Last Modified: 2006年05月27日22時22分

能力担保研修掲示板04年
(弁理士の特定侵害訴訟代理のための能力担保研修の関係でのディスカッション)

By 松本直樹 (御連絡はメールでホームページ(http://homepage3.nifty.com/nmat/index.htmの末尾にあるアドレスまで。)
ウェブページ当初掲載: 2005年4月15日

 2004年の弁理士の特定侵害訴訟代理資格のための能力担保研修の関係での、N先生開設の掲示板での問答のうち、私がご返事をしていたものを集めました。本当は、昨年の勉強中に掲載すれば良かったのですが(N先生・M先生からはその旨の許諾をいただきましたし)、整形したりするのが面倒で、サボってしまいました。結局、不完全な整形しかしてないですが、2005年の方の参考になるものもあるかも知れませんので、今更ながら掲載しておきます。

 なお、メールで頂戴した質問とそのご返事については、その当時に、ここに「弁理士能力担保研修Q&A(04年分)」として掲載しました。また、同(メールでのQ&A)05年分もあります。私の掲示板 にも05年には同分野のものがあります。

1. 法改正など

45.  法改正の件  T      2004/06/23 (水) 14:29

 昨日の富岡先生の講義にありました法改正(H16改正)の件ですが、今日、特許庁HPに
アクセスしてみましたが、見つかりませんでした。

 「特許法104条の3、同105条3号?、同105条の4、7」です。

 お分かりの方、よろしくお願いします。 以上


46.  Re: 法改正の件  N   ・東京クラス4  2004/06/23 (水) 15:02

 T 先生こんにちは。クラス4のN です。

>  昨日の富岡先生の講義にありました法改正(H16改正)の件ですが、今日、特許庁HP
> にアクセスしてみましたが、見つかりませんでした。 「特許法104条の3、同105条
> 3号?、同105条の4、7」です。

今月11日に、参議院で「裁判所法等の一部を改正する法律」が可決され、成立したみ
たいですね。知財高裁法の成立と同日です。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho2/vote/159/vote_ind.htm
「裁判所法等」の中には特許法も含まれ、いくつかの点で特許法が改正
されます。条文は以下のサイトにあります。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/houan/16index.html
その中で、特許法104条の3は以下の通りです。
「第百四条の三
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効
審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専
用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2 前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不
当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、
裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」

私たちが(合格して)付記弁理士の資格を得た直後には、もう「明らか
に無効・権利濫用」の法理は使われなくなるということですね。侵害訴
訟において、無効理由であれば何でも抗弁として使えるとなると、侵害
訴訟の風景がずいぶん変わるのではないかと思います。

また、
「第百五条
3 裁判所は、前項の場合において、第一項ただし書に規定する正当な
理由があるかどうかについて前項後段の書類を開示してその意見を聴く
ことが必要であると認めるときは、当事者等(当事者(法人である場合
にあつては、その代表者)又は当事者の代理人(訴訟代理人及び補佐人
を除く。)、使用人その他の従業者をいう。以下同じ。)、訴訟代理人
又は補佐人に対し、当該書類を開示することができる。」
も、昨日習ったばかりのところが改正になりますね。

そのほか、営業秘密の保護の強化(105条の4、200条の2)など
が新設されるようです。

これらの点について、能力担保研修のテキスト3最終ページに若干の解説がされていま
すが、クラス4での講義の中ではまだ触れられていません。皆さんのクラスではいかが
でしょうか。


48.  Re^2: 法改正の件  松本直樹  [URL]  2004/06/25 (金) 12:08

 N さんこんにちは。松本です(クラス7の講師をやったものです)。

> 私たちが(合格して)付記弁理士の資格を得た直後には、もう「明らか
> に無効・権利濫用」の法理は使われなくなるということですね。侵害訴
> 訟において、無効理由であれば何でも抗弁として使えるとなると、侵害
> 訴訟の風景がずいぶん変わるのではないかと思います。

 そうも言えますが、内容的にはキルビー最判による権利濫用と殆ど変わらないはずで
す。ただ、明白、の点について、論者によっては妙に限定して言っている点が無くなる
だけです。

 また、無効理由であれば何でも、の点も、キルビー最判も限定はして
いないわけで、今度の立法で変わるわけではありません。

 ……以上、ご承知のこととは思いましたが、掲示板のニギヤカシもかねて。

 なお、特許無効の抗弁は、無効判断を侵害訴訟ですることこそ本筋としてきている米
国に於いても、有効性の推定(282条)の結果、clear and convincing での証明が要求
されています(形の上では)。なのに、日本ではキルビー抗弁の中で妙に特別視してこ
のような手当をしたのは、不思議な気もします。


49.  Re^3: 法改正の件  N   ・東京クラス4  2004/06/25 (金) 22:04

>  N さんこんにちは。松本です(クラス7の講師をやったものです)。

松本先生、さっそくコメントいただき、ありがとうございます。

>  なお、特許無効の抗弁は、無効判断を侵害訴訟ですることこそ本筋としてき
> ている米国に於いても、有効性の推定(282条)の結果、clear and 
> convincing での証明が要求されています(形の上では)。なのに、日本では
> キルビー抗弁の中で妙に特別視してこのような手当をしたのは、不思議な気も
> します。

米国の場合、有効性の推定が働く結果として、一度特許になってしまうと明らか
な無効理由がない限り無効とはされないのだろうか、という点が気になっていま
した。「形の上では」といわれていることからすると、現実には侵害訴訟におい
て、「無効理由があれば無効」と判断されているということでしょうか。

日本の審決取消訴訟においては、裁判所は有効か無効かを公平に判断していると
いう印象を受けています。「特許庁が特許査定とした行政処分の裁量範囲を認め、
よっぽどのことがない限り審決は取り消されない」といったような実務はされて
いないですよね。この点は、国税庁相手の訴訟の実態とはずいぶん違います。あ
りがたい世界にいるものだと感謝しております。


50.  Re^4: 法改正の件  松本直樹  [URL]  2004/06/26 (土) 01:10

 N さんこんにちは、松本です。

> 米国の場合、有効性の推定が働く結果として、一度特許になってしまうと明ら
> かな無効理由がない限り無効とはされないのだろうか、という点が気になって
> いました。「形の上では」といわれていることからすると、現実には侵害訴訟
> において、「無効理由があれば無効」と判断されているということでしょうか。

 有効性が推定される、だから無効主張は難しいんだ、と言われることはありま
すが、率直には、そう特別なものではありません。PTOで検討されていない先
行例を提示した場合には、ごく普通に無効とされ得る、といった方が実際的と思
います。

> 日本の審決取消訴訟においては、裁判所は有効か無効かを公平に判断している
> という印象を受けています。「特許庁が特許査定とした行政処分の裁量範囲を
> 認め、よっぽどのことがない限り審決は取り消されない」といったような実務
> はされていないですよね。この点は、国税庁相手の訴訟の実態とはずいぶん違
> います。ありがたい世界にいるものだと感謝しております。

 税務は、法律自体が、税務署に都合の良いように出来ているから、という気が
します。それに特許では、両側の利害主体がどちらも私人ですからね。

 ……なんか、掲示板の趣旨からどんどん外れているようで、どうもすいません。


51.  Re^5: 法改正の件  N   ・東京クラス4  2004/06/26 (土) 09:50

松本先生

>  ……なんか、掲示板の趣旨からどんどん外れているようで、どうもすいませ
> ん。

こちらこそ、議論におつきあいいただき、ありがとうございしまた。これで私も
勢いがつきましたので、これからいろいろ質問メッセージをアップしていきたい
と思っております。おつきあいいただければ幸いです。
実は我々のクラスでは質疑応答の時間が全くなく、分からない点をいくつもかか
えてフラストレーションが溜まっているところなのです。


54.  講義の内容  松本直樹  [URL]  2004/06/28 (月) 00:45

> 実は我々のクラスでは質疑応答の時間が全くなく、分からない点をいくつもか
> かえてフラストレーションが溜まっているところなのです。

 対話するのでないと、テキストを各自で読んだ方がよいのでは、と思われて、
私はむしろ聞かれたこと(だけ)を話していたのですが。

 テキストに書いてあることは話す必要は無いとまで思っていたくらいです。で
も、もうちょっと書いてあることを(も)話した方が親切だったかも知れないと
思い直しています。

2. 特102条1項実施能力の証明責任

52.  特102条1項実施能力の証明責任  N   ・東京クラス4  2004/06/26 (土) 11:44

特許法102条1項本文の「特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超え
ない限度」について、超えない限度内であることの証明責任は原告・被告のどちらが負
うのかという点です。

教科書及び講義では、「原告である特許権者側が証明責任を負う」ということで何の議
論もなく過ぎ去りました。

しかし、実施能力限度内か否かという点は、同じ特102条1項の但書における「特許
権者等が販売することができないとする事情」と内容が共通しているように思われます。
この但書についての証明責任は被告が負い、本文の実施能力の証明責任は原告が負うと
いうことで、この点に関して何ら議論はないのだろうか?というのが私の疑問です。

「『実施能力』は本文に書いてあるのだから原告の証明責任で疑う余地なし、『販売す
ることができない事情』は但し書きに書いてあるのだから被告の証明責任で疑う余地な
し」と考えるべきなのでしょうか。

一方で教科書の記述でも、例えばテキスト3の124ページ6行目には「ただし書きの
実施能力や・・・については被告が主張立証することになる。」とあり、この記載は実
施能力がただし書きに書いてあるという誤解に基づいているように思われます。このよ
うに混乱しているぐらいですから、証明責任の所在についても何らかの議論がありそう
な気がするのですが・・・。


53.  Re: 特102条1項実施能力の証明責任  松本直樹  [URL]  2004/06/28 (月) 00:40

 N さん、こんにちは。松本です。

> しかし、実施能力限度内か否かという点は、同じ特102条1項の但書における「特
> 許権者等が販売することができないとする事情」と内容が共通しているように思われ
> ます。

 議論はありそうですが、ここは内容は違うのだと思います。少なくとも私には、その
様に理解するのが素直と見えますし、裁判例は必ずしも定着していませんがそういう旨
のものもあります。

 すなわち。本文中の実施能力は原告の実施能力であるのに対して、但し書きのできな
いとする事情の方は、需要が無くなるとか他へ行ってしまう事情をさしていると思われ
ます。価格差とか、競合品の存在とかですね。

 このように理解した上で、条文通りの証明責任分配なら、原告の実施能力という原告
側の事情については原告の負担、競合品の存在など特殊事情についてはそれを有利に主
張する被告側の負担、ということで、もっともな話になると思います。

> 「『実施能力』は本文に書いてあるのだから原告の証明責任で疑う余地なし、『販売
> することができない事情』は但し書きに書いてあるのだから被告の証明責任で疑う余
> 地なし」と考えるべきなのでしょうか。

 「疑う余地なし」とも思いませんが、上記のような具合で問題は少ないだろうと思い
ます。

> 一方で教科書の記述でも、例えばテキスト3の124ページ6行目には「ただし書き
> の実施能力や・・・については被告が主張立証することになる。」とあり、この記載
> は実施能力がただし書きに書いてあるという誤解に基づいているように思われます。
> このように混乱しているぐらいですから、証明責任の所在についても何らかの議論が
> ありそうな気がするのですが・・・。

 いま手元にないので、確認できないのですが。すいません、それでコメントが遅くな
ったのですが、明日・明後日も確認できそうにないので、思っているだけの内容でコメ
ントしてしまっています。


55.  Re^2: 特102条1項実施能力の証明責任  N   ・東京クラス4  2004/06/28 (月) 14:11

>  すなわち。本文中の実施能力は原告の実施能力であるのに対して、但し書きのでき
> ないとする事情の方は、需要が無くなるとか他へ行ってしまう事情をさしていると思
> われます。価格差とか、競合品の存在とかですね。
> 
>  このように理解した上で、条文通りの証明責任分配なら、原告の実施能力という原
> 告側の事情については原告の負担、競合品の存在など特殊事情についてはそれを有利
> に主張する被告側の負担、ということで、もっともな話になると思います。

わかりました。この条文についての証明責任の分配に関しては、原則通りと覚えておく
こととします。

週末にテキスト4を持ち帰っていなかったのでコメントできなかったのですが、テキス
ト4の37ページには、ただし書きに対応する被告の抗弁の例として、「原告は・・の
数量の原告製品しか製造し得ない製造設備しか有していなかったから、これを超える数
量の原告製品を販売し得なかった。」

と記載されています。このような例示を見せられると、「これはただし書きの例ではな
くて本文の実施能力の例ではないか」と思ってしまったわけです。

週末に質問をアップした結果としてお手数をおかけしてしまい、申し訳ありませんでし
た。これからもよろしくお願いいたします。


58.  Re^3: 特102条1項実施能力の証明責任  松本直樹  [URL]  2004/06/29 (火) 11:54

| 週末にテキスト4を持ち帰っていなかったのでコメントできなかったのですが、
| テキスト4の37ページには、ただし書きに対応する被告の抗弁の例として、
| 「原告は・・の数量の原告製品しか製造し得ない製造設備しか有していなかった
| から、これを超える数量の原告製品を販売し得なかった。」
| と記載されています。このような例示を見せられると、「これはただし書きの例
| ではなくて本文の実施能力の例ではないか」と思ってしまったわけです。

 確かにヘンですねえ。「これを超える数量の原告製品を販売し得なかった」とまとめ
ると、但し書きの方なので、抗弁でも良さそうに思えますがその内容として「原告は
・・の数量の原告製品しか製造し得ない製造設備しか有していなかったから」というの
では、むしろ本文の方の要件の否認に当たるはず、という議論になると思われます。

 敢えて擁護するとすれば、本文の「実施の能力」は抽象的な能力で(例えば、厳密な
時期などを問わないなどの点で抽象的という意味)、簡単に満たすことができる要件だ
と考えて、具体的な製造設備の問題などは、むしろ、但し書きの「することができない
とする事情」の方で扱うのだ、という考えなのかも知れません。それなら一応は理屈は
通ります。

| 週末に質問をアップした結果としてお手数をおかけしてしまい、申し訳ありませんで
| した。これからもよろしくお願いいたします。

 いえいえ。

3. 特102条1項特許権者の実施

56.  特102条1項特許権者の実施  M   ・東京クラス8  2004/06/28 (月) 22:55

特許法102条1項の適用について、テキスト3、第124頁に、「原告が実施してい
るのが当該特許発明でなければならないか、市場で競合する製品であればよいのかにつ
いては、後者の裁判例が存する(東京高判平成11年6月15日判時1697号96
頁)。」と記載されています。

この判例を最高裁のホームページで検索したのですが、どうしても見つかりません。日
付が間違っていないでしょうか?それとも私の調べ方がまずいのでしょうか。

関連する判決として、加藤貞晴先生が講義で指摘された京都地判平成11年9月9日を
見ると、「特許法102条2項は、・・・特許権者による特許権の実施は右経験則の適
用の前提となる程度の具体的事実の存在を持って足り(特許権者による特許発明の類似
品の製造販売、当該特許発明の実施品を製造販売することが可能な施設の保有など)、
厳密に当該特許発明そのものの実施に限定するべきものではない。」とあります。

ということは、102条1項でも2項でも特許権者の実施は厳密なものは必要ないと考
えて宜しいでしょうか?


