Last Modified:
「MMX」は商標か?
松本直樹
(本ページのための書きおろし、初稿は4/30/1997、12/27/1998に誤字を修正)
インテルと、その互換プロセッサー・メーカーであるAMDおよびサイリックスとの間で、「MMX」という名称を巡って法廷での争いが生じていました。
この紛争は既に4月21日に和解によって終了しましたが、興味深い内容を含んでいるので、簡単にコメントを書いてみました。
1997年3月14日、インテルが、AMDとサイリックスを相手取って、CPUにMMXという名称を使うことの差し止めを求めてデラウェア連邦地裁に訴を提起しました(インテルのニュースリリース)。これは、AMDが4月2日(日本では3日)に「AMD-K6」を正式に発表していますので、それに先だって訴を提起したということです。なお、この発表の時点では、英語での正式名称は「AMD-K6TM MMX processor」となっていますが(AMDの英文のニューズリリース)、日本語では「 MMX(R)命令対応AMD-K6(TM)プロセッサ」と表現されています(AMDの日本語のニューズリリース)。この差異は、下記のように日本では「MMX」の商標登録があることが理由になっていると思われます。また、日本語の場合のように「MMX」が名称の一部ではなくてその修飾語のようになっていれば、インテルのいう商標権侵害というのもいかにも難しいことになるわけですが、英語名ではここが名称の一部となっているために、インテルの主張も或る程度理屈の通るものになっています。
これに対してAMDは、MMXは multimedia extentions の generic acronym (一般的な頭字語)である、と反論をしていました(AMDのニュースリリース)。
まず、サイリックスが和解しました(サイリックスの4月1日付けのニュースリリース)。サイリックスは、「MMX」という言葉を使うに際してインテルへの一定の言及をすることになるようです。
この同じ4月1日に、インテルとAMDとの訴訟においては、インテルによる仮差し止め(preliminary injunction ないし temporary injunction)の申し立てが却下されました(AMDのニュースリリース)。
この後、AMDとの訴訟も、4月21日に和解によって終了しました(和解を伝えるインテルのプレスリリース、同じくAMDのプレスリリース)。AMDは、「MMX」がインテルの商標であると認めるが、その前提で殆ど自由に使用できるライセンスを受けるという内容です。AMDの和解もサイリックスの場合と実質的に同内容だと思われ、インテルの面子を立てつつ、実質的にはAMDにとって支障が無い、という和解であると見られます。名目の方を重視して“インテルの勝ち”と報道している記事もあります(News Com の4月21日付けの記事)。
AMDの主張は、上記のように、MMXは multimedia extentions の generic acronym (一般的な頭字語)である、ということです。しかし、この主張は少し疑問です。MMXというときには、マルチメディア拡張機能一般ではなく、あのMMX命令セットを意味していると思われますから。
そもそものインテルの主張も相当に疑問です(もっとおかしい? )。MMXといっても、CPUの出所表示をする商標としての意味で使っているのではなく、命令セットないし機能を意味しているに過ぎないのですから(英語名の方では、CPUの名称の一部になっているので微妙な面がありますが、それでも“MMX命令セットに対応している”ということを表す趣旨で名称の一部に使っているとは言えましょう)。この辺の考慮から、インテルもAMDが使用を継続できる和解に応じたのでしょうか?
本件の問題は、最終的にはこうした「MMX」という言葉の意味によって決まるべきものであり、この点では日本でも米国でもあまり大きな違いはありません。しかし、日本での商標権については、登録主義を取っていることから、法律的には問題の現れ方がやや違ってくるのは確かです。
3.1 日本での商標登録
この点については、NECが登録していた商標権を1996年12月にインテルが譲り受けたという報道がされています(日経Biztechに掲載された3月25日付け日経バイトの記事およびPC-WATCHのK6の発表を伝える記事)。このために、日本での名称使用は少々難しいとAMD自身も考えているように見られます。AMDが和解が必要と考えた理由は、この辺にもあるのかもしれません。
もっとも、AMDはジェネリックであるとの主張をしているわけですから、たとえ登録があるにしてもなお同様の主張をすることもできるようにも思われます。この登録の対象が、厳密にはどういう商標なのか、私は調べてありませんが(すいません)、一応、「MMX」という文字列だとしますと、AMDとしては、
自社の商品名には「MMX」という文字が含まれているが、その部分はマルチメディア機能を示しているにすぎず、CPUの名称としての識別力がないから、全体としてインテルの商標とAMDの商標とは非類似である
との主張をすることが考えられます。
3.2 米国でのインテルの主張
米国では、インテルもMMXの商標登録を有しているわけではないようです。というか、米国の商標法(ランハム法)では、日本の商標法とは違って、使用主義が原則となっており(近時の法改正で intent to use だけでも登録できるようにはなっていますが)、その前提での主張をインテルもしているわけですね。
この結果、そもそも「MMX」商標の権利がインテルにあるのかどうかが争点となるわけです。その上で、上記のような類似かどうかという議論も可能なわけですが、まあ内容としては同じことですね、これらは。
3.3 比較
日米の間でこうした差異があるとは言えるわけですが、これが実質的な相違であると見るべきかどうかは、疑問です。権利がそもそも認められるかどうかが違うというと、ずいぶんな違いのようでもありますが、中身を考えれば、実は大して違わないと思うのですが。
インテルとしては、常に互換CPUメーカーに対して牽制を仕掛けているわけですが、今回は商標権を持ち出してきたのは、どうしてでしょうか?
定かなことは分かりませんが、特許権や著作権については一応の決着がついてしまっていることが一つの理由だと思われます。AMDとの間では、既に和解が成立しています(私も詳細は知りませんが、セカンドソース契約があったことがAMDのよりどころとなって勝ち取った和解と言えそうです)。また、インテルとサイリックスの間では、サイリックスのプロセッサがIBMかトムソンによって製造される場合にはこれらの会社の得ているライセンスが及ぶ、という判決があります(サイリックスが勝訴したCAFC判決)。
http://homepage3.nifty.com/nmat/MMX.HTM
松本直樹のホームページへ戻る
御連絡は、メールアドレス naoki.matsumoto@nifty.ne.jpまでお願いします。
(なお、スパムを減らすように、上では全角文字にしてありますが、実際には全部半角文字にしてください。)
(HTML transformation at 23:46 on 11 May 1997 JST
using WordPerfect 5.2J with my original macro HTM.WPM)