共同通信の記事ならしばらくは残っているかな。
 こういう結論になると特にそうですが、被告の方は、どうしてこの点も上告理由(受理申立理由)にしたんでしょうね。いや、判例法の形成という意味では望ましい行動ですが、もしもこの点で勝っても事案としては勝てないわけですから(実施権者も原告に加わっているので。原審判決の高裁による要旨のhtmlはこちら。)。
H17. 6.17 東京地裁 平成16(ワ)4339 特許権 民事訴訟事件 H17. 6.15 東京地裁 平成16(ワ)24574 不正競争 民事訴訟事件
●H17. 6.14 知財高裁 平成17(ネ)10023 著作権 民事訴訟事件 第2部 中野裁判長
 七人の侍xNHKの武蔵、著作権侵害を否定する原審を支持。
 ……私は、本当の事実関係を良く検討しては居ませんが、被告作品が原告作品から(直接または間接に)影響を受けているとか、原告作品を想起できるもののになっているというのは、或る程度は可能性のある話のようにも想像しています。しかし、そういうのは、むしろオマージュとも思うわけです。原告作品の方だって、それに先行する映画などと同様の関係にあるものはあると思いますし、そういうところで権利主張するものではないよなあ、と改めて思います。
 そういう意味では、侵害かどうかのメルクマールが、先行著作物を「感得」できるかというにあるというのは、ミスリーディングな場合もあるように感じますね。ああ、あれのオマージュなのだな、と見る人が見れば分かる場合があるわけですが、それで侵害とはならないわけです。この“分かる”というのと「感得」というのとは違う、とするわけですが、どうもこれは、「感得」と言うのがいけないのではないか、という気もしてきます。

2005年5月

H17. 5.31 東京地裁 平成15(ワ)11238 特許権 民事訴訟事件 H17. 5.30 東京地裁 平成15(ワ)2644 特許権 民事訴訟事件 H17. 5.30 東京地裁 平成15(ワ)25968 特許権 民事訴訟事件
H17. 5.26 知財高裁 平成17(ネ)10055 著作権 民事訴訟事件 第4部 塚原裁判長 キャッシュ
 コンピュータソフトの画面表示の著作権(の侵害)が主張された事案。「創作的な表現」を認めず、請求棄却を支持。「原告各画面表示には,原告ソフトウェアの機能ないし操作手順を普通に表現したものにすぎない」などの理由を摘示。
 ……原審はこれで、東京地裁29部(飯村裁判長)です。こちらを見ると、画面を対比した別紙も掲載されています。別紙2の対比図をjpegにしてみました、これ MicroLabBS2.jpg (50 KB) です。著作権については、かなり詰まらないものでも一応は成立する(侵害にはなかなかならないが)、という理解で居ますが、これはなるほど余りに当たり前の画面表示です。これで著作権を認めるのは却ってミスリーディング、ということなのでしょう。
H17. 5.24 東京地裁 平成15(ワ)17358 不正競争 民事訴訟事件
H17. 5.17 東京地裁 平成15(ワ)12551等 著作権 民事訴訟事件 H17. 5.12 東京地裁 平成16(ワ)10223 著作権 民事訴訟事件