57.  Re: 特102条1項特許権者の実施  松本直樹  [URL]  2004/06/29 (火) 11:45

| 後者の裁判例が存する(東京高判平成11年6月15日判
| 時1697号96頁)。」と記載されています。
| 
| この判例を最高裁のホームページで検索したのですが、どうしても見つかりませ
| ん。日付が間違っていないでしょうか?それとも私の調べ方がまずいのでしょう
| か。

 それであっています。最高裁の頁では、速報の提供を始めた時期よりも前については、
公式裁判例集にのっているものだけが掲載されています。

| 関連する判決として、加藤貞晴先生が講義で指摘された京都地判平成11年9月
| 9日を見ると、「特許法102条2項は、・・・特許権者による特許権の実施は
| 右経験則の適用の前提となる程度の具体的事実の存在を持って足り(特許権者に
| よる特許発明の類似品の製造販売、当該特許発明の実施品を製造販売することが
| 可能な施設の保有など)、厳密に当該特許発明そのものの実施に限定するべきも
| のではない。」とあります。
| 
| ということは、102条1項でも2項でも特許権者の実施は厳密なものは必要な
| いと考えて宜しいでしょうか?

 1項については、両論あります。条文に忠実に行けば、競合品をつくっていれば十分
であって、それが何も特許発明実施品である必要は無いのですが、違う解釈もあります。

 2項(旧1項)についても、議論があります。これも条文上は権利者が自分で実施し
ていることは要件とはなっていませんが、それが必要だというのがむしろ通説だと思い
ます。この規定によっても、遺失利益の発生は推定されておらずそれが証明されて初め
てこの条項の適用があるのだ、といった説明がされます。しかし条文上は要求されてお
らず、批判もあります。

 私自身は次のように考えています。まず1項については、厳密に特許発明実施品であ
る必要は無いが、特許発明実施品でない場合には、「その侵害の行為がなければ販売す
ることができた物」であることを積極的に証明する必要があり、それなりの負担がある、
と思っています。2項についても、大体同様に思うのですが(まったく実施をしていな
い場合にまで、営業利益の全部をとらせるのは適切でないという判断です)、要求する
議論が既にこれまでに定着しているようにも思うので、迷うところがあります。


59.  Re^2: 特102条1項特許権者の実施  三宅俊男・東京クラス8  2004/06/29 (火) 12:41

>  それであっています。最高裁の頁では、速報の提供を始めた時期よりも前について
> は、公式裁判例集にのっているものだけが掲載されています。

申し訳ありません。何かうまくいかないと書物の記載を疑ってしまうのが私の悪い癖で
す。

>  1項については、両論あります。条文に忠実に行けば、競合品をつくっていれば十
> 分であって、それが何も特許発明実施品である必要は無いのですが、違う解釈もあり
> ます。
> 
>  2項(旧1項)についても、議論があります。これも条文上は権利者が自分で実施
> していることは要件とはなっていませんが、それが必要だというのがむしろ通説だと
> 思います。この規定によっても、遺失利益の発生は推定されておらずそれが証明され
> て初めてこの条項の適用があるのだ、といった説明がされます。しかし条文上は要求
> されておらず、批判もあります。
> 
>  私自身は次のように考えています。まず1項については、厳密に特許発明実施品で
> ある必要は無いが、特許発明実施品でない場合には、「その侵害の行為がなければ販
> 売することができた物」であることを積極的に証明する必要があり、それなりの負担
> がある、と思っています。2項についても、大体同様に思うのですが(まったく実施
> をしていない場合にまで、営業利益の全部をとらせるのは適切でないという判断で
> す)、要求する議論が既にこれまでに定着しているようにも思うので、迷うところが
> あります。

松本先生、大変ご丁寧にご説明いただきありがとうございました。
非常によく分かりました。

他のクラスから急に参加させていただいて申し訳ありませんが、講義中はあまり質問時
間がなく、家に帰っていろいろ調べているとどうしても分からないことがたくさん出て
きて、どうしようもなくなったので質問してしまいました。私は頭が悪いのか、一人で
勉強していると勘違いが多く、誰かとお話をさせていただくとようやく分かることが良
くあります。今後ともよろしくお願いします。


60.  講師の方への質問等について  M   ・東京クラス3  2004/06/30 (水) 09:48

> 他のクラスから急に参加させていただいて申し訳ありませんが、講義中はあまり質問
> 時間がなく、家に帰っていろいろ調べているとどうしても分からないことがたくさん
> 出てきて、どうしようもなくなったので質問してしまいました。私は頭が悪いのか、
> 一人で勉強していると勘違いが多く、誰かとお話をさせていただくとようやく分かる
> ことが良くあります。今後ともよろしくお願いします。

 M 先生こんにちは。この掲示板はクラスの垣根を越えて意見交換や議論を交わすこ
とを目的で設けたものですから、M 先生がお持ちのご意見や疑問は遠慮無くどんどん
書き込んでください。

 講義中の質問については、限られた講義時間の中で口頭で質疑応答することは問題が
あるので、私のクラスでは講師の先生の了解をいただいたうえで、事前・事後に書面で
質問を提出してもらうようにしています。書面によると口頭に比較して質問内容が絞り
込まれ、整理される点も考慮しています。講師の先生は休憩時間や講義の合間に適当に
時間を作って答えてくださいます。M 先生のクラスでも委員長さんに交渉してそのよ
うにしてもらってはいかがでしょうか。

4. 開講前宿題の訴状

61.  開講前宿題の訴状  N   ・東京クラス4  2004/07/02 (金) 21:57

開講前に出題された宿題は、干物棹の特許権に基づく訴状起案でした。

本件特許権の特許請求の範囲の記載が、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレー
ムであって、方法的記載を含んでいました。なぜこのような案件を取り上げたのだろう
かと考え、方法的記載の取扱いが一つのポイントだろうかと考えました。

係争対象物を観察することにより、その物が棹にビニール管を覆被した上で「熱処理を
施してビニール管を収縮させて」棹に密着し締め付けたものであることが直接に立証で
きるだろうか。多分、対象物を観察しただけでその点を立証することは困難であろうか
ら、間接事実に基づいて立証しようと考えました。

物件目録の記載についても、その中の「構造の説明」で「熱処理を施して収縮させ」と
書いたのでは、執行官が執行できないのではないかと考え、敢えてその部分を記載から
外しました。

その結果、訴状の記載は
「2 本件発明の構成要件
(1)竹又は木の棹1に
(2)ビニール管を覆被し、
(3)熱処理を施してビニール管2を収縮させて
(4)棹に密着し、これを締付けた干物棹。」
「第3 被告製品の構成
(A)木の棹1に
(B)ビニール管2を覆被し、
(C)棹に密着し、これを締付けた干物棹。」
となりました。

次に
「第4 被告製品と本件発明との対比」において、
「棹にビニール管を密着させ締め付けようとしたとき、ビニール管はゴムのように伸び
縮みする弾性体ではないので、予め棹の外径より小さい内径のビニール管を棹に覆被し
て密着することは不可能である。一方、ビニール管は熱可塑性樹脂であり、棹の外径よ
り大きい内径のビニール管を棹に覆被した上で熱処理を施してビニール管を収縮させて
棹に密着し締め付けることが可能である。」
と主張してみました。

「なるほど、これが間接事実による主張か」と一人で納得してしまいました。

ところが、その後渡された模範答案を見たところ、本件特許発明に方法的記載が含まれ
ていることにはまったくお構いなしの訴状でしたね。

この宿題において、題材となる特許権の請求項の記載に方法的記載が含まれていた点に
ついては、起案に当たって着眼すべき点であるとは考えられていなかったということで
しょうか。

それにしても、このように請求項に方法的記載を含んだ特許権に基づいて権利行使を行
う場合に、どのような留意点があるのかについては興味があります。ぜひ皆さんのご意
見をお聞かせください。


62.  Re: 開講前宿題の訴状  M   ・東京クラス3  2004/07/03 (土) 11:22

 私も宿題のクレームは物の発明でありながらやや極端なプロダ
クト・バイ・プロセス(PBP)の表現形式だったので何らかの
出題意図があるのだろうかとかなり考えました。その結果、答案
では本件特許の構成要件を説明する部分であえて「物」の部分し
か書かないようにしたのですが、それについて特に講評では触れ
られていないようでした。なんだったのでしょうね?

 それはともかく、物の発明におけるPBP形式による表現が技
術的範囲としてどのように解釈されるかについては基本判例集の
「特実15」にも掲載の東京地判平成12年(ワ)第27714号が参考
になります。この判決例ではプロセスも構成要件として捉えてい
るので(審査経過もありますが)、プロセスの部分が異なるイ号
は非侵害と結論しています。

 ただ、なぜか基本判例集には載っていないのですが、この判決
は高裁で覆されています(東京高裁平成14年9月26日)。高裁では
いわゆる同一性説によりプロセスの部分を排除して物としての同
一性で技術的範囲を認定し、よって侵害と結論しています。

 物の発明のPBP形式によるクレームはまだ判例の数も限られ
ており、学説的にも検討が加えられつつある分野のようです。


63.  Re^2: 開講前宿題の訴状  N   ・東京クラス4  2004/07/03 (土) 14:26

M 先生、コメントありがとうございます。

> 答案
> では本件特許の構成要件を説明する部分であえて「物」の部分し
> か書かないようにしたのですが、

なるほど。本件特許の構成要件から方法的記載を削除したのですね。

答案として考えたとき、どのような書き方が好ましい書き方なのか、ぜひ知りたいとこ
ろです。

> この判決例ではプロセスも構成要件として捉えてい
> るので(審査経過もありますが)、プロセスの部分が異なるイ号
> は非侵害と結論しています。
> 高裁では
> いわゆる同一性説によりプロセスの部分を排除して物としての同
> 一性で技術的範囲を認定し、よって侵害と結論しています。

その裁判例の判決そのものは確認できていないのですが、もし「新規性・進歩性の判断
においてはプロセス部分を含めて特許性が認められ、侵害判断ではプロセス部分を排除
して技術的範囲を広く認定した」ということであれば、特許権者にとっては極めてラッ
キーでしたね。

方法クレームでは侵害立証が困難だということで、方法に特徴がある場合でも依頼者は
物クレームにこだわりがちです。その場合、プロダクト・バイ・プロセスの形で提案を
受けることが多くなります。

そのような提案を受けたとき、「特許性判断の場面ではプロセス部分を排除して審査さ
れるために権利化が困難となりやすく、運良く特許になってもそのプロセスと異なる実
施には権利が及ばない可能性があります。」と説明することとしています。

そのように運の悪いケースもあり得る反面、時にはものすごく運の良いプロダクト・バ
イ・プロセス特許が出現するのですね。


64.  Re^3: 開講前宿題の訴状  松本直樹  [URL]  2004/07/03 (土) 22:11

 N さん、M さん、こんばんは。松本です。

| ところが、その後渡された模範答案を見たところ、本件特許発明に方法的記載が含ま
| れていることにはまったくお構いなしの訴状でしたね。
| 
| この宿題において、題材となる特許権の請求項の記載に方法的記載が含まれていた点
| については、起案に当たって着眼すべき点であるとは考えられていなかったというこ
| とでしょうか。

 良くお考えであるのには、まったく感心します。でも、そこまで考えての出題ではな
かったみたいです。また、それを仮に考えに入れたとしても、この事案では被告の方で
も同じ方法によっていることが当然であって、同一性説によろうとよるまいと同じであ
り、また被告の方でもそれを争点とはしない、という話でしょう。

 そういう意味で、不適切に深入りすると、却っておかしなことになってしまうと思い
ます。でも、問題意識をもって、しかし事案を適切に処理していれば、加点材料となる
可能性もあると思います。

 ただ、執行云々の話についていえば、ちょっと疑問なところもあります。ご指摘のよ
うだから名称型番や外形などの明確なところだけにしようとしていてそれを認める方向
にあるのであり、このような製法の問題だけではないので、これだけを特別視するのに
は疑問を感じるということです。

 また、被告の構成のところに書かないというのは、それがよいのかどうか、疑問です。
同一性説によるのでなければ、結局は証明するべきものとなるわけですから。その証明
の中身としては、ご指摘のような間接事実によるというのはもっとと思います。


67.  Re^4: 方法的記載の取扱い  N   ・東京クラス4  2004/07/04 (日) 10:20

松本先生、ご丁寧にお教えいただき、ありがとうございます。

>  ただ、執行云々の話についていえば、ちょっと疑問なところもあります。ご指摘の
> ようだから名称型番や外形などの明確なところだけにしようとしていてそれを認める
> 方向にあるのであり、このような製法の問題だけではないので、これだけを特別視す
> るのには疑問を感じるということです。
> 
>  また、被告の構成のところに書かないというのは、それがよいのかどうか、疑問で
> す。同一性説によるのでなければ、結局は証明するべきものとなるわけですから。そ
> の証明の中身としては、ご指摘のような間接事実によるというのはもっとと思います。

以下のように理解しました。

(1) 物クレームの請求項に方法的記載がある場合、結局は被告製品がその方法を充足し
    ていることを主張していかなければならないのだから、「被告製品の構成」にも
    (その方法的部分を)記載しておくべきである。物件目録の「構成」にも記載して
    おく。

(2) 「物件目録に方法が記載されていると執行ができない」とまで考えて目録から外す
    ことは適当ではない。十分に執行は可能である。

(3) 訴状の「被告物件の構成」に方法的部分を記すことにより、「被告製品はこの構成
    を具備している」ことを主張する。もし被告が否認したら、間接事実に基づいて立
    証を行えばよい。訴状段階で間接事実に基づく主張をしておいても良い。

実は、「執行に支障をきたさないような物件目録の記載方法」というのが未だによく分
かっていないのです。

「被告製品の型番を記載し、併せて被告製品の構成も記載する」場合、執行官はその型
番のみを見て執行できるということを講義の中で聞きました。

今回の宿題のように、物件目録中に「『干物棹』という一般名称と被告製品の構成」を
記載したような場合、その構成中に「熱処理を施して収縮させて」と書いてあると、や
はり執行すべき物品が特定できないような気がしてなりません。


72.  Re^5: 方法的記載の取扱い  松本直樹  [URL]  2004/07/05 (月) 00:22

> 松本先生、ご丁寧にお教えいただき、ありがとうございます。

 いや、どうも十分に丁寧ではなかったような……。

> 以下のように理解しました。
> (1) 物クレームの請求項に方法的記載がある場合、結局は被告製品がその方法を充足
>     していることを主張していかなければならないのだから、「被告製品の構成」に
>     も(その方法的部分を)記載しておくべきである。物件目録の「構成」にも記載
>     しておく。

 同一性説によるなら違うわけですが、それを否定した裁判例は無いものの、本当に意
味のありそうな方法記載の場合に同一性説というのは常識的とは思えないわけですよ。

 そうすると、結局はその点も主張・立証の必要があるので、「被告製品の構成」にも
書いて、それをサポートする議論を付することになると思うのです。

 でも、物件目録の方にはわざわざ書くことはありません。そちらは、物件の特定がつ
けば十分ですから。

> (2) 「物件目録に方法が記載されていると執行ができない」とまで考えて目録から外
>     すことは適当ではない。十分に執行は可能である。

 逆です。あんまり余計なことを書かない方がいいのは、何も方法的記載の点だけでは
ないですよ、というつもりでご指摘したことです。

 でもまあ、たとえ書いても、それだけで執行できないと限るわけではないと思います
が。

> (3) 訴状の「被告物件の構成」に方法的部分を記すことにより、「被告製品はこの構
>     成を具備している」ことを主張する。もし被告が否認したら、間接事実に基づい
>     て立証を行えばよい。訴状段階で間接事実に基づく主張をしておいても良い。

