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弁理士能力担保研修Q&A(04年分)
〜特定侵害訴訟代理業務のための研修の講師をした際のメールでのやりとり〜

By 松本直樹 
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 弁理士能力担保研修の掲示板(04年分) メールでのQ&A05年分

 いただいたご質問への返事のメールを掲載しておきます。頂戴したメールの引用を文中でして居るので、これだけで問答として理解できると思います(一部は、頂戴したメールの方も掲載してありますが)

(2005年4月24日追記: このファイルは、2004年に弁理士の特定侵害訴訟代理業務のための研修の講師をした際、頂戴したメールでの質問への返事をまとめたものです。04年当時の、Nさんの掲示板でのディスカッションについては、先日、こちらにまとめて掲載しました。今更ながらですけど。05年も講師をやることになったようなので、その参考のためにも掲載しておきます。05年のクラス7の方 (いや、それ以外でも良いです) 、ご質問を歓迎します。)

(2005年8月8日追記: 05年のご質問は極めて少なくて、初めてのものを昨日頂戴したばかりです。なので、このファイルの末尾に付けることにします。 05年9月19日: 左のように書いていましたが、やはり、05年分が少し増えたので、別ファイルを作りました。)


1. 104条の2

 ●●●● さん、メールをありがとうございました。松本です。 | 特許権侵害訴訟において、イ号物件が発明の構成要件を充足するかどうかの証明責任 | は、特許権者側にあると思います。  議論のあり得るところですが、侵害を立証することは原告の責任であるにして も、要件を充足するかどうか、というのは違うと思います。これはそもそも、証 明の対象ではありません。何を実施しているか、という事実は、基本的には原告 の立証の対象ですが、そこで厳密にどういうものなのかが確定した上での、それ が技術的範囲に属するかどうか、すなわち要件を充足するのかどうか、は、あて はめ判断であって、事実認定ではなく、証明の問題でもありません。  ただ、議論があり得る、というのは、この当てはめも原告の主張すべき要件事 実だとの説明が一般的なようなんですね、実際。確かにそうした論証も主張すべ きこととは思いますが、それは証明の問題ではないとは思います。原告の主張す べき要件事実とする論者も、それはそう考えていると思います。  証明の対象は「事実」であり、弁論主義で当事者が主張すべきとされるのも 「事実」です。これに対して、法は裁判所の知るところ、とされます。「要件事 実」というのも、法の要件に合致するとされるところの具体的事実、とされてお り、当てはめ自体は違うはずなのです。 | しかし特許法104条の2には、侵害訴訟において、特許権者が侵害の行為を組成し | たものとして主張する物を否認するときは、相手方が自己の行為の具体的態様を明ら | かにしなければならない、と規定されています。 | | 特許法104条の2があったとしても、イ号物件が発明の構成要件を充足するかどう | かを、特許権者が証明できない場合、特許権者の敗訴だと思っています。この考えは | 正しいでしょうか?  正しいとは言いかねます。侵害の立証は原告の責任であり、それが真偽不明な ら請求棄却、というのは原則としては良いです。でも、証明できない、という話 の対象についてが上記のような疑問があるのに加えて、104条の2のためにこの 点でご指摘のような形でそういう状況が生じることはないと思われます。  条文は次のようになっているわけです: | 第104条の2(具体的態様の明示義務) | 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、特許権者又は専用実施権者が | 侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様を否認すると | きは、相手方は、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない。ただ | し、相手方において明らかにすることができない相当の理由があるときは、この | 限りでない。  被告が「具体的態様を否認するとき」には、「自己の行為の具体的態様を明ら かに」せよ、と言うわけです。原告は、何らかの具体的態様を主張し、それが技 術的範囲に属すると主張するものであり、それに対して被告が放っておいた場合 に証明できていないとの理由で請求棄却になることはないです。