2005年4月

H17. 4.27 東京地裁 平成16(ワ)26771 著作権 民事訴訟事件 H17. 4.27 東京地裁 平成16(ワ)20335 特許権 民事訴訟事件 H17. 4.27 東京地裁 平成16(ワ)12723 不正競争 民事訴訟事件 H17. 4.19 東京地裁 平成16(ワ)20828 特許権 民事訴訟事件
H17. 4.19 東京地裁 平成16(ワ)15892 特許権 民事訴訟事件
H17. 4.13 東京地裁 平成16(ワ)17735 商標権 民事訴訟事件 40部(市川裁判長)
 原告の登録商標は「レガシィクラブ」(文字は、等大,等書体,等間隔にて一連に横書き、第16類 印刷物)、被告の雑誌は「Club LEGACY」で、「クラブ・レガシィ」とカタカナで書かれている部分もある。争点は、類否と権利濫用。類否の関係では、観念について、「レガシィクラブ」が一体の物で「レガシィ」と非類似として登録されている、との被告主張などがある。濫用の関係では、商標法51条1項による取消し理由を主張(同項は「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」)。被告は、被告誌が先行していたところに原告誌が始まったとして「混同」を主張。
 判決は、外観は異なるとしたが、称呼と観念において類似として、類似性を認めた。「レガシィ」の観念は、「『伝統』等の意味又は雰囲気」となるとし、「本件商標から,自動車『レガシィ』の愛好者の集まりとの観念が生ずるものとまで認めることはできない。」とした。また、濫用の関係では、原告が「一体」との主張を積極的にしたわけではない、などの指摘がある。さらに、括弧中の「なお」書きで、自動車の「『LEGACY』商標との関係では,本件商標権の登録は無効であると解する余地があるとしても,既に5年の除斥期間(商標法47条)が経過しており,その登録の無効を請求することはできない。」として、さらに本件の関係では権利濫用とは出来ないとしている。
 商標法51条1項による取消理由の主張に対しては、混同などの証拠がない、とした。
 ……この判決は疑問です。原告の雑誌はこれで「新型レガシィにこだわる専門誌」とされています。ついでに原告アポロ出版の雑誌のリスト被告の雑誌はこれで、「レガシィ愛好家にうれしい情報が盛りだくさん」という雑誌です。ついでに被告ニューズ出版のクルマ雑誌のリスト。当然のことながら、どちらもスバルの「レガシィ」(左のリンク先は富士重工のページ)についての雑誌です。ですから、本件判決の「本件商標から,自動車『レガシィ』の愛好者の集まりとの観念が生ずるものとまで認めることはできない。」というのは、本件の事案に関していうと違います。
 しかし、次のような理屈もあるには違いないです。本訴請求は、あくまでも登録に基づくもので、原告の実際の雑誌とかは一応は無関係です。そう思うと、印刷物を指定しての「レガシィクラブ」が登録されているだけなのであり、これはスバルの自動車の関係に限定されるものではなく、判決の摘示はもっともです。商標登録自体は無限定だ、ということです。
 でもやはり、この事案については問題ありと思います。実際にはどちらもスバルのレガシィについての雑誌なのであり、そういう意味で「レガシィ」の部分には識別力がありません。「クラブ」の方も勿論、雑誌の正確に応じた説明的な言葉ですから、識別力は小さいです。ですから、「レガシィクラブ」の類似範囲は極めて狭く解されるべきです。それでも「Club LEGACY」とは類似だとする余地もあるかも知れませんが、本件の判旨のロジックとは違う話です。
 また、「レガシィ」という言葉について、「伝統」とかと理解するのは、今の日本人にとってはむしろ一般的ではないようにも思います。スバルのレガシィは、普通には結構有名です。グーグルで見ても、このようで、スバルのレガシィの関係ばかりが上位に来ます。(7月7日加筆: 先日は確かそうだったのですが、今見たら、「レガシーフリー」(パソコンの旧式のポートなどが無いこと) の関係が結構多いですね。)
 それでもさらに、判決としてはこれも仕方がないのかも知れません。上記のような不適切さは、登録制を取っているが故の限界ないし困難であり、制度がそうなっている以上は仕方がない、のかも知れません。また、被告の側で、スバルの「レガシィ」と当然に受けとめられるであろうことの主張および立証が不足だったのかも知れません。裁判官には、自動車の好きな人は余り居ないのであり、用意周到にしないといけないのですね、どうやら(自戒を込めて)。
 なお、上記のように本件では、括弧書きでですが、除斥期間経過の後には権利濫用との主張が出来ないとされています。これはもっともと思いますが、議論のあるところです。
 さらに付言です。この判決は、スバルの「LEGACY」との関係で本件商標「レガシィクラブ」の登録の有効性に疑問があるのを認めていますが(でも除斥期間、というわけです)、話の趣旨はよく分かりますが、方向に疑問を感じます。「レガシィ」に関する雑誌として、スバルと無関係の出版社が「レガシィクラブ」という雑誌を出すのはOKだと思いますし、ならばそれを商標登録するのも良いと思うのですよ。ただ、その商標登録で「レガシィ」部分を根拠とする類似による権利主張を認めるのは、何ともおかしいわけです。それで、そうなるとおかしいからといって、「レガシィ」との関係で「レガシィクラブ」登録を無効とするべきかというと、そうではなくて、類似の範囲を狭く考えれば良い話だと思うのですよ。本件判決は、類似の範囲ないし広さを所与のものとして狭くは出来ないとしているようなのですが、それはもっともな考えと見える一面もあるものの、私には違うように思えます。
(7月7日加筆: 同業の方との昼食の際に、この裁判例の話をしました。M先生は、原告の登録自体に問題があるのではないか、という方向のご意見でした。レガシィについての単行本になら、「レガシィクラブ」という題名でもOKだが、定期刊行物の商標として、ましてそれを登録するというのは、スバルに勝手にやるのはマズイのではないか、という訳です。しかし、商標法の当録欠格事由には当たりそうにないと思います。また、仮に著名と言えるなら、使うことが不競法の2号の不正競争になる可能性がありますが、実際に「レガシィ」についての雑誌だというなら、不正というのもおかしいように思えます。単行本なら良いというのと整合的に雑誌だけダメというのは無理ではないでしょうか。
 それから、噂話で聞いたのですが、被告の方がむしろスバルの許諾を得ているようですね。それでどうなるというものか、分からないのですが。)
H17. 4. 8 東京地裁 平成15(ワ)3552 特許権 民事訴訟事件