 これはそういうつもりです。何も「否認したら」でなくても、初めからでも良いと思
います。簡単な範囲なら。


73.  Re^6: 方法的記載の取扱い  松本直樹  [URL]  2004/07/05 (月) 00:24

> 実は、「執行に支障をきたさないような物件目録の記載方法」というのが未だによく
> 分かっていないのです。
> 「被告製品の型番を記載し、併せて被告製品の構成も記載する」場合、執行官はその
> 型番のみを見て執行できるということを講義の中で聞きました。

 執行官の立場に立って考えれば、それはあり得るし、むしろ通例とは思います。ただ、
構成が書いてあるために、そこまで該当と確認できないと困る、という慎重な人もいな
いとは限りません。

> 今回の宿題のように、物件目録中に「『干物棹』という一般名称と被告製品の構成」
> を記載したような場合、その構成中に「熱処理を施して収縮させて」と書いてあると、
> やはり執行すべき物品が特定できないような気がしてなりません。

 もっともな懸念と思います。型番があれば、それが合致していれば対象物だと受けと
るのが普通でしょうが、そうでなくて一般名称と構成によると、構成の合致を確認する
必要がいかにもあるわけです。


77.  Re^7: 物件目録での特定  N   ・東京クラス4  2004/07/05 (月) 18:58

> > 今回の宿題のように、物件目録中に「『干物棹』という一般名称と被告製品の構
> > 成」を記載したような場合、その構成中に「熱処理を施して収縮させて」と書いて
> > あると、やはり執行すべき物品が特定できないような気がしてなりません。
> 
>  もっともな懸念と思います。型番があれば、それが合致していれば対象物だと受け
> とるのが普通でしょうが、そうでなくて一般名称と構成によると、構成の合致を確認
> する必要がいかにもあるわけです。

よくよく考えたら、方法的記載に限らず、懸念事項はいくらでも出てきますよね。

例えば今回の干物棹の案件でいえば、構成要件として「ビニール管」が出てきますが、
執行の現場において、棹を被覆している高分子樹脂(らしきもの)がビニールなのかポ
リエチレンなのかを判断することも不可能ですね。被告側が執行官に「ここにある干物
棹は全部ポリエチレン被覆です」と主張したらどういうことになるのでしょうか。

「被告が通常の事業者であれば、そのように駄々をこねることはまずないから、そこま
で考えなくて良い」ということなのか、「そういうことまで考える必要がある。請求の
主旨では型番で特定するか、それが困難であれば例えば『樹脂被覆干物棹』程度の文言
で特定すべきである」ということなのか、判らなくなってしまいました。


97.  Re^8: 物件目録での特定  松本直樹  [URL]  2004/07/13 (火) 23:49

 N さん、こんばんは。松本です。ここが放置のままになっていました。失礼。

> よくよく考えたら、方法的記載に限らず、懸念事項はいくらでも出てきますよね。

> 例えば今回の干物棹の案件でいえば、構成要件として「ビニール管」が出てきますが、
> 執行の現場において、棹を被覆している高分子樹脂(らしきもの)がビニールなのか
> ポリエチレンなのかを判断することも不可能ですね。被告側が執行官に「ここにある
> 干物棹は全部ポリエチレン被覆です」と主張したらどういうことになるのでしょうか。

 そうなのです。そういう内容にまで立ち入った物件目録は、そうした点でも却って不
適切なことがあり得ると思われます。

> 「被告が通常の事業者であれば、そのように駄々をこねることはまずないから、そこ
> まで考えなくて良い」ということなのか、「そういうことまで考える必要がある。請
> 求の主旨では型番で特定するか、それが困難であれば例えば『樹脂被覆干物棹』程度
> の文言で特定すべきである」ということなのか、判らなくなってしまいました。

 「そこまで考えなくて良い」という面は、かなりあるはずです。後から多額の賠償を
とられるのなら、無理に実施を続けることには意味がないはずです。そうはいっても、
執行の可能性もまったく考えなくて良いとも言えないはずです。特に、相手が余りまと
もでない場合には。

 それでも、「例えば『樹脂被覆干物棹』程度の文言」では、特定されていないと言う
ことになると思われます。


98.  Re^9: 物件目録での特定  N   ・東京クラス4  2004/07/14 (水) 10:38

松本先生、コメントありがとうございます。松本先生に一手にご回答を引き受けていた
だく格好になってしまい、誠に恐縮です。

物件目録については、(執行可能かどうか)心配すればきりがないけれども、しかし物
件を特定する上で必須の構成は記載せざるを得ない、ということですね。

商品名・型式番号で特定することができるのであれば、やはりその方が安心していられ
るということですね。


68.  Re^5: 主要事実・間接事実  N   ・東京クラス4  2004/07/04 (日) 10:22

字数がオーバーしたので別発言とします。

今回の宿題の起案においていろいろ考える過程において、主要事実・間接事実の相違な
どをはじめて具体的にイメージでき、ずいぶん勉強になったような気がします。

もうひとつそれに関連して。

受講生同士の議論の中で、「『被告製品又は方法が特許発明の技術的範囲に属するこ
と』は間違いなく主要事実である。ところで、『被告製品又は方法の特定』は主要事実
だろうか、間接事実だろうか。」という議論がありました。

今回私が抱いたイメージに従うと、やはり「被告製品の特定」は主要事実であるような
気がします。


74.  Re^6: 主要事実・間接事実  松本直樹  [URL]  2004/07/05 (月) 00:31

> 受講生同士の議論の中で、「『被告製品又は方法が特許発明の技術的範囲に属するこ
> と』は間違いなく主要事実である。ところで、『被告製品又は方法の特定』は主要事
> 実だろうか、間接事実だろうか。」という議論がありました。

> 今回私が抱いたイメージに従うと、やはり「被告製品の特定」は主要事実であるよう
> な気がします。

 当然です。

 むしろ、「具体的事実」が主張事実なのですから、「技術的範囲に属すること」とい
う方が、主要事実というのは厳密にはおかしいです。「間違いなく」というのは、間違
いなくヘンです。

 技術的範囲に属する実施、というなら、それは主要事実と言っても良いと思いますが、
厳密に考えれば、これこれの実施行為、こそが主要事実であり、それが技術的範囲に属
するかどうかは、それ自体は判断であって事実ではないですから、主要事実ではありま
せん。

 ……と私は思っていて、他の特許実務家に聞いても賛成されるのですが、全員ではあ
りません。むしろものの本では、技術的範囲に属することも請求原因事実としてあった
りする。それで私も考え中です。


65.  Re^4: 開講前宿題の訴状  松本直樹  [URL]  2004/07/03 (土) 22:12

 M さん、こんばんは。

|  ただ、なぜか基本判例集には載っていないのですが、この判決
| は高裁で覆されています(東京高裁平成14年9月26日)。高裁では
| いわゆる同一性説によりプロセスの部分を排除して物としての同
| 一性で技術的範囲を認定し、よって侵害と結論しています。

 ここまでまとめるとおかしいでしょう。結論は、非侵害で変わっていないですから。
方法の要件のところは違うことをいっているのは確かですが、でもそれについも、一般
的に同一性説だといっているとは思われない事案と判示だと私は思います。

 要件F「前記弾性体は、前記外殻体の前記孔を通って、前記外殻体の内部に導入され
る止め具」というのについて、

「被告製品は、殻体の成型前に、殻体となる貴金属製パイプの中に弾性材となるシリコ
ン製の弾性材チューブを一体に嵌合して素材とし、これを軸周りに間欠的に回転させな
がら軸方向に間欠的に移動させる間に金型により間欠的にプレスして、殻体の中に弾性
材を圧着した止め具を連接して形成し、これを連接部分から切り離すという方法により
製造されていることが認められる。」

というものなのですね。被告はわざわざ「前記孔」を通して入れてはいないが、それで
もこの要件Fを満たすとしたのが高裁判決ではありますが(でも要件Dを満たさないの
で非侵害の結論は維持)、こういう要件の内容から来る話なのだと思います。プロセス
として意味のある記載とは思えない、というだけの話、と私には見えます。


66.  Re^5: 開講前宿題の訴状  M   ・東京クラス3  2004/07/03 (土) 23:26

松本先生コメントありがとうございます。
不正確なところを補っていただくと助かります。

N 先生が触れているように、PBPにせよ機能的記載にせよ、
実務上は依頼人への説明などを含めて頭を悩ます部分なので
今後も追いかけてゆきたい(ゆかねばならない)テーマの1
つです。

5. 「技術的範囲に属する」は事実か否か

75.  「技術的範囲に属する」は事実か否か  N   ・東京クラス4  2004/07/05 (月) 18:38

No.74のご発言で重要なご指摘をいただいているので、新しいスレッドを立てるこ
とにしました。以下に松本先生のNo.74のご発言をコピーします。

> > 受講生同士の議論の中で、「『被告製品又は方法が特許発明の技術的範囲に属する
> > こと』は間違いなく主要事実である。ところで、『被告製品又は方法の特定』は主
> > 要事実だろうか、間接事実だろうか。」という議論がありました。

> > 今回私が抱いたイメージに従うと、やはり「被告製品の特定」は主要事実であるよ
> > うな気がします。
> 
>  当然です。
> 
>  むしろ、「具体的事実」が主張事実なのですから、「技術的範囲に属すること」と
> いう方が、主要事実というのは厳密にはおかしいです。「間違いなく」というのは、
> 間違いなくヘンです。
> 
>  技術的範囲に属する実施、というなら、それは主要事実と言っても良いと思います
> が、厳密に考えれば、これこれの実施行為、こそが主要事実であり、それが技術的範
> 囲に属するかどうかは、それ自体は判断であって事実ではないですから、主要事実で
> はありません。
> 
>  ……と私は思っていて、他の特許実務家に聞いても賛成されるのですが、全員では
> ありません。むしろものの本では、技術的範囲に属することも請求原因事実としてあ
> ったりする。それで私も考え中です。

字数がオーバーしてしまうので、以下、私(N )の発言部分については別発言とします。


76.  「技術的範囲に属する」は事実か否か(2)  N   ・東京クラス4  2004/07/05 (月) 18:40

(発言の字数が1000字に限定されているので、発言を2つに分割しました。その後半部分です。)

主張する事項を「事実」とそれ以外とに分けるとしたら、それ以外の部分は「法律解
釈」ということになるのでしょうか。そして、主張については「事実上の主張」と「法
律上の主張」とに分類できるということでよろしいでしょうか。他に「権利主張」とい
うのもあるようですが、よく分からないのでここでは触れずにおきます。

「被告製品又は方法が特許発明の技術的範囲に属する旨の主張」は、
(1) 原告特許権の特許請求の範囲の特定(特許発明の技術的範囲の特定)
(2) 被告製品又は方法の特定
(3) 被告製品(方法)の技術的構成と特許発明の構成要件とを順次対比し、被告製品(方
法)の技術的構成が特許発明の構成要件のすべてを充足することを主張
(4) 対比による結論
の順序でなされるわけですが、

上記(1) (2) の主張が「事実上の主張」であって、(3) はそうではなく(ということは
「法律上の主張」でしょうか?)、(4) は(3) から導き出された結論ということになり
ます。

そして、(1) 〜(4) を合わせた「被告製品又は方法が特許発明の技術的範囲に属する旨
の主張」というのは、どういうことになるのでしょうか。「事実上の主張と法律上の主
張の結果として導き出された結論」ということでしょうか。

(3) が事実ではない(法律解釈である)ということは、たとえ(3) について当事者間に
    争いがなくても、裁判所は当事者の主張と異なる結論を出してもいいということで
    しょうか。ここまで来ると、「あれっ、今まで見てきた判決でそんなのがあったっ
    け」と頭の中が混乱してしまいました。

このあたりが整理されると頭の中が随分すっきりするように思います。ということで、
皆さんよろしくおつきあいをお願いいたします。


78.  Re: 「技術的範囲に属する」は事実か否か(3)  N   ・東京クラス4  2004/07/06 (火) 23:08

本日の我々のクラス(東京クラス4)において、まさにこの話がありました。

> 「被告製品又は方法が特許発明の技術的範囲に属する旨の主張」、
> (1) 原告特許権の特許請求の範囲の特定(特許発明の技術的範囲の特定)
> (2) 被告製品又は方法の特定
> (3) 被告製品(方法)の技術的構成と特許発明の構成要件とを順次対比し、被告製品
>     (方法)の技術的構成が特許発明の構成要件のすべてを充足することを主張対比
>     による結論

先生のお話では、
「被告製品又は方法が特許発明の技術的範囲に属する」は、事実ではなく評価である。
(多分、(3) 被告製品(方法)の技術的構成と特許発明の構成要件との対比も同様)

(1) 特許発明の技術的範囲の特定
(2) 被告製品又は方法の特定
については、(間接事実に似ているが)、評価根拠事実ともいうべき事項であって、主要事実である。

以上のとおりでした。

そこで、「事実ではなく評価であるということは、弁論主義の適用がないということでしょうか。

例えば、イ号製品の構成について当事者間に争いがなく、イ号の構成A〜Dのうち、A
〜Cが特許発明の構成を充足する点について当事者間に争いがないとします。

このとき、裁判所は『構成Aが充足していない』という判断をすることができるのでし
ょうか。」と質問してみました。

先生のお答えは、「確かに事実ではないが、弁論主義は適用される。当事者間に争いの
ない場合、それに反する判断はしない。」ということでした。


80.  Re^2: 「技術的範囲に属する」は事実か否か(3)  松本直樹  [URL]  2004/07/09 (金) 13:16

 松本です。基本的に賛成してもらえて良かったです。

 まず、用語については、そう、該当するのかどうかは、確かに「評価」という言い方
をしますね。判断と言っても良いように思います。

 「(間接事実に似ているが)、評価根拠事実ともいうべき事項であって、主要事実で
ある。」という辺りについては、現在の研修所の議論では、そうした具体的事実こそが
端的に言って主要事実です。ただ、論者によっては、法律で要件となっていることがも
っと上位概念の場合には、そちらを要件事実とか主要事実といって、具体的事実ないし
評価根拠事実を準主要事実といったりします。

 また、事実ではないが、弁論主義は適用される、というのは、弁論主義の定義の問題
ではありますが、ちょっと違う言い方の方が一般的と思えます。弁論主義の対象ではな
いが、信義則により、またはそれ以外の一般条項的な要請によって、当事者の主張しな
いような評価を裁判所がいきなり下すのは許されない、ということと思います。

 技術的範囲に属するかどうか自体は評価であって事実ではない、というと、まともな
特許事件では事実の争いはかなり少ないと言うことになります。これは、特許事件の特
殊性です。普通の事件では、言った言わないの、まさに事実こそが争いになるものなの
ですが、特許事件は違うのです。