放置したら、原 告主張の具体的態様なのだと認定され(敢えて言えばその様な自白ととれるは ず)、それが技術的範囲に属するかどうかが判断されます。主張された具体的態 様を否認するなら、但し書きによるのでなければ、自ら明らかにする必要があり ます。 | また相手方は、イ号物件が発明の構成要件を充足するかどうかを、特許権者が証明で | きてない場合でも、自己の行為の具体的態様を明らかにするべきでしょうか? | それとも、特許権者が証明できた後に、自己の行為の具体的態様を明らかにするべき | でしょうか?  「イ号物件が発明の構成要件を充足するかどうかを、特許権者が証明できてな い場合でも」、というのは、最初に書いたようにおかしな論述です。  原告主張の具体的態様を否認するなら、自ら明らかにする必要があります。こ れはまさに104条の2の規定しているところです。  さらに、実際的には、被告の側が“侵害の証明がない”と主張したりするのは、 まったくダメ、というのが現在の実務です。  ・2004年6月10日(木)11:33 松本直樹 PS この話は、土曜日に大いに取り上げさせていただこうと思います。それま でにさらにご指摘があれば頂戴しようと思い、ご返事を書いています。  ●●●● さん、メールをありがとうございました。松本です。 | ところで、特許法104条の2について、再度質問があります。 | イ号物品の具体的態様を証明にするのに、時間・費用がかかることがあります(特殊 | な測定装置を使わないと測定できない場合など)。  そうした事項までが、「具体的態様」なのか、問題があり得ると思います。 | この場合、原告・被告どちらかで具体的態様を証明すべきなのかが、疑問になりまし | た。 | 原則として、原告で具体的態様を主張・立証する必要があり、被告が否認する場合は | 自己の具体的態様を明らかにする必要がある、のはわかります。 | しかし、原告で主張する具体的態様の証明が十分にされていないときでも、被告は、 | 否認する場合自己の具体的態様を明らかにする必要があるのでしょうか?そうである | とすると、原告はイ号物品の具体的態様を何ら証明しなくて、主張だけすればいいこ | とになってはしまいませんか?  104条の2により、原告は、具体的態様については主張だけすれば良くなった、 という面もあるとは思いますよ。被告の立証内容で満足なのであれば。元々、被 告との間に争いがなければ、証明というのは不要なものですが、それに加えて、 被告の方で明らかにせよ、という条文があるのですから。  「原告・被告どちらかで具体的態様を証明すべきなのか」という話は、具体的 態様について主張の対立がある場合なら、双方が自己の主張を基礎付けるように 証明の努力をする、ということです。その上でもしも不明なら、証明責任の問題 として、侵害が証明されていないとして請求棄却、というのもあるかも知れませ ん(被告主張の態様でなら非侵害となるというのを前提として)。ただし、実際 にはこの点もどちらかの心証を得るのが普通であり、不明として証明責任で決め る、というのは例外的です。  ご質問に戻って、「しかし、原告で主張する具体的態様の証明が十分にされて いないときでも、被告は、否認する場合自己の具体的態様を明らかにする必要が あるのでしょうか?」とのお尋ねですが、原告の証明が不十分どころか、全く無 くても、否認するなら明らかにせよ、というが104条の2の規定です。そう書い てあるでしょう?  しかし、数値限定やヘンなパラメータの特許などについて、原告が無責任な主 張をしてきた場合には、被告の方の負担が高くて不当なのではないか、というお 考えなのだと思います。そのご心配は、もっともな場合はあると思います。ただ、 それでも或る程度の対応を被告が求められるのは仕方がないと思われます。  それでも、ヘンなパラメータの測定までをしないといけないか、問題があるか も知れないですね。それが冒頭に書いたところではあります。でもどちらかとい うと、それは、その特許が成立していることの方が問題なのでは? 仮にその特許 が有効なのであれば、そしてそうした測定の結果として侵害かどうか決まるので あれば、侵害を否定しようとする側も測定をせざるを得ないように思われます。  ・2004年6月10日(木)14:38 松本直樹

2. 証拠の標目

 ●●●● さん、メールをありがとうございました。松本です。 | 訴状と共に提出する証拠の標目というのは、 | 証拠方法の標目と考えてよろしいのでしょうか?  そうですね。私自身、むしろ「証拠方法」と書いてますね、訴状などの項目名 としては。  証拠方法、とか、証拠資料、とか、その辺りの用語のご説明もしたいと思いま す。

3. 廃棄を求められる半製品とは?