2005年3月

H17. 3.31 東京地裁 平成16(ワ)10402 特許権 民事訴訟事件 H17. 3.31 東京地裁 平成15(ワ)21451等 商標権 民事訴訟事件 H17. 3.30 東京地裁 平成16(ワ)25661 商標権 民事訴訟事件 H17. 3.30 東京地裁 平成16(ワ)12793 不正競争 民事訴訟事件 H17. 3.30 東京地裁 平成15(ワ)26571 不正競争 民事訴訟事件 H17. 3.30 東京地裁 平成15(ワ)20874 特許権 民事訴訟事件 H17. 3.30 東京地裁 平成15(ワ)1068等 特許権 民事訴訟事件 H17. 3.25 東京地裁 平成16(ワ)6531 特許権 民事訴訟事件 H17. 3.25 東京地裁 平成16(ワ)16483 特許権 民事訴訟事件 H17. 3.23 東京地裁 平成16(ワ)20488 不正競争 民事訴訟事件 H17. 3.23 東京地裁 平成16(ワ)16747 著作権 民事訴訟事件 H17. 3.18 東京地裁 平成15(ワ)18472 特許権 民事訴訟事件 H17. 3.16 東京地裁 平成16(ワ)10266 特許権 民事訴訟事件 H17. 3.15 東京地裁 平成15(ワ)3184 著作権 民事訴訟事件 H17. 3.10 東京地裁 平成16(ワ)11289 特許権 民事訴訟事件 H17. 3.10 東京地裁 平成15(ワ)5813等 特許権 民事訴訟事件

2005年2月

H17. 2.25 東京地裁 平成16(ワ)18865 不正競争 民事訴訟事件 H17. 2.25 東京地裁 平成16(ワ)17488 特許権 民事訴訟事件 H17. 2.25 東京地裁 平成16(ワ)11487 特許権 民事訴訟事件 H17. 2.23 東京地裁 平成16(ワ)10431 意匠権 民事訴訟事件 H17. 2.23 東京地裁 平成15(ワ)7588等 不正競争 民事訴訟事件 H17. 2.17 東京地裁 平成15(ワ)16706 特許権 民事訴訟事件 H17. 2.16 東京地裁 平成16(ワ)3967 実用新案権 民事訴訟事件 H17. 2.15 東京地裁 平成15(ワ)27084 不正競争 民事訴訟事件 H17. 2.10 東京地裁 平成15(ワ)19324 特許権 民事訴訟事件 H17. 2. 1 東京地裁 平成16(ワ)16732 特許権 民事訴訟事件

2005年1月

H17. 1.26 東京地裁 平成16(ワ)6353 特許権 民事訴訟事件 H17. 1.26 東京地裁 平成16(ワ)13922 特許権 民事訴訟事件 H17. 1.20 東京地裁 平成15(ワ)25495 不正競争 民事訴訟事件 H17. 1.18 東京地裁 平成16(ワ)8967 特許権 民事訴訟事件

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