Last Modified: 2017年09月26日09時32分 、ウェブ頁当初掲載: 2017年9月25日

ベニューについてのメモ

By 松本直樹 
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 TC Heartland v. Kraft という件の連邦最高裁判決が、本年(2017年)5月22日に出ています。特許侵害訴訟での裁判地の選択肢が、極めて限定されることになりました。テキサス州東地区の事件数が正常化しそうです。ただし、米国法人の被告についての判決であり、日本を含む外国法人については別論です。
最高裁のサイトの判決文PDF判決文PDFのキャッシュそのテキスト

目次

1. まとめ

 被告が米国会社の場合の特許侵害訴訟の裁判地の選択が、これまでは殆どどこでも大丈夫だったものが(少なくとも、広く流通する商品の場合にはそうなる。商品の流通がある限りOK。なのでテキサス州東地区と特に関係の無い被告でも同地区に訴訟提起できた)、今回の最判によると、米国会社被告の場合には、被告の設立州か、支店等があって侵害被疑行為をしている州か、に限られることになったと解されます。

 この結果、テキサス州東地区の侵害訴訟は激減することになりそうです。ただし、被告が外国会社だと本件の対象外なので、そういうのばかりが残るのかも知れません。

2. 条文

 問題は、28 USC 1400(b) の解釈(特にその前半の解釈)における 28 USC 1391(c)(2) の意義です。1391(c)(2) は次の通り規定しています:

(c) Residency. - For all venue purposes -
((1)は略、自然人について domicile の地が reside の地だと規定している。)
(2) an entity with the capacity to sue and be sued in its common name under applicable law, whether or not incorporated, shall be deemed to reside, if a defendant, in any judicial district in which such defendant is subject to the court’s personal jurisdiction with respect to the civil action in question and, if a plaintiff, only in the judicial district in which it maintains its principal place of business; and (以下略)
コーネルの条文のページ(28 USC 1391)
コーネルの条文のページ(28 USC 1400)

 すなわち、会社等の被告は、当該裁判所の personal jurisdiction に服する限りどこの地区にもついても reside(所在)していると見なされる、というのです。そして 28 USC 1400(b) の前半は、特許侵害訴訟について、被告が reside している場所での裁判を適正とする規定ですので、この組合せ(=1400(b)の前半を1391(c)(2)に従って読むこと)により、personal jurisdiction が認められる限りベニューも適正とされる、ということになります。これがこれまでのCAFC判例であり実務でした(少なくとも1990年の VE Holding 事件CAFC判決以来)。条文上も素直です。

 このように、前半と1391(c)(2)に基づいて、広くベニューを認めてきたのが近年の実務です。テキサス州東地区に集中的に特許訴訟が提起されていますが、多くはこうした理屈でベニューが適正とされるとしています。その上で、原告が自分に有利な裁判所として選択しているわけです。

3. 今回の結論の条文上の根拠

 もっとも、条文解釈についてこれが当然かというと、28 USC 1400(b) の後半を考えると、そうでもないです。この点は今回の最判は重視していないのですが。後半は、制限的に不法行為地のベニューを規定しています。1400(b)の全文は次の通り:

(b) Any civil action for patent infringement may be brought in the judicial district where the defendant resides, or where the defendant has committed acts of infringement and has a regular and established place of business.

 後半は不法行為地に基づくベニューを規定してはいますが、不法行為地と言うだけでは不足で、has a regular and established place of business が必要とされています。支店のようなものが必須ということですね。考えてみると、後半がこのように制限的に規定しているのに、前半の resides を無限定に解釈するのでは(1391(c)(2)によるなら無限定になるはずですが)、後半の存在意義が無くなります。

4. 今回の議論は主には法改正の経過など

 上記のように後半との整合性が、条文上の根拠になると思うのですが(1391(c)(2)を排除するというなら)、今回の最判はそういう議論はしていません。かなり昔の最判と、その後の法改正の経過が議論されています。

 1400は改正されていませんが、1391は2度の改正があります。その辺の細かい話は判決文を読んでいただきたいですが、1957年の Fourco v. Transmirra が、1391に従って1400を読むことはしないとしたのが重要な根拠になっています。でも、当時の1391は reside の定義規定の体裁ではなかったのですね、単にベニューの一般規定の形だったのです。

 1391はその後の1988年の法改正で現在のような定義規定の形になったので、それなら1400の解釈において1391に従うのがむしろ素直とも言えそうです。CAFCはその通り、1990年の VE Holding Corp. v. Johnson Gas Appliance Co., 917 F.2d 1574 (1990) で、1391は1400に適用されるとして、ベニューを広く適切とする結論をとりました。

 しかし今回の最判は、定義規定に変えた立法時に1400を対象に入れるとの考えは明示されていなかったと言っていて、それで1400は1391と無関係に解釈するのだとの結論です。

 この辺の、判例と立法の関係の認識ないし議論の仕方は、日本から見ると結構違うように思います。日本でなら、法律の条文がもっと重要なはずです。それに対して米国では、1957年の Fourco最判が重要、それ自体が極めて重い、という扱いなのですね。判例法の国だというと、それもありなのかも知れません。