 ●●●● さん、メールをありがとうございました。松本です。 | 1.差止請求の趣旨で、半製品の廃棄を求める場合の記載の仕方ですが、 |   テキスト4の11頁では「製品としては完成していなくとも、特許発明 |   の構成要件としてはすべてこれを具備したものであることを明確にす |   るよう、括弧書きを付すなどの工夫をするとよい」とありますが、半 |   製品でも全ての構成要件を備えていなければならないのでしょうか?  「ならない」か、というと、そうでないものも対象として考えられると思いま す。でも、扱いが違うと思われます。  すべてを備えては居ないとすれば、それ自体を侵害品とは言えないですよね?  特許法100条2項は次のようになっています: | 2 特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行 | 為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生 | じた物を含む。第百二条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設 | 備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。  この文中の組成物としての「廃棄」の対象になるのには、構成要件をすべて備 えているのが原則と思われます。そうでないと、その半製品を扱うこと自体は侵 害行為でないですから、組成物にもあたらないと思われるからです。  でも、「その他の侵害の予防に必要な行為」と言えることはあると思うので、 そういう扱いでの可能性はあると思います。  もう一つ、他に用途がなければ、間接侵害にあたって、そういう意味で侵害と みなされるので、それの組成物としての廃棄の対象になる、というのも議論でき そうですね。 (……なお、以上の話は、すべて、一つの考え方に過ぎないものではあります。) | 2.一方、テキスト3の5頁では半製品の記載として「別紙被告製品の外 |   観の構造を備えているが製品として完成するに至っていないもの」と |   ありますが、この程度で強制執行の際、対象となる半製品を特定でき |   るのでしょうか?  争いになることは考えられますね。でも、理屈としてはこれくらいでよいと考 えられているわけですね。 | 3.均等の第4要件、第5要件は、原告は訴状に積極的に記載した方が良 |   いのでしょうか?  均等主張をするなら、記載した方がもっともと思います。ただ、証明責任・主 張責任が気になるなら、その様に書けばよいと思っています。すなわち、  被告が反対を証明すべき責任を負うものではあるが、出願時に容易に推考でき たものではない。同様に反対が被告の証責任であるが、意識的に除外されたもの に当たるなどの特段の事情もない。 といった具合です。

4. 訴訟物の価格はどう書き入れたらいいのか?

 ●●●● さん、メールをありがとうございました。松本です。 | 1.訴訟物の価格と貼用印紙の記載がありますが、必要なのでしょうか。任意に(適 | 当に)記載しなさいということでしょうか。  そうですね。データが与えられていないと、数字を入れられませんが、訴状を 起案しろという趣旨から、それも書いた格好にするべきです。 | 2.今回の事案の特公平01−4033号の特許出願が日付が昭和55年となってお | り、出願番号58−122789となっております。 | 55と、58いずれが正しいのでしょうか。(今回の宿題に影響はないと思うのです | が、気になりましたので)  それは起案の方ですね。私の手元にないのですが、作成のミスだと思います。

5. 陳述書などの成立の認否

 O さん、メールをありがとうございました。松本です。 | 講義で紹介されたビデオや、被告製品の物件説明書が原告から書証として裁判所に提 | 出された場合に、被告側代理人は、通常どのように対応するのでしょうか? | 1証拠の作成過程を知らないので、「不知」と応えるのでしょうか? | 2証拠の成立は認めて、証拠の内容を否認するのでしょうか? | | 1の場合、その後は、証拠の成立性を争う攻防が続くことになるのでしょうか?  以前と違って現在は、成立の真正or NOT について、対立当事者がいつでも全 部について返事をする扱いにはなっていません。なので、1のご質問に対しては、 そういう返事がないです。敢えて言う場合には、むしろ認めると思います。目の 前の相手が自分(の側)でつくったと言って出しているわけですので(そのこと 自体は証言ではないので証拠ではないにしても)、普通は違っている訳のない話 です。(それ以外の人のものだ、という場合だと、不知となるとは思います。)  そういう訳で、2のような方向になります。  そもそも、自白調書があって後に否認に転じた、という場合などとは違って、 その作成者の考えが、その陳述書やビデオに出ているとおりの見解であること自 体は、間違いのない話であり、そこについて攻防をしたりしません。  それでも、作成名義人の証人調べをするなら、せっかくですので確認の証言を して貰います。それは、最初の回に見たビデオの通りです。  でも、例えば生海苔のケースの場合には、証人調べをまったくしていません。 なので、そうした証言の機会もありません。  2の話は、証拠についての否認、とかいうのとはちょっと違いますが、 内容についての攻防が続くことになります。その中でも、内容自体を否定する 形の反論の場合と、それと侵害の成否などの結論との関係を論難する場合と(一 種の抗弁のようなものですね)、いろいろあります。  ・2004年6月14日(月)19:21 松本直樹