81.  Re^3: 「技術的範囲に属する」は事実か否か(3)  N   ・東京クラス4  2004/07/09 (金) 23:54

松本先生、コメントありがとうございます。

>  また、事実ではないが、弁論主義は適用される、というのは、弁論主義の定義の問
> 題ではありますが、ちょっと違う言い方の方が一般的と思えます。弁論主義の対象で
> はないが、信義則により、またはそれ以外の一般条項的な要請によって、当事者の主
> 張しないような評価を裁判所がいきなり下すのは許されない、ということと思います。

教科書によれば、当事者の主張には
(1) 主要事実
(2) 間接事実・補助事実
(3) 法律解釈
があるということですが、この他に
(4) 評価
があるということですね。

同じく教科書によると、(1) 主要事実には弁論主義が適用される一方、(2) 間接事実・
補助事実、(3) 法律解釈、については、当事者が主張していない事実や解釈を認定して
判決することができるとのことです。

これに対して、(4) 評価については、信義則その他の一般条項的な要請によって、当事
者の主張しないような評価を裁判所がいきなり下すのは許されない、ということですね。

と、ここまで来て、民訴法の教科書(司法協会発行「民事訴訟法講義案」)をめくって
いたら、「評価根拠事実」の文言が飛び込んできました。104ページです。
(以下、次コメント)


82.  Re^4: 「評価根拠事実」教科書の記載  N   ・東京クラス4  2004/07/10 (土) 00:02

司法協会発行「民事訴訟法講義案」104ページ

「弁論主義の適用をめぐる諸問題」(1) 対象事実の範囲 ウ 不特定概念と主要事実に
おいて、以下のように記載されています。

「実体法規上、一般条項とか規範的要件などと呼称されるものがある。これは法律効果
の発生要件として一定の規範的評価の成立を規定するものであり、規範的評価を成立さ
せるためには、その成立を基礎づける具体的事実(評価根拠事実)が必要となる。そこ
で、@法規が要件として規定する「規範的事実」を主要事実とし、評価根拠事実を間接
事実として理解すべきか、あるいはA評価根拠事実を主要事実と解すべきかが問題とな
る。

 主要事実の意義は前記ア記載の通りであるが、それは主要事実と間接事実との区別を
法規の構造に求めるものである。そうだとすると、ここでも@説によるのが親和性を有
するといえよう。しかし、これらの不特定概念は事実そのものではなく、そこには評価
根拠事実の設定作業に止まらず、設定された事実に基づき当該規範的評価が成立するか
どうかという法的判断が必然的に介在する。したがって、前述した弁論主義の下で主張
責任が果たすべき機能(相手方の防御機会の保障、裁判所の訴訟運営上の指標)を重視
すると、真に攻撃防御の機会を保障すべき対象は評価根拠事実の存否であるとして、こ
れを主要事実として扱うことも考えられる。他方、評価根拠事実を主要事実と理解する
と、手続保障重視のゆえに当事者の主張責任の負担は厳しいものとなるほか、審理が硬
直化するおそれもあり、解釈上、困難な問題となっている。

 そこで、主張責任のもつ手続保障機能を重視しつつも審理の弾力性を確保するために
は、適切な釈明権行使を通じて、主張事実と認定事実との齟齬を是正する機会を与える
訴訟運営が必要となると同時に、当事者の防御権を実質的に損なわない限り、当事者の
訴訟活動に対する規制も緩和せざるを得ないこととなろう。このような観点からは、重
要な間接事実については主要事実に準じて弁論主義の適用を認めるべきとする中間的な
見解によるのが相当であろう。実務も同様であると解される。」


83.  Re^5: 「評価根拠事実」教科書の記載  松本直樹  [URL]  2004/07/10 (土) 01:45

 N さん、こんばんは。

 「(3) 法律解釈」と並べて、それと区別して「(4) 評価」とされると、それは違うと
言いたくなります。敢えて言えば解釈です。その特定の行為(事実)が、特許権侵害と
いう違法行為とされるかどうか、という問題なのですから。

 そういう意味で、「(3) 法律解釈」の一部であっても、特許権という私的な、それだ
けの権利の問題ですので、しかもそれこそを争っている場合には、裁判所がその争いと
無関係に判断を下すのは許されないということになるのが普通だ、ということです。

 で、司法協会発行「民事訴訟法講義案」の説明に対しては、それによると「評価根拠
事実を主要事実と理解する」のに対して批判的な見解が説明されていますが(その上で、
その理解はとらずに、でも他の形で問題を回避する説明ですが)、その理解(評価根拠
事実を主要事実とする理解)の方が現状ではオーソドックスです。というか、研修所民
裁教官室見解です。

 それにしても、引用していただいた、一般条項についての議論と、特許事件は、共通
点が多いです。私もその理解でコメントしています。でも、特許事件の場合は、クレー
ムで要件のセットが既に決まっているところが違います。


84.  Re^6: 「技術的範囲に属する」の判断  N   ・東京クラス4  2004/07/10 (土) 10:40

松本先生、コメントありがとうございます。

話を、「評価根拠事実の特定」とそれに基づく「評価」とに分けます。

司法協会の教科書の記載において、「しかし、これらの不特定概念は事実そのものでは
なく、そこには評価根拠事実の設定作業に止まらず、設定された事実に基づき当該規範
的評価が成立するかどうかという法的判断が必然的に介在する。」とある中で、「不特
定概念」「規範的評価」が「技術的範囲に属する」に当たり、「規範的評価が成立する
かどうかという法的判断」が「評価」に当たるということになりましょうか。

まず「評価根拠事実」ついて

司法協会の教科書にあるように、これを間接事実と見る見解もあるが、主要事実とする
理解の方がオーソドックスでかつ研修所民裁教官室見解であるということですね。とい
うことは、少なくとも受験生である我々は、研修所民裁教官室見解に基づいて試験に臨
むのが賢明であると納得しました。

次に「評価」について。

「評価」は、強いていえば「法律解釈」の一種である。一般的に法律解釈は裁判所の専
権事項であって当事者の主張の有無にかかわらず裁判所は判断を下すことができるが、
この「評価」についてはそうではなく、当事者の主張の有無が尊重されるということで
すね。この点について、司法協会の教科書には明確な記述がありませんが、上記の評価
根拠事実と同様の理由によってそのように考えられていると理解しました。

実は、司法協会の教科書103ページには、以下の記載があります。

「弁論主義は訴訟資料(広義)の収集提出に関する支配権能を当事者に認めるものであ
り、裁判所の専権領域である法規の適用・法的評価については及ばず、事実についての
み適用がある(したがって、仮に当事者が法適用の結果を述べたとしても裁判所はこれ
に拘束されない。)。」

この記述からすると、技術的範囲に属するか否かの「評価」は上記「法的評価」に該当
し、弁論主義が及ばないようにも読み取れますが、特許事件においてはそうではないと
理解しました。


91.  Re^7: 「技術的範囲に属する」の判断  松本直樹  [URL]  2004/07/13 (火) 12:00

 N さん、こんにちは。松本です。

 「規範的評価」が「技術的範囲に属する」に当たる、というのはその通りと思います。
多少は違いがありますが、まあ、アナロジーですからそういうものです。

 他の点は、ちょっと違いが大きいのにご注意ください。「不特定概念」がここでの
「技術的範囲」に、ロジックの形としては当たる物ではありますが、中身としては大き
く違います。「不特定概念」の方では、裁判所での判断に先立って決まっているものは
ないのに対して、技術的範囲の方は、基本的にクレームによってその要件が決められて
いるのです。

 さらに、上記と同じことですが、「設定された事実に基づき当該規範的評価が成立す
るかどうかという法的判断」は、基本的にクレームによって決まっているところなので、
余り問題になりません。この点は、たとえて言えば、交通事故で左を見ていたので過失
なのか、それで過失なのか、ということです。「左を見ていた」かどうかも争いになり
得ますが、さらにその上で(事実が確定された上で)、それで過失なのかどうかも問題
になるわけです。

 侵害事件の典型的争点は、幾つかの要件について、特定の具体的なイ号の構成がそれ
ら要件を充足すると判断されるかどうか、だと思います。そうした要件は、それなりに
は具体的に規定されているものの、なお争いが残る、ということです。過失の話は、こ
こまではぴったりとしたアナロジーにならないと思います。

> この記述からすると、技術的範囲に属するか否かの「評価」は上記「法的評価」に該
> 当し、弁論主義が及ばないようにも読み取れますが、特許事件においてはそうではな
> いと理解しました。

 「そうではない」とはいえ、それは弁論主義の対象だから、というよりは、信義則な
どによると理解した方が良いと思います。世間で熟した議論はなくて確定しないところ
ですが、こういうのを弁論主義の対象といってしまうと、弁論主義を知らないと思われ
てしまうリスクがありますから。受験生としてはそういう観点で気をつける必要がある
かと思います。

6. 訴状の「権利の特定」で「出願日」は記載必須か

86.  訴状の「権利の特定」で「出願日」は記載必須か  N   ・東京クラス4  2004/07/10 (土) 12:06

《出題1》の訴状に限らず、訴状の「第1 原告の特許権」の欄に「原告は次の特許権
を有している。」とし、その後に特許番号をはじめとする事項を記載します。

授業において、「登録日は省略することが可能だが、出願日は省略することができない。
」との説明がありました。権利が消滅していないことを明らかにするためであるとの主
旨です。

「権利消滅原因はいろいろある中で、なぜ『存続期間は満了していない』点のみは訴状
の必須記載なのか」という点について質問しました。先生のご回答は、「主張だから」
ということでした。「原告が主張責任を有する要件事実であるから」と理解しました。

例えば貸し金返還請求訴訟であれば、「履行期が到来していること」は原告の主張すべ
き要件事実でしょう。しかし、特許権侵害訴訟であれば、「原告は次の特許権を有して
いる」との主張で、「特許権は現存している」ことを主張できているのであり、出願日
の主張までは必須ではないように思うのですが、どうなのでしょうか。

訴状で出願日を記載し忘れたら、要件事実の主張がなされていないということで、それ
だけの理由で請求棄却判決がなされても文句が言えないということでしょうか。

テキスト3の80ページには、「特許権の特定は、特許番号によってされるが、・・・
出願日・・も記載されるのが普通である。・・出願日・・これらの事項は、特許権に基
づく差止請求の要件事実としては必ずしも必要ではないが、・・審理の便宜上記載され
るのである。」とあり、ここでは出願日の記載は必須ではないというスタンスを取って
いるようです。


88.  Re: 訴状の「権利の特定」で「出願日」は記載必須か  松本直樹  [URL]  2004/07/10 (土) 22:46

 松本です。

> 「権利消滅原因はいろいろある中で、なぜ『存続期間は満了していない』点のみは訴
> 状の必須記載なのか」という点について質問しました。先生のご回答は、「主張だか
> ら」ということでした。「原告が主張責任を有する要件事実であるから」と理解しま
> した。

 「消滅原因」と捉えるなら、請求原因事実であるわけは無いでしょう。

 自分の事件の記録を見直したら、出願日の記載はしてないままに、差止請求が認容さ
れて、最高裁で確定しているものがありました。

> 例えば貸し金返還請求訴訟であれば、「履行期が到来していること」は原告の主張す
> べき要件事実でしょう。しかし、特許権侵害訴訟であれば、「原告は次の特許権を有
> している」との主張で、「特許権は現存している」ことを主張できているのであり、
> 出願日の主

 「現存」とかいうまでもなく、権利期間の満了での消滅、というのは、仮にそれがあ
るなら、「消滅原因」として抗弁です、というので足りそうに思います。

> テキスト3の80ページには、「特許権の特定は、特許番号によってされるが、・
> ・・出願日・・も記載されるのが普通である。・・出願日・・これらの事項は、特許
> 権に基づく差止請求の要件事実としては必ずしも必要ではないが、・・審理の便宜上
> 記載されるのである。」とあり、ここでは出願日の記載は必須ではないというスタン
> スを取っているようです。

 そういうことだと思います。


89.  Re^2: 訴状の「権利の特定」で「出願日」は記載必須か  N   ・東京クラス4  2004/07/11 (日) 11:35

松本先生、コメントありがとうございます。

>  「消滅原因」と捉えるなら、請求原因事実であるわけは無いでしょう。

「何が要件事実で、主張立証責任の分配はどちらなのか」という点について、頭の中は
ぼやけたままです。

今回の件についても、「原告が主張責任を有する要件事実だ」といわれたら、ああそう
なんだ、と納得するしかないという状況です。

特許法102条1項本文の「実施の能力」についても、原告が請求できる額を制限する
事項ですから、原告に主張責任有りとする点について当初疑念が浮かびました。しかし
この件については、「本文に挙げられた要件である」「立証責任の負担の上で不均衡・
不公平が生じない」という観点から、原告に主張責任があると納得しました。

出願日の主張についても、「上記実施の能力と同様、原告に主張責任があると解釈すべ
き理由があるのかもしれない」とつい自信がなくなってしまいます。

私は今回の研修の中で「何が要件事実で、主張・立証責任の分配はどちらか」という判
断の手法について実務で使える能力を訓練されるのか、と想像していました。しかし、
今のところそのような訓練はされていません。されないままに研修は半分経過してしま
いましたが、今後どのように進捗するのか、まだ見当が付きません。


90.  Re^3: 訴状の「権利の特定」で「出願日」は記載必須か  松本直樹  [URL]  2004/07/13 (火) 11:14

> >  「消滅原因」と捉えるなら、請求原因事実であるわけは無いでしょう。
> 
> 「何が要件事実で、主張立証責任の分配はどちらなのか」という点について、頭の中
> はぼやけたままです。
> 今回の件についても、「原告が主張責任を有する要件事実だ」といわれたら、ああそ
> うなんだ、と納得するしかないという状況です。

 基本的に、法律の条項の通りなのです。規範説と言います。

 或る条項の効果を求める側が、その条項の要件について、証明責任および主張責任を
負担します。ですから、期間満了が消滅原因、というのなら、期間満了の要件を消滅を
主張する側が主張し証明すべきです。

 逆に、期間内だけ独占権を有する、という仕組みならば、請求原因事実として原告側
負担、ということになります。

 ……まあ、こういう割り切り方には批判もあるのですが、基本的にはこうです。

> 特許法102条1項本文の「実施の能力」についても、原告が請求できる額を制限す
> る事項ですから、原告に主張責任有りとする点について当初疑念が浮かびました。し
> かしこの件については、「本文に挙げられた要件である」「立証責任の負担の上で不
> 均衡・不公平が生じない」という観点から、原告に主張責任があると納得しました。

 「原告が請求できる額を制限する事項」とかいう内容に基づくのではなくて、条項の
仕組みに基づくのが基本なのです。

 でも、内容によるべきとしか思えない場合も確かにありますが。

> 出願日の主張についても、「上記実施の能力と同様、原告に主張責任があると解釈す
> べき理由があるのかもしれない」とつい自信がなくなってしまいます。
> 
> 私は今回の研修の中で「何が要件事実で、主張・立証責任の分配はどちらか」という
> 判断の手法について実務で使える能力を訓練されるのか、と想像していました。しか
> し、今のところそのような訓練はされていません。されないままに研修は半分経過し
> てしまいましたが、今後どのように進捗するのか、まだ見当が付きません。