 いやそれにしても、ここでの問題は結局、制定法の解釈なのですよね。それなのに最判を重要視しすぎで奇妙なように感じられてなりません。1400(b)の後半の存在を考えると、結論的には分かるんですけど(条文を重視するなら、後半に依拠して同じ結論になる、ということ)

5. Personal Jurisdiction と Venue

 この件の議論を理解するのには、jurisdiction と venue について基本的な理解が必要です。十分な説明をするのは私には出来かねるのですが、personal jurisdiction と venue というのは、どちらも、裁判所の権限ないし担当の地理的な限界についての話です。簡単に言えば、personal jurisdiction は、裁判所の権限の地理的な限界であり、venue の方は、それを前提とした中での適切な裁判所の割り当てです。

 1391では、それらが交錯するような規定になっていて、奇妙というか、なんというか、ですが。すなわち、上でも書いたように、当該裁判所の personal jurisdiction に服する限りどこの地区にもついても reside (所在)していると見なされる、と規定されています。連邦地裁の personal jurisdiction に一定の限界があることが前提となっている規定です。実際、連邦地裁の personal jurisdiction は、所在する州の州裁判所のそれと同じとされています。

 これは、考えてみると妙な関係ではあります。連邦地方裁判所は、連邦の機関であるのに(だったら連邦全域に及んでもおかしくなさそうなのに)、その権限の地理的限界は州裁判所と同じなのですね。これは、連邦民訴規則(Federal Rules of Civil Procedure)の Rule4 で、州の手続き規則に従うとなっているのが根拠と説明されます。

 その前提で、1391によれば、被告が法人の場合のベニューについては、それ以上の限定はしないとしているわけです。

6. Personal Jurisdiction の拡張の歴史

 私が米国に留学したのは1990年から91年なのですが(その後にシリコンバレーで勤務)、そのころまでに各州の personal jurisdiction は拡大され、関係が少しでもあるところになら訴訟提起が出来るようになっていました。

 元々は、州内での訴状送達が必要でした。それが、International Shoe Co. v. Washington, 326 U.S. 310 (1945) で大いに拡大されました。簡単に言って、minimum contact が要件でそれで足りる、となったのです。80年代にはいろいろ判決が出て(それで、上記留学時にはホットな論点だった)、限界を超えているとして否定された件もありますが、まあかなり広く認められることが定着した時期だったと思います。

 現在でも、基本的にかなり広く personal jurisdiction を認めていると言えます。

 もっとも、ここ数年の連邦最高裁では、やや制限的なことをいう判例が出ているようです。例えば次の説明:

https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/globalnews/backnumber/pdf/global1505-06_04.pdf

 上記の文章では、そうした判例として、Goodyear Dunlop Tires Operations, S.A. v. Brown, 131 S. Ct. 858(2011))や、Daimler AG v. Bauman, 134 S. Ct. 746(2014)が取り上げられています。

7. 外国会社については

 さて。外国会社(日本を含む)についてどうなるのか、興味の持たれるところです。今回の最判は、n2で、この外国会社の問題を取り上げないし意見表明もしない、と明言しており、今回の判決の射程外であることは確かです。でも、この機会に、制定法がどうなっているか、また今回の論旨からはどうなる理屈なのか、というのを考察しておくのは意義がありそうです。

 制定法から見ての理屈としては、今回の判決の理屈を外国会社にとって好都合なように当てはめられる可能性はあります。1400(b)と1391との関係について、今回の判決は、特許侵害については1400(b)だけで行くのだ、としました。外国会社についても特許侵害については1391を排除して1400(b)だけで考えるのだ、と言い得るのだとすると、好都合です。外国会社については、1391(c)(3)でどこでも可能とされているもので、条文の関係で言えば、今回の判決が排除した1391(c)(2)と同様だからです(定義規定ではない点の違いはありますが)。1391(c)(3)は次のとおりの規定です:

(3) a defendant not resident in the United States may be sued in any judicial district, and the joinder of such a defendant shall be disregarded in determining where the action may be brought with respect to other defendants.
コーネルの条文のページ(28 USC 1391)

 しかし、1400(b)だけだと、米国内に reside しておらず a regular and established place of business も有さない外国人法人については、米国内に適切なベニューが無くなってしまいます。いかにも、外国法人のことを考えていない規定なのですね、これだけだと。それでどこでもダメというのでは無理があるおかしな話なので、整合性から言って1391(c)(3)は適用されるべきと言う方がもっともです。

 さらに、今回の最判のn2で言及されている最判 Brunette Machine Works, Ltd. v. Kockum Industries, Inc., 406 U. S. 706 (1972) があり、この件が、まさに当時の1391(d)と1400(b)のどちらが外国会社について決めるのかが争われて、1391(d)によりどこでも訴えられ得ると判示したものです。そういう判例があるので、外国会社の場合のベニューはどこでも良いとされそうです、おそらくは今でも。

 とはいえ、上記の Daimler の事件のように、外国会社に対する関係で謙抑的とも見える最判も出ていますから、特許侵害訴訟のベニューの点でも違う結論の可能性もゼロではないと思います。。


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