6. 当てはめ判断と要件事実、さらに

 N さん、メールをありがとうございました。松本です。極めて的 を射た、厳しいご質問です。私の方でも余り自信がないところがあります。 | ご無沙汰しております。 | 私も本年の能力担保研修を受講しています。東京クラス4(火・金コー | ス)です。先生のご担当は終了されたようですね。先生のホームページ | でQ&Aを拝見しました。 | これに触発されたのですが、私の質問を受けていただけるでしょうか。 | | 1.特許法104条の2について、まだ良く理解できません。 | 以下の(1) (2) をケースとして考えたいと思います。 | | (1) 原告が被告の実施する物又は方法の具体的態様について主張した。 | 立証は不十分である。 | 被告は原告の主張を否認した。被告は自己の行為の具体的態様を明らか | にしなかった。  このケースでは、被告の「否認」は、104条の2に違反してのものな訳ですね。 | (2) 原告が被告の実施する物又は方法の具体的態様について主張した。 | 立証は不十分である。 | 被告は原告の主張を否認した。被告は自己の行為の具体的態様を明らか | にした。被告の主張通りとしたら技術的範囲に属しないことは明らか。 | ただし、被告は一切立証を行っていない。(被告はウソをついているか | も知れない。) | | 私は「被告の実施の具体的態様について、主張・立証責任は原告にあり、 | 被告が否認し、原告が立証に成功しなかったときには侵害は認められな | い」と理解しています。そして、特許法104条の2はあるものの、決 | して主張・立証責任が被告に転換されるわけではないと。  賛成です。ただし、「具体的態様」について、という話です。 | そうとすると、上記(1) (2) ともに、被告が否認し原告が立証に成功し | ていないのですから、原告の主張する事実が存するものと認められるこ | とはないということになります。  104条の2を緩く受けとれば、そうなるでしょう。でも文字通りに受けとるな ら、(1)の場合は、否認として許されない、その結果、原告主張の具体的態様が 認定される、ということになると思うのです。 | 以上のような考え方でよろしいのでしょうか。先生のQ&Aを拝見する | 限りでは、私の考え方のどこかが間違いであるように思われます。  (1)で原告主張の具体的態様を認定しないというのは、104条の2を単に道義的 な規定と理解することを前提としていると思います。私はそれには疑問を感じる ので、但し書きにもよることなく明示義務を果たさないなら、それは否認と扱う べきでない、と思うのです。しかし、そこまで考えるのが一般的かどうかは分か りません。あくまで私の試論です。  ただ、(1)で原告主張の具体的態様を認定しないというのは、さらに、義務だ と言われているのにそれをまったく果たさないという、いかにも怪しい被告なの に、それとの比較での事実認定をしないという意味でもあります。これも加わっ て初めて、そういう話になるはずです。これも絶対的な話にはならないですが、 かなりヘンなように思います。 | 2.教科書を読む限り、「被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属す | る」というのは「事実」であると理解できます。そうとすると、この | 「事実」の主張・立証責任は原告にあるのであり、立証に失敗したら侵 | 害は不成立ということになります。  「被告の侵害行為」が差止請求権の要件という限りではそれで良いと思います。 | ここにおいて、先生のおっしゃる「それが技術的範囲に属するかどうか、 | すなわち要件を充足するのかどうか、は、あてはめ判断であって、事実 | 認定ではなく、証明の問題でもありません。」という考え方がよく理解 | できないのです。 | 「技術的範囲に属する」という「事実」は、 | @被告製品の具体的態様を特定 | A本件特許発明と被告製品の具体的態様との対比 | B文言侵害あるいは均等の有無判断 | の結果としてその存否が明らかにされるということになりますが、「当 | てはめ判断」までなされた結果として、はじめて事実の存否が明らかに | なるのではないでしょうか。  ここから先は、あくまでも私の見解で、今回のテキストにはむしろ沿っていま せん。でも、テキストの一部にもなっている一般的な要件事実の議論には忠実で あるつもりでいます。そういう意味では、テキストの論理的帰結であるつもりで もあるのですが。  