 上記のような規範説の基本は承知している必要があると思いますが、それ以上は、あ
んまりハッキリした話ではないように思います。


92.  Re^4: 訴状の「権利の特定」で「出願日」は記載必須か  N   ・東京クラス4  2004/07/13 (火) 12:42

松本先生、コメントありがとうございます。

>  或る条項の効果を求める側が、その条項の要件について、証明責任および主張責任
> を負担します。ですから、期間満了が消滅原因、というのなら、期間満了の要件を消
> 滅を主張する側が主張し証明すべきです。
> 
>  逆に、期間内だけ独占権を有する、という仕組みならば、請求原因事実として原告
> 側負担、ということになります。

特許法67条1項「特許権の存続期間は、特許出願の日から20年をもって終了する。
」の規定は、末尾が「終了する」とあることから消滅原因を規定したものであり、よっ
て被告が主張責任を有する、ということでしょうか。

もし同項の規定が例えば「特許権は、特許出願の日から20年を超えない期間存続する。
」であれば、原告が主張責任を有することになるのでしょうか。
このあたりはまだ頭の中が混沌としています。


93.  Re^5: 訴状の「権利の特定」で「出願日」は記載必須か  松本直樹  [URL]  2004/07/13 (火) 15:21

> >  逆に、期間内だけ独占権を有する、という仕組みならば、請求原因事実として原
> > 告側負担、ということになります。
> 
> 特許法67条1項「特許権の存続期間は、特許出願の日から20年をもって終了する。
> 」の規定は、末尾が「終了する」とあることから消滅原因を規定したものであり、よ
> って被告が主張責任を有する、ということでしょうか。

 「末尾が」とだけ言われると、ちょっと違います。この条項が、ある場合の(或る要
件具備の場合の)消滅を規定している、ということです。

> もし同項の規定が例えば「特許権は、特許出願の日から20年を超えない期間存続す
> る。」であれば、原告が主張責任を有することになるのでしょうか。

 そう、そういう風に末尾だけを取り上げるのは、間違っています。その形だと、ハッ
キリしないです。

 原告の責任となるのは、第68条(特許権の効力)が、実際には「特許権者は、業とし
て特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、……」となっているのが、「特許が
登録されたら、出願の日から20年の間、業として特許発明の実施をする権利を専有する。
」といった具合になっている場合です。

94.  Re^6: 訴状の「権利の特定」で「出願日」は記載必須か  N   ・東京クラス4  2004/07/13 (火) 17:24

松本先生、どうもありがとうございました。

>  そう、そういう風に末尾だけを取り上げるのは、間違っています。その形だと、ハ
> ッキリしないです。
> 
>  原告の責任となるのは、第68条(特許権の効力)が、実際には「特許権者は、業と
> して特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、……」となっているのが、「特
> 許が登録されたら、出願の日から20年の間、業として特許発明の実施をする権利を専
> 有する。」といった具合になっている場合です。

原告の主張責任はあくまで特許法68条の本文なのであって、69条に存続期間につい
てどのような文言で書いてあろうと、そちらについては原告の主張責任とはならないと
理解しました。

そのように考えれば、「はたして何条から何条までが原告の主張責任なのか」と悩まず
に済みます。


96.  Re^7: 訴状の「権利の特定」で「出願日」は記載必須か  松本直樹  [URL]  2004/07/13 (火) 23:34

 N さん、こんばんは。松本です。

> 原告の主張責任はあくまで特許法68条の本文なのであって、69条に存続期間につ
> いてどのような文言で書いてあろうと、そちらについては原告の主張責任とはならな
> いと理解しました。

 大体そうですけど、ハッキリしない、と書いたように、断定できないこともあると思
います。一応は別の条文になっていても、一体となるかのような書きぶりの場合等です。
また、規範説と言っても、条項の書き方に100%従うとは限らないということもありま
す。

7. 「損害不発生」は否認か抗弁か

105.  「損害不発生」は否認か抗弁か  N   ・東京クラス4  2004/07/25 (日) 15:43

特許法102条1項〜3項、商標法38条1項〜3項において、
「損害が発生していない」との被告の主張は否認か抗弁か

という問題です。

特許法102条1項〜3項、商標法38条1項〜3項いずれも、民法709条の特則と
して、損害額について原告の主張で用いられます。これらの規定の適用において、損害
額そのものはこれら規定に基づいて算出し、原告が主張立証するとして、「損害が発生
している」という事実自体は原告の主張責任が存在するのか否か、という問題であると
言い換えることもできます。

1.講義Aにおいて、テキスト3の25ページ(特102条1項)についての説明で、
「損害の発生は原告に主張責任がある。25ページ下から6行の文章末尾に『損害を被
った』と記載したことによって主張がなされたこととなる。」

との説明を受けました。

この説明に基づけば、被告が「原告が損害を被った点については不知である」と否認し
た場合、原告は、損害額の算定は特102条1項に基づいて行うにしろ、「少なくとも
損害は発生した」という事実を立証する責任が生じるということになります。そしてこ
の立証に失敗したら、たとえ特102条1項特有の事実について主張立証に成功したと
しても、損害賠償請求は認められないということになってしまいます。

はたして、そのように運用されているのでしょうか。

2.テキスト3の181ページの商38条の説明によると、「特許法の規定を含め、こ
れら損害賠償額に関する推定等の規定は、損害の存在を前提とするものであり、損害が
発生していること自体は、原告において主張立証しなければならない(小僧寿し事件
)」とあります。

 しかし、少なくとも現行商標法38条3項(旧2項)についての小僧寿し事件最高裁
判決では、「商標権者は、損害の発生について主張立証する必要はなく」とし、「侵害
者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れ
ることができる」としており、被告側の抗弁事項であるとしていることは明らかです。

 従って、テキスト3の上記記載は、少なくとも商標法38条3項については判例の内
容とは異なったものであることは明らかなようです。

(以下、次発言)


106.  Re: 「損害不発生」は否認か抗弁か(2)  N   ・東京クラス4  2004/07/25 (日) 15:43

(続き)

3.テキスト3の175ページの特102条3項の説明によると、「損害の発生があり
得ないことは抗弁になると解される。商標事件であるが・・・」として、ここでは抗弁
であるとの立場で書かれています。小僧寿し事件の判示内容と同趣旨です。

4.テキスト4の38ページ(特許権・損害賠償請求に対する積極否認、抗弁)

(1) 特102条2項の説明で「(1) 原告の不実施、損害の不発生」という項目があり、
    「発明を実施していないことは、本項の損害額の推定を行うことに関して、積極否
    認となる」とはありますが、「損害の不発生」が否認なのか抗弁なのかは明らかで
    ありません。

(2) 特102条1項、3項については、何も述べていません。

5.テキスト4の69ページ(商標権・損害額の積極否認、抗弁)

(1) 商38条3項については、小僧寿し事件を引用し、「(被告が)主張立証する」つ
    まり抗弁であると記載されています。

(2) 商38条1項については記載ありません。2項については、損害額の推定を覆す主
    張立証の点については記載されていますが、「損害の発生有無」の主張責任とは異
    なるように思われます。

テキストには以上のような記載が見られます。

(以下、次発言)


108.  Re^2: 「損害不発生」は否認か抗弁か(4)  N   ・東京クラス4  2004/07/25 (日) 21:30

若干付け加えます。

> 5.テキスト4の69ページ(商標権・損害額の積極否認、抗弁)

> (1) 商38条3項については、小僧寿し事件を引用し、「(被告が)主張立証する」
>     つまり抗弁であると記載されています。

テキスト4の同じ箇所では、上記記載(第1記載)のすぐ後に、「同項は損害の発生を
擬制した規定ではなく、損害の算定方法を定めたと解する立場と考えられる。」として
います(第2記載)。

第1記載からは、「損害があり得ないことの主張責任は被告」ということで被告の抗弁
事項と読み取れるわけですが、第2記載からは「算定方法を定めただけだから、損害が
発生している点の主張責任は原告」の意味合いであるようにも読み取れます。
どうなのでしょうか。


109.  Re^3: 「損害不発生」は否認か抗弁か(4)  松本直樹  [URL]  2004/07/25 (日) 23:37

 N さん、こんばんは、松本です。

> テキスト4の同じ箇所では、上記記載(第1記載)のすぐ後に、「同項は損害の発生
> を擬制した規定ではなく、損害の算定方法を定めたと解する立場と考えられる。」と
> しています(第2記載)。

> 第1記載からは、「損害があり得ないことの主張責任は被告」ということで被告の抗
> 弁事項と読み取れるわけですが、第2記載からは「算定方法を定めただけだから、損
> 害が発生している点の主張責任は原告」の意味合いであるようにも読み取れます。

 おっしゃるような読み取りも勿論可能性はありますが、必然ではありません。第2記
載の、「擬制」ではない、というのは、そういう抗弁を許す、という意味に過ぎない、
と理解できます。

 全体としても、抗弁と理解した方が落ち着きが良さそうに見える話です。ただし、一
体何を証明対象とするのか、よく分からない話になる点では、抗弁というのにも難点を
感じます。すなわち、抗弁と考えた場合、その抗弁の要件事実というのは具体的事実と
言えなくなってしまう、と思われるのが奇妙だと思うのです。なので、私としては全体
については、どういう説明が良いのか、決めかねています。


110.  Re^4: 「損害不発生」は否認か抗弁か(4)  N   ・東京クラス4  2004/07/26 (月) 10:24

松本先生、コメントありがとうございます。

>  おっしゃるような読み取りも勿論可能性はありますが、必然ではありません。第2
> 記載の、「擬制」ではない、というのは、そういう抗弁を許す、という意味に過ぎな
> い、と理解できます。

なるほど。

私は「擬制ではない」を「推定ではない」と読んでしまったのですがそうではなく、
「みなしではない」と読むべきなのですね。抗弁によって覆すことは可能であると。

(特102条、商38条)3項の規定は、「(暗黙に)損害の発生が推定されている」
とでも考えたらよろしいのでしょうか。

>  全体としても、抗弁と理解した方が落ち着きが良さそうに見える話です。ただし、
> 一体何を証明対象とするのか、よく分からない話になる点では、抗弁というのにも難
> 点を感じます。すなわち、抗弁と考えた場合、その抗弁の要件事実というのは具体的
> 事実と言えなくなってしまう、と思われるのが奇妙だと思うのです。なので、私とし
> ては全体については、どういう説明が良いのか、決めかねています。

「全体として」とは、「3項のみならず、1項、2項も」という意味でしょうか。その
点がよく分かりませんでした。


107.  Re^2: 「損害不発生」は否認か抗弁か(3)  N   ・東京クラス4  2004/07/25 (日) 15:44

(続き)

[1]特102条2項、商38条2項

 条文の末尾に「損害の額と推定する」とある以上、被告の利益額さえ立証できれば、
原告に損害が生じていることは立証不要ということでしょうか。

 それとも、条文のおいて書きに「自己が受けた損害の賠償を請求する場合において」
とある以上、被告が争ったときには、やはり損害が生じていることを原告が立証する責
任が生じるのでしょうか。

 「原告の損害額が被告の利益よりも少額であることを被告が主張立証できれば、推定
が覆る」との態度からすると、「損害発生有り」は原告の主張立証責任ではないように
思われます。

[2]特102条1項、商38条1項

 条文の末尾に「推定する」がないということが、本件の考察においてどのように作用
するのでしょうか。上記[1]以上に、おいて書きの「自己が受けた損害の賠償を請求
する場合において」が重要になり、被告が争ったときには、やはり損害が生じているこ
とを原告が立証する責任があり、立証に失敗したときは損害賠償請求が認められないこ
ととなるのでしょうか。

[3]特102条3項、商38条3項

 小僧寿し事件の最高裁判決、テキスト3の175ページ、テキスト4の69ページの
記載から、「損害は発生していない」は被告の抗弁事実であるように思われます。テキ
スト3の181ページは記載の誤りということになりましょうか。

以上の点について、皆さんのご意見をお聞かせくださいますようお願いいたします。


113.  Re^3: 「損害不発生」は否認か抗弁か(3)  N   ・東京クラス4  2004/08/02 (月) 14:43

> [1]特102条2項、商38条2項

テキスト3の124ページに記載がありました。

特102条2項について

「原告は、被告の侵害行為によって損害を被ったことを主張立証しなければならないが、
原告が当該特許権を実施していて被告の侵害品と市場で競合している場合には、原告が
損害を被ったことは事実上推定される。」

とあります。つまり、原告が特許権を実施していること、その実施品が被告の侵害品と
市場で競合していることをそれぞれ主張立証すれば、損害の発生について具体的に立証
する必要はないということですね。

その競合品が当該特許権を実施している必要があるのかどうかは争いがあるようですね。

特102条1項はどうでしょうか。

原告は「その侵害の行為がなければ販売することができた物」の存在を主張立証しなけ
ればならないので、その立証とともに損害の発生も立証されるように思われます。

このとき、原告の実施品が当該特許発明の実施品であれば、その実施品が自動的に「そ
の侵害の行為がなければ販売することができた物」になり、損害の発生も事実上推定さ
れるということになるのでしょうか。

8. 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か

127.  「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  N   ・東京クラス4  2004/08/26 (木) 12:51

テキスト3の90ページ最終行に「作用効果は、侵害の成否を判断する上で重要な間接
事実であるということができる。」と記載されています。

このことから、被告が「被告製品は本件特許が奏すべき作用効果を奏しない」と主張す
ることは、間接事実の主張であって「間接反証」に相当するものだと理解していました。

われわれのクラスで、「被告による『被告製品は作用効果を奏しない』との主張は、
『否認』か『抗弁』か『間接反証』か」という説明がありました。「否認」「抗弁」
「間接反証」についてはテキスト3の153ページにも説明があります。

本件発明の請求項に作用効果が構成要件として記載されていない限り、作用効果は原告
が証明責任を有する要件事実ではないでしょうから、まず「否認」でないことは明らか
です。そして、テキスト3の上記記載に基づけば、「抗弁」ではなく「間接反証」であ
ると理解できます。

ところが、テキスト4(基本判例集)10ページの「エアロゾル製剤事件」判決による
と、どうも「作用効果を奏しない」が「抗弁」であると読める余地があるとのことです。

ただし、研修に先立つ講師間会議での議論では、「抗弁」と理解している先生はいらっ
しゃらなかったようです。

「抗弁」「間接反証」いずれでも、「被告製品は作用効果を奏しない」を立証する責任
は被告にあるので、証明責任の観点からは抗弁でも間接反証でもどちらでも相違はない
ようです。

弁論主義の観点からはどうでしょうか。「間接事実には弁論主義が適用されない」とい
う原則に立つのであれば、「抗弁であれば弁論主義が適用され、間接反証であれば適用
されない」ということになります。つまり、間接反証ということであれば、裁判所は原
告被告の主張の有無にかかわらず作用効果の有無について判断できるようです。

ただし、テキスト3の163ページ最終段落に「これらの主張(技術的範囲の解釈)は、
一般には抗弁というよりも、技術的範囲の確定に関する間接事実の主張と考えられてい
る(もっとも、技術的範囲の確定に関する被告の主張がすべて弁論主義の適用範囲外で
あると解するのが妥当かどうかは、検討の余地があろう。・・・)」とあり、たとえ間
接事実であるとしても、裁判所は原告被告の主張を尊重するということかもしれません。