「「当てはめ判断」までなされた結果として、はじめて事実の存否が明らかに」 とのご指摘ですが、その様にして初めて「被告の侵害行為」の存否が認定できる ものではあります。でも、それをブレークダウンして、具体的態様の認定と、当 てはめ判断、とをそれぞれに考えた場合、後者の判断は「事実」とは言えないと 思うのです。  要件事実はあくまでも具体的事実といわれているわけです。前者の方は、その、 態様の行為を被告がしていること、という具体的事実です。それに対して後者は、 そうした意味で具体的事実として把握できないと思うのです。 | 以上、よろしくお願いいたします。 | | なお、能力担保研修では、現在のところ各クラス別にメーリングリスト | が構築されています。先生のホームページのこと、あるいは私からの上 | 記質問に対するご回答など、私のクラスのメーリングリストで紹介させ | ていただいてよろしいでしょうか。  公開している話なので、別に私は構いません。 | また、全クラス横断の掲示板を開設しようと画策中です。この掲示板が | 開設されたら、そちらでもぜひ紹介させてください。また、ご案内いた | しますので、この掲示板にもぜひ参加いただいてご指導いただければ幸 | いです。  それも同様です。  ・2004年6月15日(火)01:11 松本直樹  N さん、メールをありがとうございました。松本です。 | さっそく(というか深夜に)ご回答頂き、ありがとうございます。 | 特許法104条の2の考え方、「技術的範囲に属する」を要件事実とし | てどのように扱うか、について、種々の考え方があり得るというように | 理解しました。 | そうとすると、われわれ受験生としては、そのように論点であることを | 明確に知っておく必要があると思われますが、当方のクラスではそのよ | うな説明はなされませんでした。教科書にもそのようには記載されてい | ませんよね。  そうです。(ウェブ掲載時の注: この「そうです。」は、主に、種々の考え方 があり得る、という話への返事のつもりでしたが、後から見ると、そう見えない ですね。すいません。ちゃんと理解するためには、こういうことも考えて然るべ き、と私は思うのですが、論点というのとは違うようにも思います。)  ちなみに、要件が抽象的な場合に、要件事実としてはどういうものを考えるか、 また証明責任をどう考えるか(何を対象として証明責任というものを考えるか) というのは、司法研修所での前期の講義に於いて、昔からすっきりしないところ です。  また、この辺りは、特許訴訟の特殊性が現れているところでもあります。普通 の民事訴訟では、要件事実たる具体的事実の存否こそが争われているものである のに対して、特許訴訟の多くでは、被告の物が確定していても、それが侵害かど うかというのが争いになります。むしろそちらが争点の中心かも知れません。そ れは、普通の民事訴訟とは大いに違うところです。 (ウェブ掲載時の注: このあたりの、要件事実論と特許侵害訴訟、とでも言うべ きう議論は、もう少し考察してどこかにまとめたいと思っています。私のような 考察の仕方をした文献がないのですが(当てはめは要件事実でない、という点)、 特許の仕事をしている法律家とちょっと話をしてみた限りでは、少なくとも、まっ たくおかしいということはないようです。)  普通の民事訴訟では、神様のビデオテープでもあれば、それ以上に判断を要す ることもなく、紛争は解決するものなのです。 | 今回の私の疑問点については、まだ十分に理解できていないところがあ | ります。特に「私のケース(2) はどのように扱われるのだろうか」とい | う点については気になります。  これは、おっしゃっていたようで良いのだと思いますよ(おそらくは、この点 は異論が殆どないはずです)。被告の方でも明示義務にしたがって具体的な主張 をして、それで具体的態様について争われた状態となり、分からないという状態 で決定しないといけない、という前提な訳ですね。ならば、原告主張の具体的態 様を認定できる状態ではない、ということな訳ですから、請求棄却です。これは、 その証明責任によっての結論、と言えます。  ただし、そういう段階で審理を終えて良いのかというと、普通は分るようにす るべきなのです。でも、それでもどうしても分からないなら、上記のように請求 棄却しかないですね。 | これらについては、近いうちに受験生横断の掲示板がアナウンスされる | と思いますので、そちらで議論におつきあい頂ければ幸いです。  出来れば参加します。  ・2004年6月15日(火)10:12 松本直樹