結局、抗弁でも間接反証でも実務上は差異が生じないということでしょうか。


151.  Re: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  松本直樹  [URL]  2004/09/07 (火) 22:53

 N さん、こんばんは。松本です(クラス7の講師をやったものです)。142に始ま
るスレッドとも共通で、そちらの方がよいかとも思ったのですが、こちらに特定の点で
ご返事したいとも思ったので、ここに付けておきます。

 「実務上は差異が生じない」かどうかは、主張の要否などの点では或る程度までそう
ですが、その前段階のところでの違いをちゃんと認識している必要があります。

 「間接事実」という場合には、結局はクレーム記載の要件の有無で侵害が決まるので
あって、そちらの方こそが認定されるべき、そういう意味で、たとえその「間接事実」
の立証に成功しても、それだけでは、それで結論がどうなるかは決まっていない、とい
う話になります。

 これに対して「抗弁」だということを認めるなら、それ自体で侵害が否定される、と
いう構造だということになります。たとえクレームの要件が認められても、それでも侵
害でない、ということです。

 もっとも、「間接反証」と言う場合には、間接事実の中でも、それだけで(またはそ
れだけなら)主要事実を否定することになるような、有力な間接事実であることまでも
意味合いとして含んで言っている場合もあります。そこの点までを前提とすると、抗弁
だというのと、かなり近い話になります。


152.  Re^2: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  N   ・東京クラス4  2004/09/07 (火) 23:13

松本先生、お久しぶりです(^ ^;)。
コメントありがとうございました。

「間接事実なのか抗弁なのかによって微妙な差異が存在するので、その点について良く
認識するように」ということですね。さらに勉強したいと思います。

ところで、我々のクラスで先生から聞いたお話では、講師間でも作用効果の主張が抗弁
であると認識されている先生はおられないということでした。

上の「作用効果」のスレッドでも話題になっているところですが、実際のところはまだ
確固たる通説はできあがっていないということでしょうか。


153.  Re^3: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  松本直樹  [URL]  2004/09/08 (水) 00:07

 N さん、こんばんは。松本です。

> ところで、我々のクラスで先生から聞いたお話では、講師間でも作用効果の主張が抗
> 弁であると認識されている先生はおられないということでした。

> 上の「作用効果」のスレッドでも話題になっているところですが、実際のところはま
> だ確固たる通説はできあがっていないということでしょうか。

 いつでも抗弁、ということはあり得ないです(物質特許を考えれば、これは明らかな
はずです。)。ところが、弁理士の先生と話をすると、結構、それに近い考えの人、と
いうか、それの確信を持っている人が居ます。

 そういう意味では、確固たるものではないかも知れません。でも、上記のとおり、い
つでも抗弁と言うことはあり得ず、それはハッキリしているはずなのですが。


154.  Re^4: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  N   ・東京クラス4  2004/09/09 (木) 12:33

「作用効果は抗弁か否か」を考える上で、ひとつ、基本的なところがよく理解できてい
ないのでお願いします。

抗弁というからには、被告に主張立証責任がある要件事実ですよね。

どのような事実が要件事実としての資格を有しているのだろうかという疑問です。

まず、実体法上で法律要件として規定されている事実が要件事実であることは理解でき
ます。

さらに、最高裁判例として確立した規範も要件事実の資格を有しているというのを読ん
だことがあります。均等の5要件などがこれに該当するのでしょうか。

上記以外に、要件事実となる資格を有するものがあるのでしょうか。

そのように考えると、安直に「作用効果は抗弁だ」とはとても言えないように思われる
のですが。


160.  Re^5: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  松本直樹  [URL]  2004/09/10 (金) 15:37

 こんにちは、松本です。

> 抗弁というからには、被告に主張立証責任がある要件事実ですよね。
> どのような事実が要件事実としての資格を有しているのだろうかという疑問です。
> まず、実体法上で法律要件として規定されている事実が要件事実であることは理解できます。
> さらに、最高裁判例として確立した規範も要件事実の資格を有しているというのを読
> んだことがあります。均等の5要件などがこれに該当するのでしょうか。
> 上記以外に、要件事実となる資格を有するものがあるのでしょうか。
> 
> そのように考えると、安直に「作用効果は抗弁だ」とはとても言えないように思われるのですが。

 出だしは良いのですが、途中からは、かなり奇妙なご指摘に見えます。作用効果無し
は、おっしゃるような意味では、厳密な抗弁には最初からなりようがないのですが、問
題点はそこではないと思います。

 法律上の本来の要件は「技術的範囲」に該当する行為であること、です。その判断に
当たって、クレームの各要件の具備が求められることは、ちょうど法律要件の場合と同
様の構造ということになります。そこで、これを積極的な要件と考えるとするならば、
それを全部満たしていても、作用効果がなければなお技術的範囲から外れると実体法レ
ベルで考えるのであれば、作用効果の無いことは、いわば抗弁と言うことになります。

 しかし、実体法レベルの問題として、一般的にこういう抗弁が認められ得るとは考え
られません。エアゾール事件の大阪地裁判決は、普通は支持されていないと思います。
要件をすべて充足する物なのであれば、明細書に記載された作用効果はなくても、技術
的範囲に当たるというのがオーソドックスな理解です。

 ただし、作用効果が否定されることが、クレームの要件を満たしているかどうかの判
断に影響を与える事があるというのはもっともです。


163.  Re^6: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  N   ・東京クラス4  2004/09/11 (土) 10:23

ご教示の内容をできるだけ理解して再質問しようとしたため、発言が遅くなりました。

発言No.151でおっしゃった事項

「間接事実である場合、作用効果不奏効が証明されてもそれだけで技術的範囲に属しな
いと決まるわけではない。

一方、抗弁である場合、作用効果不奏効が証明されればそれだけで技術的範囲に属しな
いと決まる。」

を念頭に置きつつ、作用効果不奏効が間接事実なのか抗弁なのか、の判断の分水嶺はど
こにあるのだろうかと探っているところです。

実体法で規定された要件なのか否かで判断しようとしたわけですが、

> そもそも法律上の本来の要件は「技術的範囲」に該当する行為であること

ということですね。

> その判断に当たって、クレームの各要件の具備が求められることは、ちょうど法律要
> 件の場合と同様の構造ということになります。

これは、「特許発明と被告製品それぞれの構成要件の特定、被告製品の各構成要件が特
許発明の各構成要件をそれぞれ充足している」という事実ないし評価が、要件事実と同
じ扱いを受けていることだと理解しました。

そのような扱いがなされていることから考えると、「被告製品は特許発明の効果を奏し
ていない」という事実ないし評価も、要件事実と同じ扱いを受け得るということでしょ
うか。

しかし、特許法70条の規定から考えると、特許請求の範囲に記載された発明の構成要
件は自動的に要件事実となり得ますが、特許請求の範囲に記載されていない作用効果が
同じ扱いを受けることはないと思うのですが。

いずれにしろ、抗弁(主要事実)なのか間接事実なのかによって、前述の通り扱いに大
きな隔たりがあるわけですから、判断が裁判毎に区々であっては困ります。何らかの判
断基準に基づいて、抗弁なのか間接事実なのかが決まるのではないか、と考えているわ
けです。

> 実体法レベルの問題として、一般的にこういう抗弁が認められ得るとは考えられませ
> ん。エアゾール事件の大阪地裁判決は、普通は支持されていないと思います。

ということが、現在の通説であると考えればよろしいのでしょうか。
(続く)


164.  Re^7: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  N   ・東京クラス4  2004/09/11 (土) 10:24

(続き)
> 作用効果が否定されることが、クレームの要件を満たしているかどうかの判断に影響
> を与える事があるというのはもっともです。

作用効果が技術的範囲属否の判断に影響を与える場面について、いくつか場合を考えて
みました。

(1) (被告側)文言対比から、技術的範囲に属しないことはほぼ間違いないが、念のた
    めに作用効果も奏しないことを主張しておく。

(2) (被告側)文言対比から、技術的範囲に属するとの心証がほぼ固まった模様。作用
    効果不奏効が認められないと、侵害であると決まってしまう。

(3) 原告は、特許発明の技術的範囲を広く解釈しようとしている。その広げた部分(被
    告製品が属する部分)は作用効果を奏しない、と被告が主張することにより、技術
    的範囲はそこまでは広がらないのだとの判断にもっていく。
    
(4) 原告は文言侵害をあきらめ(あるいは予備的に)、均等侵害を主張する場合におい
    て、均等の第2要件で「作用効果を奏する」と主張する。

上記(1) は、作用効果不奏効を間接事実として扱って良い典型的な場合でしょうか。

上記(2) は、間接事実であれば間接反証となる場合でしょうか。ただし、作用効果不奏
効の立証に成功した場合、間接事実として扱う限り非侵害と判断されるか否かは不明で
すが、抗弁として扱われれば自動的に非侵害になるという差があります。

吉藤に登場する判決例では、上記(3) の場合が多いように感じました。この場合も、作
用効果不奏効は「重要な間接事実」という扱いで特に問題ないのでしょうね。

上記(4) は、「作用効果を奏する」が、原告主張立証責任の要件事実ないし評価として
確立している、といえばよろしいのでしょうか。


165.  Re^8: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  松本直樹  [URL]  2004/09/11 (土) 14:30

 N さんこんにちは、松本です。

| を念頭に置きつつ、作用効果不奏効が間接事実なのか抗弁なのか、の判断の分水嶺は
| どこにあるのだろうかと探っているところです。

 異論は少しはあるけれど、普通は抗弁にはならないというのが私の理解であり通説の
ハズです。探ったりする問題ではありません。そう明言しているつもりなのですが。

| そのような扱いがなされていることから考えると、「被告製品は特許発明の効果を奏
| していない」という事実ないし評価も、要件事実と同じ扱いを受け得るということで
| しょうか。

 説明された効果を使っていなくても、クレームの要件を具備すれば、技術的範囲に含
まれるのです(異論はあるけど)。「特許請求の範囲の記載に基づいて定め」るからで
す。

| しかし、特許法70条の規定から考えると、特許請求の範囲に記載された発明の構成
| 要件は自動的に要件事実となり得ますが、特許請求の範囲に記載されていない作用効
| 果が同じ扱いを受けることはないと思うのですが。

 だからそう言って居るんだけどなあ。

| いずれにしろ、抗弁(主要事実)なのか間接事実なのかによって、前述の通り扱いに
| 大きな隔たりがあるわけですから、判断が裁判毎に区々であっては困ります。何らか
| の判断基準に基づいて、抗弁なのか間接事実なのかが決まるのではないか、と考えて
| いるわけです。

 エアゾール事件の大阪地裁だけがヘンなのです(……とまでいうと言い過ぎかも知れ
ませんが、分かりやすく言うとそうです。)。

| > 実体法レベルの問題として、一般的にこういう抗弁が認められ得るとは考えられま
| > せん。エアゾール事件の大阪地裁判決は、普通は支持されていないと思います。
| ということが、現在の通説であると考えればよろしいのでしょうか。

 そうです。


166.  Re^9: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  N   ・東京クラス4  2004/09/11 (土) 15:16

どうもご面倒ばかりおかけしています。

> | しかし、特許法70条の規定から考えると、特許請求の範囲に記載された発明の構
> | 成要件は自動的に要件事実となり得ますが、特許請求の範囲に記載されていない作
> | 用効果が同じ扱いを受けることはないと思うのですが。
> 
>  だからそう言って居るんだけどなあ。

No.160でおっしゃっている

>  出だしは良いのですが、途中からは、かなり奇妙なご指摘に見えます。作用効果無
> しは、おっしゃるような意味では、厳密な抗弁には最初からなりようがないのですが、
> 問題点はそこではないと思います。
> 
>  法律上の本来の要件は「技術的範囲」に該当する行為であること、です。その判断
> に当たって、クレームの各要件の具備が求められることは、ちょうど法律要件の場合
> と同様の構造ということになります。そこで、これを積極的な要件と考えるとするな
> らば、それを全部満たしていても、作用効果がなければなお技術的範囲から外れると
> 実体法レベルで考えるのであれば、作用効果の無いことは、いわば抗弁と言うことに
> なります。

の理解で私がつまずいているように思われます。

「問題点はそこではない」「作用効果がなければなお技術的範囲から外れると実体法レ
ベルで考えるのであれば、作用効果の無いことは、いわば抗弁と言うことに」

を私が誤って理解しているようです。

この部分について再度解説いただけるでしょうか。


167.  Re^10: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  松本直樹(クラス7講師)  [URL]  2004/09/11 (土) 19:42

 N さんこんばんは、松本です。

| どうもご面倒ばかりおかけしています。

 いえいえ。

| >  法律上の本来の要件は「技術的範囲」に該当する行為であること、です。その判
| > 断に当たって、クレームの各要件の具備が求められることは、ちょうど法律要件の
| > 場合と同様の構造ということになります。そこで、これを積極的な要件と考えると
| > するならば、それを全部満たしていても、作用効果がなければなお技術的範囲から
| > 外れると実体法レベルで考えるのであれば、作用効果の無いことは、いわば抗弁と
| > 言うことになります。
| 
| の理解で私がつまずいているように思われます。
| 「問題点はそこではない」「作用効果がなければなお技術的範囲から外れると実体法
| レベルで考えるのであれば、作用効果の無いことは、いわば抗弁と言うことに」
| を私が誤って理解しているようです。

 そうだとすれば、私が余計な遠慮をした書き方をしたのがいけなかったのですね。
「なお技術的範囲から外れると実体法レベルで考えるのであれば」と書きましたが、私
は普通の場合にそういう風には考えていませんし、私の理解は通説の通りだと思います。


168.  Re^11: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  N   ・東京クラス4  2004/09/11 (土) 21:31

ご丁寧にコメントいただき、ありがとうございました。

議論の内容を理解するよう努めた上、原則から外れないように物事を考えていきたいと
思います。

ところで、上のNo.164で作用効果が問題となる場合を列挙しましたが、大事なの
をひとつ忘れていました。

(5) クレームの文言が不適切でクレームの範囲が広すぎ、発明者がした発明範囲を外れ
    た部分までカバーしている。被告製品がその広すぎる部分にある。広すぎる部分は
    本来の発明範囲から外れていることを、作用効果不奏効の点から立証しようとして
    いる。

このような場合が、被告の立場に立つと最も深刻でしょうか。「抗弁として認めてく
れ」と言いたくなりますね。


172.  Re^12: 「作用効果不奏功」は抗弁か間接反証か  松本直樹(クラス7講師)  [URL]  2004/09/12 (日) 13:49

 N さん、こんにちは、松本です。

> (5) クレームの文言が不適切でクレームの範囲が広すぎ、発明者がした発明範囲を外
>     れた部分までカバーしている。被告製品がその広すぎる部分にある。広すぎる部
>     分は本来の発明範囲から外れていることを、作用効果不奏効の点から立証しよう
>     としている。
> 
> このような場合が、被告の立場に立つと最も深刻でしょうか。「抗弁として認めてく
> れ」と言いたくなりますね。

 「広すぎる」ということの内容によっては、確かに、そうなるかも知れません。

 でも場合によっては、「発明者がした発明範囲を外れた部分まで」といっても、実施
と見るべきかも知れません。それも、たとえ開示された効果を使っていなくても、です。
たとえば物質特許の場合は、基本的にはそう考えるべきだと思います。

 その前のNo.164の(1)〜(4)は、違和感なく読みました。

9. 《出題2》損害額の主張に対する認否

131.  《出題2》損害額の主張に対する認否  N   ・東京クラス4  2004/08/28 (土) 10:17

《出題2》の訴状において、原告(共有権者の一人)は特102条1項に基づいて以下
のように主張しています。

「原告は本件特許発明を実施し、一個当たり少なくとも100円の利益を得ているから、
原告は、これに被告の販売数量を乗じた4918万8000円の損害を受けた。」

また、別のところで「原告の特許権持分は二分の一である。」と主張しています。

しかし、原告は訴状においては何ら立証を行っていません。

これに対し、私は起案の答弁書において以下のように認否しました。

「原告が本件特許発明を実施している点、原告が一個当たり少なくとも100円の利益
をあげている点については不知である。また、原告の実施の能力は不知である。

 また、本件特許権を原告と共有する東急建設が本件特許発明を実施しているか否かに
ついては不知である。さらに前述の通り、本件特許権の原告の持分は不知である。」
なお、販売数量についてはこの項の前で否認しています。

原告が特許発明を実施している点、原告の一個当たりの利益額は原告に証明責任があり
ます。原告の実施能力についても、テキストでは原告の証明責任としています。

ところが、講義では、「原告の実施の能力は不知である。」は敢えて答弁書で主張する
必要はないような回答でした。原告に証明責任があり、まだ立証されていない事実につ
いては、当然のこととして答弁書で否認すべきであると考えていたので意外でした。さ
らに「受験生の態度としてはどうでしょうか?」と質問すると、「それであれば書いた
方が良いでしょうね。」ということでした。

原告が本件特許発明を実施している点を不知とすることについても、講師陣は答弁書の
必須記載事項とは考えていないようでした。「被告の言い分」には「原告は特許発明を
実施している」との記述が一切ないのですから、「原告の実施を争っても意味がない」
とまでは言えないように思われるのですが・・。

皆さんはどのようにお考えでしょうか。


143.  Re: 《出題2》損害額の主張に対する認否  N   ・東京クラス4  2004/09/03 (金) 22:21

先日、我々のクラスの懇親会で、「実務では『不知』という主張を用いることはない。
」とうかがいました。また、損害額についての詳細な主張は、侵害論が終了して損害論
に入ってから行うこととしても良いのでしょう。

そのような実務における観点からは、答弁書での認否では「(特102条1項に基づ
く)訴状における原告の主張は否認する。」でよろしいのかも知れません。実務では。

問題は、我々が答案としてどのように記載すべきかということです。

昨年の本試験の事例問題1に関して特許庁から公表されている「論点」では、

http://www.jpo.go.jp/torikumi/benrishi/benrishi2/pdf/singai_h15/jirei1.pdf

「問1 起案
 2 請求の原因に対する認否の内容
  ・イ号物件の構成についての認否と構成要件充足性についての認否
  ・損害賠償額についての認否」

とあります。

「損害賠償額についての認否」という論点に関し、答案で「損害賠償額についての原告
の主張を否認する」趣旨の答弁書を記載したとして、それで合格点がもらえるでしょう
か。

ここは、特102条1項であれば、そこにおいて原告が主張すべき要件事実に分解し、
その一つ一つについての認否を答案に記載することにより、はじめて出題者の意図に沿
うように思われます。

そして、特許権者が特許発明を実施しているかどうか、特許権者の1個あたり利益額、
特許権者の実施能力については情報を知らされていないのですから、答案に記載する認
否は「不知」とならざるを得ません。

以上のように考えるのですが、皆さんはいかがでしょうか。

昨年の合格者からは、「実務のベテランが『実務ではこのように記載するのだ』と、半
ば確信犯の如く実務の通りに答案を作成し、不合格となっていた」というような話も聞
きます。本当かどうか知りませんが。

そのようなこともあるので、答案の起案を実務と切り離して考えようとしてます。


174.  Re^2: 《出題2》損害額の主張に対する認否  松本直樹(クラス7講師)  [URL]  2004/09/17 (金) 11:40

| 「原告が本件特許発明を実施している点、原告が一個当たり少なくとも100円の利
| 益をあげている点については不知である。また、原告の実施の能力は不知である。
|  また、本件特許権を原告と共有する東急建設が本件特許発明を実施しているか否か
| については不知である。さらに前述の通り、本件特許権の原告の持分は不知である。
| 」

 答弁書の段階で、ここまで個別的に認否する必要は疑問です。まとめて否認で良さそ
うです。少なくとも実際的にはそうです。

| 原告が特許発明を実施している点、原告の一個当たりの利益額は原告に証明責任があ
| ります。原告の実施能力についても、テキストでは原告の証明責任としています。

 証明責任が問題というわけではないように思います。不知なら(=知らなくて認めな
いなら)不知、否認なら否認、には違いなく、ただ、証明責任を負うならそれに留まる
わけにはいかない、という話です。

| ところが、講義では、「原告の実施の能力は不知である。」は敢えて答弁書で主張す
| る必要はないような回答でした。原告に証明責任があり、まだ立証されていない事実
| については、当然のこととして答弁書で否認すべきであると考えていたので意外でし
| た。

 「敢えて答弁書で主張する必要はない」というのは、まとめて否認でよい、この段階
ではそこまで個々の認否を必要としない、という意味なのではないでしょうか? 

| 先日、我々のクラスの懇親会で、「実務では『不知』という主張を用いることはない。
| 」とうかがいました。

 私は、不知は不知と書いてますけど。昔と違って余り不知といわない、というのはあ
るのですが、それは、こないだの民訴法の改正の後、書証の成立について一々は認否し
なくなったのですね。以前だと、自分の感知していない書類については、みんな不知と
言うことになってしまっていたのですが、それの出番が無くなりました。

| 昨年の本試験の事例問題1に関して特許庁から公表されている
(中略)
| 「損害賠償額についての認否」という論点に関し、答案で
| 「損害賠償額についての原告の主張を否認する」趣旨の答弁書を記載したとして、そ
| れで合格点がもらえるでしょうか。

 問題によるように思います。個々に分けても、どれについても否認とか不知とかいう
しかないのであれば、全部を否認でも同じですよね? その場合なら、それでよいように
思えます。


175.  Re^3: 《出題2》損害額の主張に対する認否  N   ・東京クラス4  2004/09/18 (土) 10:55

松本先生、コメントありがとうございます。

>  「敢えて答弁書で主張する必要はない」というのは、まとめて否認でよい、この段
> 階ではそこまで個々の認否を必要としない、という意味なのではないでしょうか? 

>  問題によるように思います。個々に分けても、どれについても否認とか不知とかいうしかないのであれば、全部を否認でも同じですよね? その場合なら、それでよいように思えます。

わかりしまた。

出題意図をよく把握して、分けて主張する必要がありそうであれば分けて主張するが、
損害額の認否には特に論点がなさそうであればまとめて否認で良いと考えます。

例えば「被告の言い分」から、訴状の損害額の主張の一部は認める、一部は否認すると
いうことであれば認める部分と否認する部分とを分けて記載し、そうでなければまとめ
て否認という形で答案を構成しようと思います。

ところで、自宅起案4(不正競争の訴状作成)では、出題とともに「原告の言い分」
「被告の言い分」「原告被告の報告書」が配布されました。その「報告書」には、原
告・被告の言い分の内容を超えた事項が記載されています。「配布された情報は答案で
用いることが要請されている」との観点で無理して訴状を起案しました。予想される被
告の反論について必要な主張・立証を予め記載しておく、という趣旨ですね。

ところが、解説でのお話しでは、「原告の言い分のみを採用し、それ以外の配付資料は
無視して良かった」ということらしいです。

本試験ではこんなことはないでしょうが・・・。

10. 反訴と民訴法142条

132.  反訴と民訴法142条  N   ・東京クラス4  2004/08/28 (土) 15:52

我々のクラスで、「特許権侵害差止等請求事件において、被告が反訴として差止等請求
権不存在確認訴訟を起こすことは許されないのか」との質問に対し、先生からは「訴訟
物が同一であり、民訴法142条(二重起訴の禁止)により許されない」との回答があ
りました。「反訴といえども訴えであり、民訴142条の適用を受ける」というもので
す。

しかしそうだとすると、「差止等請求権不存在確認訴訟」の被告が反訴として「差止等
請求訴訟」を起こすことも訴訟物同一で許されないこととなってしまいますが、これが
許されていることは明らかです。

伊藤眞著「民訴法」182ページには

「二重起訴は(民訴142条の)『更に』という文言から理解されるように、独立の訴
えを提起することを意味するから、継続中の訴訟手続において反訴を提起したり、訴え
を追加的に変更したりすることは、禁止の対象とされない。したがって、訴えの利益が
認められる場合、たとえば債権についての消極的確認訴訟の被告が当該債権にもとづい
て給付訴訟の反訴を提起することは、二重起訴に該当しない。」
とありました。

つまり、民訴142条は反訴には適用されないということです。反訴が許されるか否か
は訴えの利益の有無で判断できそうです。

「差止等請求権不存在確認訴訟の被告が反訴として差止等請求訴訟を起こすことには訴
えの利益が認められるので許される。一方、特許権侵害差止等請求事件において、被告
が反訴として差止等請求権不存在確認訴訟を起こすことは訴えの利益が認められないの
で許されない」

ということになりましょうか。

一方、「差止等請求権不存在確認訴訟の被告が、『別訴』として差止等請求訴訟を起こ
すことは民訴142条により許されない」ということになるのですね。

テキスト4の184ページ7行に記載の「賃借権不存在確認を求める訴えの反訴として
同一賃借権の存在確認を求めることはできない」とする判決例も、同様に「訴えの利益
の有無」で理解できそうです。


133.  Re: 反訴と民訴法142条  島谷 学  2004/08/31 (火) 15:53

私もそのように理解しております。

伊藤真先生の例で付け加えると、被告は給付訴訟を反訴提起して勝訴すると執行力を手
に入れることができますので、訴えの利益ありと言えるようです。

その逆のパターン(給付訴訟の反訴で債務不存在確認訴訟を提起)では訴えの利益とい
うか確認の利益はなさそうですね。


173.  Re^2: 反訴と民訴法142条  松本直樹(クラス7講師)  [URL]  2004/09/15 (水) 11:30

 こんにちは、松本です。

> 伊藤真先生の例で付け加えると、被告は給付訴訟を反訴提起して勝訴すると執行力を
> 手に入れることができますので、訴えの利益ありと言えるようです。
> その逆のパターン(給付訴訟の反訴で債務不存在確認訴訟を提起)では訴えの利益と
> いうか確認の利益はなさそうですね。

 その通りですが、ちょっと蛇足を。判決の既判力の内容を考えると、そうなると言う
ことですね。給付請求の棄却判決は、その請求権の不存在を内容とする既判力を有しま
す。これは、不存在確認請求の認容判決の既判力と同じです。だから、不存在確認請求
の反訴は、確認の利益が無いのですね。

 ついでに言うと、不存在確認請求に対して、反訴として給付請求が提起されると、元
の不存在確認請求の方が却下になるというのが現在の扱いのようです。私も知らなかっ
たのですが、ちょうど8月31日付けの47部の判決でそうなっているのが出ています(ジ
ャストシステムx松下電器)。最判平16年3月25日がそうなっていて、と判示されていま
す。不存在確認請求の方が元だというのに、ちょっとヘンな感じもしますが。

 さらについでに。米国の場合だと、特許権者からの請求に対して、反訴として無効確
認請求をするのは普通の事で、それなりの意義もあります。これは、不存在確認ではな
くて、「無効確認」だからなのですね。日本では、同じことはそもそも出来ないです。
特許法178条6項が「審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対す
るものでなければ、提起することができない。」と規定していることから、無効そのも
の請求は出来ないですから。

11. 作用効果

142.  作用効果  A     2004/09/03 (金) 17:55

 木村耕太郎先生は、「特許訴訟に勝つ方法」162頁で、訴状で本件発明の作用効果を
記載すべきでないとされています。構成要件を満たすが作用効果を奏さない場合、侵害
が成立しないことを認めているようになってしまうからと根拠付けられています。

 木村先生の主張は、他のところでもなるほど感じます。

 弁理士会の基本テキストと矛盾しますが、どなたかご意見はありませんか?


146.  Re: 作用効果  H    (クラス4)  [URL]  2004/09/04 (土) 13:37

よくはわかりませんが、もし、訴状に作用効果を記載しなかったとしても、被告側の答
弁・反論ではこの点にも触れられるでしょうから、その結果、原告側からでも結局は主
張するようなことになるのではないでしょうか。

訴状のみで訴訟手続が完結するわけではないでしょうし、相手側の主張・反論で論点、
争点が明らかになり、また、それが当初のものとは異なり、変化することもあると思い
ます。となれば、訴状に作用効果を全く記載しないということで、それだけで有利にな
るとは思えませんが、どうでしょうか。

また、「構成要件を満たすが作用効果を奏さない場合」とは、ちょっと考えにくいので
はないかとも思います。明細書記載の作用効果を奏しないから、構成が異なるとし、技
術的範囲に属しないと考えると思いますので、「構成要件を満たす」となれば、それは
結局、技術的範囲に属することになるのではないでしょうか、


147.  Re^2: 作用効果  N   ・東京クラス4  2004/09/05 (日) 15:54

> 木村耕太郎先生は、「特許訴訟に勝つ方法」162頁で、訴状で本件発明の作用効果を
> 記載すべきでないとされています。構成要件を満たすが作用効果を奏さない場合、侵
> 害が成立しないことを認めているようになってしまうからと根拠付けられています。

「被告製品は一見作用効果を奏しないように見えるが、○○の理由で技術的範囲に属し
ている」ということであれば、訴状でそのように主張するというのが正解でしょうね。
その点を考慮せずに安直に「被告製品は作用効果を奏する」と記載してしまうと、後か
ら困ることになるのは確かです。

また、訴状に記載しようがしまいが被告から「作用効果を奏しない」と反論されること
が見えているなら、訴状で黙ってたから有利になるということもないでしょう。

もうひとつあり得るのは以下のような場合でしょうか。

「第1クレームは上位概念、第2クレームは下位概念であり、第1クレームにもとづい
て侵害訴訟を提起したのだが、うっかり第2クレームのみが奏する効果を主張してしま
った。」

しかしこんなレベルの話をしているのではないですよね。

「実際の訴訟事件において、訴状でどこまで書くのか」という観点ですと、実務者の経
験毎に種々の考え方があるのだと思います。私は訴訟経験がないのでわかりませんが。

一方、答案記載という観点で考えると、テキスト3の93ページ記載の東京地裁提言、
民訴規則53条の精神に則り、できるかぎりの主張をしておくべきということでしょう
か。