7. 侵害を止めない場合についての金銭請求と間接強制

 T さん、メールをありがとうございました。松本です。 | ところで、特許権の差し止め請求をする場合に、「製造販売を | 中止するまで毎月○○円を支払え」というような請求項目を立 | てることはあまりないように思います。これは製品の廃棄を求 | めている場合が多いので、そのためでしょうか。訴訟が長引い | た場合には、訴訟中の被告の行為に対する損害は、判決時に調 | 整されるのでしょうか。  「中止するまで毎月○○円を支払え」という請求は、ないです。ない理由は色 々説明できますが、例えば、仮にそれを認めたら、その判決の後に、止めていな い期間があったと主張してそれに対応する金額を取り立てようとする場合、金額 をどのようにして定めるのでしょうか? むしろ、訴訟こそが、金額を定めるべき 手続きなのです。そういう訳で、後日の行為についての賠償請求は出来ません。  これは、民事訴訟法135条が、「第135条(将来の給付の訴え)/将来の給付を 求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起すること ができる。」としているところでもあります。  訴訟手続きの間の侵害行為の損害賠償も、口頭弁論終結(結審)時までの侵害 行為については、請求可能です。訴訟提起以降の期間については、その時点で請 求拡張するのです。  また、以上とはちょっと違いますが、差止が執行力のある状態になって以降の 侵害行為に対しては、執行手続きとして、或る意味で似たような支払が命じられ ることがあります。間接強制です。この場合は、“違反行為をした日の1日につ いて50万円を支払え”などといった命令が出されます。この金額は、損害賠償 の金額とは必ずしもマッチしません。抑止するに足りるだけの金額が命じられま す。違反があったと権利者が主張すると、これに基づいての支払い命令の手続き というのがなされます。  ・2004年6月18日(金)16:41 松本直樹  T さん、メールをありがとうございました。松本です。 |  これは、民事訴訟法135条が、「第135条(将来の給付の訴え | )/将来の給付を | > 求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に | 限り、提起すること | > ができる。」としているところでもあります。 | | *これは、例えば賃貸借の物件明け渡し請求のような場合でし | ょうか。  ? ? それが、「あらかじめその請求をする必要がある場合」にあたるとお考 えという意味ですか? それはあり得ないです。期間満了したら明け渡す、という 契約が存在するときに、満了前に明け渡していないのは当たり前であり、そもそ も請求の理由にまったくなりません。  仮に、賃借人の方が満了後も明け渡さないことを主張していて、貸し主の側で は是非とも満了日に返して貰う必要があるとの特殊な事情があって、という場合 なら、可能性はあるでしょうが、それですら、どちらかというと、実際に明け渡 すべきかどうかは満了日(以降)に判断するべきことだと思われ、事前に請求す るのには相応しくないと思います。  敢えて例を考えれば、侵害行為があって、それと同類の行為が繰り返される蓋 然性がある場合の差止(侵害予防の類)、とかだと思われます。 | *そうすると、間接強制による支払い命令は、侵害訴訟の判決 | があった後、権利者の主張によって追加的に出されると考えて | よいのでしょうか? ただ、本当に違反行為に該当するかどう | かが、必ずしも明らかでない場合もあると思います。このとき | は、再度訴訟を起こして争うということになるのでしょうか。  追加的に、というと、そうには違いないとも言えますが、あくまでも、差止判 決の「執行手続き」としての話です。これ以上は、民事執行についての本などを 見てください。  「本当に違反行為に該当するかどうかが、必ずしも明らかでない場合」という のは、差止判決に違反するかどうかについての話でしょうか。理屈としては、特 許権者としては、差止判決に違反すると考えるのであれば、執行を求めます。外 形的に差止対象に見えれば、執行手続きが進められます。被告の方で、内容的に 変わっていて差止対象でないというのであれば、請求異議の訴訟というのを改め て提起して(これは差止請求などと同様の一種の訴訟です)、差止対象でないこ とをはっきりさせるように求めます。  外形的に差止対象に見えない場合は、それは、元の差止訴訟の請求の仕方が悪 かったのだとも言えますが、ともかく、改めて差止請求訴訟をやらざるを得ない こともあり得ると思います。  ・2004年6月19日(土)14:44 松本直樹  Tさん、メールをありがとうございました。松本です。 | *済みません、言葉の使い方が不正確でした。マンションの建 | て替え時に、更新しないにもかかわらず居座っている場合の明 | け渡し請求を考えていました。  それなら、請求時に既に明け渡し請求をする話になるように思えますが。 | ところで、米国といえば陪審制度がすぐ思い浮かびます。日本 | では、陪審制度を否定するのによくOJシンプソン事件が引き | 合いにだされます。 | 特許陪審の場合に、陪審制度を否定するのによく使われる判例 | はあるでしょうか。あったら教えてください。  特に一つというのはどうでしょう。陪審で侵害とされ、それが JNOV (陪審の 評決に従わない、裁判官による判決)で覆された、あるいは控訴審で覆された、 というケースはそういう例になるのでしょうが、それなりにいろいろあります。  私自身も多少は関係のあるものとして、ニデックという光学器械の会社が、エ キシマレーザーの角膜の屈折力の矯正手術装置(一般的には近視の治療装置)に 関して訴えられたケースがあります。陪審では侵害とされましたが(それも故意 侵害)、 JNOV で非侵害とされ、それが控訴審でも先頃支持されました。このケ ースの特許の片方は、日本でも訴えられていたもので、その時のニデックの代理 人を私がやっていたのですが、大分前に非侵害で確定しています。陪審だけが侵 害との判断なのです。  私が米国にいたときに関与したセガのケースも、内容的には酷い話でした。 | 昔のミノルタ事件の場合には、ミノルタ側の弁護士としてかか | わった日本の弁護士が、陪審員は実によく判断してくれたと言 | っていました。  あれも疑問ではありますが、まあ、ハネウェルは実際にそれなりの開発はして いたものなので、まったくの間違いとは言えない判断だと思います。 | 日本では、否定されることの多い制度ですが、侵害の判断と新 | 規性の判断の類似性を感じている先生の場合には少し見方が違 | うのではないかと思いますがいかがでしょう。  米国が陪審制をとっているのは、米国としての一種の都合によるもので、特許 侵害のような事件について判断を下すのには、陪審というのは、まったく不適切 な判断者です。  なお、「侵害の判断と新規性の判断の類似性」ではなくて、判断の構造として は同型だという指摘です。これはまったくその通りです。  ・2004年6月21日(月)10:38 松本直樹

8. 改版経過

 6月18日 6. 当てはめ判断と要件事実、さらに7. 侵害を止めない場合についての金銭請求と間接強制を加えました。

 6月21日 7. 侵害を止めない場合についての金銭請求と間接強制に後半を加筆しました。

 7月15日 先日来、N弁理士の開設した掲示板の方でディスカッションをしています。Nさんの掲示板のための入り口。IDとパスワードは、N先生に聞いてください。今のところ、N先生と私の殆ど2人だけでやってますけど、他の人にも見ては貰っているようです。

 05年8月8日 05年分の最初として、104条の3の話を8に書きました。

 05年9月19日 05年分が少し出来たので、別ファイルを作りました。



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