148.  Re^3: 作用効果  A     2004/09/06 (月) 14:47


 返信いただきありがとうございます。

 この点につき他のクラスで触れた先生がいらっしゃったようです。

 「確かに、作用効果不奏効の抗弁(判例あり)があり、書くほうが不利な場合もある。

 しかし、均等論の主張との関係で。。。」

 といった説明のようでした。


149.  Re^4: 作用効果  松本直樹  [URL]  2004/09/07 (火) 12:55

 皆さんこんにちは、松本です。

 最初の引用文(構成要件を満たすが作用効果を奏さない場合、侵害が成立しないこと
を認めているようになってしまうからと根拠付けられています。)だと、ちょっと不思
議に思ったのですが、原文を読んだところもっともだと思い直しました。原文では次の
ようになっているのですね: 

 「特許発明の作用効果について記載するものとしている参考書式がありますが、そう
すると、被告製品が構成要件を満たすが特許発明の作用効果を有しない場合は侵害が成
立しないことを認めているかのようであり、おかしなことになります。」

 木村さんの指摘はもっともと思いますが、それを引用するのに「作用効果を奏さない
場合、」と切ってしまうと、どうも意味合いが違って見えます。

 木村さんの指摘が意味がある場面は、少なくともその作用効果については奏さなくて
も侵害となるべき場合(特に典型的には、いずれの要件を否定する認定の方向に働く間
接事実にもならない場合)、ですね。そうなる場合としては、明細書の説明するベスト
の実施例での作用効果が書いてあるけれども、そこは無くても侵害となるべき場合、が
あります。

 また、物質特許の場合であれば、作用効果の記載は基本的に有用性開示のためであっ
て、その作用を使わない使い方であっても侵害となるべきことはもちろんです。

 これらの場合には、たとえ原告が、被告のものがその作用効果を有すると考えていた
としても、それを下手に論じると、それ自体が要件であるかのように(抗弁であるにし
ても)議論が展開していってしまう可能性があります。その作用効果の存否自体が争点
となっていく、ということです。これを不適切だというのが、木村さんの指摘だと思い
ます。

 それでも、被告が、その種の主張をすることが分かっているのであれば、むしろ、議
論の構造を明確にした上で説明をしておく方が、良い場合も多いようにも思います。も
っとも、余りに何でも書くのは無理ですから、まあそのへんは頃合いが必要ですね。


150.  Re^5: 作用効果  I       2004/09/07 (火) 15:48

A さんと同じクラスのI  と申します。

テキスト判例集に、作用効果を奏さないことの抗弁に関する判決として挙げられていた
ものを読みましたが、結局、この抗弁は認容されておりません。他に、作用効果を奏さ
ないことの抗弁で勝訴した判決例はあるのでしょうか?


155.  Re^6: 作用効果  N   ・東京クラス4  2004/09/09 (木) 13:04

「作用効果を奏しないから技術的範囲に入らない」という点を重要な論点とする判決例
はあるようですが、I  先生のご質問は「その中で被告の抗弁として認容されたもの
はあるのか」ということですよね。

私のクラスの先生のお話では、「エアロゾル製剤事件が、抗弁として扱われたように読
める唯一の事例である」いったニュアンスでした。

中山注解の733〜734ページでは、

「作用効果の比較は、技術的範囲の確定の上で重要ではあるが、作用効果の同一のみで
結論することはできない。

 技術的範囲の決定の要件事実は、発明の構成手段の同一性にあり、作用効果の比較は、
この発明の構成手段の同一性認定に当たっての間接事実であるからである。」

とした上で、判決例を挙げています。

吉藤「特許法概説」(第11版では419ページ)(A作用効果に関する基準)では、
あたかも作用効果が要件事実であるような書き方ですね。そして、注1としていくつか
の判決例が紹介されています。

ここで紹介されている判決例の要旨を読むと、同じような傾向が見受けられます。即ち、
原告が技術的範囲を何とか広く解釈しようと試みているのに対し、「作用効果を奏しな
い範囲まで拡げて解釈することは許されない」といった傾向のものが多いです。

このような事例は、現在であれば均等論で判断され、作用効果については逆に均等要件
2として原告側が主張立証責任を負うことになりましたね。

「文言上明らかに技術的範囲に属するが、作用効果を奏しないから技術的範囲から外れ
る」といった事例は上記吉藤の事例中にはないのかも知れません。


171.  Re^7: 作用効果  A     2004/09/11 (土) 22:30

色々とレスポンスいただきましてありがとうございます。
いま少し考えてから再度レスポンスします。
いずれにしても、いよいよ試験ですね。
この掲示板も見るようにアナウンスします。


176.  Re^8: 発言の効果  N   ・東京クラス4  2004/09/18 (土) 11:33

> いずれにしても、いよいよ試験ですね。
> この掲示板も見るようにアナウンスします。

見るだけでなく、発言するようにお勧めください。
発言を作成する過程で、疑問が解けていき、理解が深まります。発言するだけで、目的
の7割は達しているというのが私の実感です。


177.  Re^9: 発言の効果  A     2004/09/19 (日) 20:54

> > いずれにしても、いよいよ試験ですね。
> > この掲示板も見るようにアナウンスします。
> 
> 見るだけでなく、発言するようにお勧めください。
> 発言を作成する過程で、疑問が解けていき、理解が深まります。発言するだけで、目
> 的の7割は達しているというのが私の実感です。

 かしこまりました。東京クラス9の担保研修が本日終了しました。

 委員長として、メーリングリストを立ち上げ、できるだけ有用な情報を提供するよう
にして来ました。ただ、なかなか歯がゆいところもあります。情報を共有したくても、
情報のソースによってデッドコピーは避けなければなりません。

 いずれにしても、こちらにも書き込みをして行きたいと思います。実はこの掲示板の
URLをそちらで再度アップしたところです。

 研修も終了し、掲示板の活用次第でおおいに合格率に影響しますね。今後とも宜しく
お願いいたします。

12. デッドコピーの訴えを意匠権侵害に変更

178.  デッドコピーの訴えを意匠権侵害に変更  A     2004/09/19 (日) 20:58

質問です。

 意匠権未登録の状態で、とりあえずデッドコピーで訴え、登録後、意匠権に基づく権
利侵害に変更できるのでしょうか?

 本日、研修で質問しましたが、明解な回答は得られませんでした。

 どなたかご教示いただけますでしょうか?私も追って調べるつもりですが?


179.  Re: デッドコピーの訴えを意匠権侵害に変更  松本直樹(クラス7講師)  [URL]  2004/09/21 (火) 10:43

 松本です。

>  意匠権未登録の状態で、とりあえずデッドコピーで訴え、登録後、意匠権に基づく
> 権利侵害に変更できるのでしょうか?

 おそらくは可能です。

 民事訴訟法143条1項が、「(訴えの変更)/  原告は、請求の基礎に変更がない限り、
口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる。ただし、こ
れにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは、この限りでない。 」として
います。ですから、「請求の基礎に変更」となるかどうか、の問題です。

 直接の議論や判例は知らないのですが、同じように止める話ではあり、その請求理由
も、それなりに共通性はある話なので、OKのように思います。でも、請求理由は、デ
ッドコピーの場合は自分の方の先行商品が問題となるのに対して、意匠なら意匠登録だ
けが理由であるというところは、大いに違うという議論もあり得ないではないです。

 でもこの問題は結局は、意匠による請求を別訴で提起するということは当然に可能な
ので、訴状貼付の印紙が新たに必要かどうかだけの話になります。昔の家屋明渡しの例
での判例(最判昭28・9・11民集7-9-918)などを見ても、あまり厳しいことはいいそうに
なく、おそらく認めてもらえるように思います。


209.  Re^2: 商標権侵害を不正競争行為に変更  N   ・東京クラス4  2004/10/17 (日) 10:23

> >  意匠権未登録の状態で、とりあえずデッドコピーで訴え、登録後、意匠権に基づ
> > く権利侵害に変更できるのでしょうか?
> 
>  おそらくは可能です。

先日の模擬試験で小問の問題として以下のような問題が出されました。

問:商標権侵害訴訟を起こして訴訟が長引いているうちに、その商標登録が不使用取消
審判で取り消されそうになった。不正競争行為に乗り換えようと思うが、原告はどうし
たらいいか。被告はそれに対してどのような対抗ができるか。

これに対し、原告の対応としては訴えの変更を挙げ、被告の対応としては、「請求の基
礎に変更がある。著しく訴訟手続を遅滞させる。」の2点を挙げました。

模範解答では、被告の対応としては訴訟手続の遅滞のみが挙がっており、請求の基礎の
変更は挙がっていませんでした。そこで、この点まで挙げることは誤りなのかどうかが
気になっていました。

本日、このスレッドの内容を読み返し、「すでにここで議論されていたのだ」と再認識
しました。

松本先生のご指摘に基づいて解釈すれば、「裁判所は結局は『請求の基礎に変更があ
る』との被告の主張は認めない可能性が高いが、被告がそのような主張をすることが誤
りであるとまでは言えない。」といったところでしょうか。

13. 損害額の認否・主張の変更

185.  損害額の認否・主張の変更  N   ・東京クラス4  2004/09/26 (日) 15:47

日弁主催の模試(2回目)は商標権侵害訴訟の答弁書作成でした。

訴状には、商標法38条3項の損害額の主張で、

売値×販売数量×実施料率=損害額

が記載されています。

「被告の言い分」では、「販売数量は訴状の数値より多い○○である」「実施料率は訴
状の数値より低い△△である」と書かれています。

私は、被告の言い分が被告に不利な数値であった場合に答弁書にどのように反映させる
かがわかりませんでした。

模範解答の答弁書によると、

「売値と販売数量は認める。実施料率は否認する。多くても△△である。」というもの
でした。

訴状で現実よりも被告に有利な数値が主張されている場合、答弁書では「認める」でよ
ろしいということですね。

ところで、訴訟の途中で、原告が「訴状に記載した販売数量よりも実際の数量が多い」
ことに気づいたらどうすべきか、という点について、先日の懇親会において別のクラス
の受講生から問いかけられました。

そのクラスでは質疑があり、「訴えを変更すればいいのだ」という結論だったそうです。

確かに、請求の趣旨における請求金額は、処分権主義が支配する事項であるから、訴え
の変更で変更できそうです。

しかし、請求の原因において主張した販売数量であって、被告が認めた数値については、
処分権主義が支配するのでしょうか。やはり弁論主義が支配する事実であるように思わ
れます。

そうとすると、販売数量について自分に有利なように変更するためには、自白の撤回と
同様の要件が必要ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。


186.  Re: 損害額の認否・主張の変更  松本直樹(クラス7講師)  [URL]  2004/09/26 (日) 23:04

> 確かに、請求の趣旨における請求金額は、処分権主義が支配する事項であるから、訴
> えの変更で変更できそうです。
> しかし、請求の原因において主張した販売数量であって、被告が認めた数値について
> は、処分権主義が支配するのでしょうか。やはり弁論主義が支配する事実であるよう
> に思われます。
> そうとすると、販売数量について自分に有利なように変更するためには、自白の撤回
> と同様の要件が必要ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

 面白い着眼ですね。しかし、原告側の主張の意味から、そういう問題は生じないよう
に思います。

 原告側の、被告販売数量についての主張は、“少なくともそれだけの数量を販売し
た”という意味のハズです。それしかない、という意味ではない、ということです。実
際、少なくとも〜、という書き方をとる場合も普通であり、たとえそうでなくても同様
の趣旨と思えます。

 別の言い方としては、100台と主張していたのが、120台となるにしても、100台の主
張を否定しているわけではなくて、それがあった上で20台を加えているのだ、とも言え
ると思います。これも、上と同じことです。


187.  Re^2: 損害額の認否・主張の変更  N   ・東京クラス4  2004/09/27 (月) 11:23

松本先生、コメントありがとうございます。

原告が「被告の販売数量は1万枚」と主張し、被告がこれを認めた後に、原告が販売数
量を2万枚に変更する場合を考えます。

この変更は、処分権主義の範疇ではなく、弁論主義が適用される事実の問題であると理
解しました。

さらに、原告の当初主張には「少なくとも」との文言はありませんが、原告の主張は1
万枚に限定する趣旨ではないと推認され、原告が主張を2万枚に変更することは認めら
れ、後は立証の問題だけだということですね。

一方、被告は、一度原告の主張を認めてしまえば、その後「いや5千枚だ」と主張しよ
うとしても、自白の撤回の要件が認められない限り不可である、ということですね。

一般に、主張する側は後からその主張を変更することは比較的容易であるが、認否する
側は一度認めてしまうとその後の自白の撤回は困難である、ということでしょうか。


188.  Re^3: 損害額の認否・主張の変更  松本直樹(クラス7講師)  [URL]  2004/09/28 (火) 00:53

> 原告が「被告の販売数量は1万枚」と主張し、被告がこれを認めた後に、原告が販売
> 数量を2万枚に変更する場合を考えます。
> この変更は、処分権主義の範疇ではなく、弁論主義が適用される事実の問題であると
> 理解しました。

 いや、請求の点では処分権主義がかかってきます。現に2万枚を前提とした請求の趣
旨になっていないのに、それだけの認容判決がくだされることはあり得ないです。

 ただ、N さんがご指摘ののように、事実認定の部分もあり、その点について弁論主
義の議論もあり得る、という話です。

> 一般に、主張する側は後からその主張を変更することは比較的容易であるが、認否す
> る側は一度認めてしまうとその後の自白の撤回は困難である、ということでしょうか。

 そうもまとめられます。ただ、余りいい加減な主張をすると、認定の関係で有利に働
かない可能性はあると思います。でも、主張を後から上乗せするのは、理屈として可能
というのはもっともだと思いませんか? 


189.  Re^4: 損害額の認否・主張の変更  N   ・東京クラス4  2004/09/28 (火) 10:06

>  いや、請求の点では処分権主義がかかってきます。現に2万枚を前提とした請求の
> 趣旨になっていないのに、それだけの認容判決がくだされることはあり得ないです。

そうですね。その点については抜けていました。請求の趣旨、および特定請求原因を変
更する点については、処分権主義の範疇でした。理由付け請求原因の変更のみが弁論主
義の範疇になるということでしょうか。

>  主張を後から上乗せするのは、理屈として可能というのはもっともだと思いません
> か? 

その点については理解に到りました。

例えば問屋Xからの情報に基づいて1万枚で訴訟を提起した後、問屋Yの証言が得られ
てさらに1万枚追加する、などは認められて当然と思います。

一方、単位数量当たりの利益額だとか、実施料率については、ちょっと違うような気が
しないでもありません。後からの情報で値が追加になるということは考えにくく、後か
らの情報に基づいて別のロジックに置き換えるという性格であるように思われます。

このような場合にまで、主張を変更できるのかどうかについてはまだ疑問が残っていま
す。


190.  Re^5: 損害額の認否・主張の変更  松本直樹(クラス7講師)  [URL]  2004/09/30 (木) 01:00

> 一方、単位数量当たりの利益額だとか、実施料率については、ちょっと違うような気
> がしないでもありません。後からの情報で値が追加になるということは考えにくく、
> 後からの情報に基づいて別のロジックに置き換えるという性格であるように思われま
> す。
> このような場合にまで、主張を変更できるのかどうかについてはまだ疑問が残ってい
> ます。

 それはもっともな話です。

 このスレッドの出だしは、「販売数量」だったので、追加するのはおかしくない、と
いう話だったのですね。

 それと違って、利益率だと、後からあげようとすると先に低く言っていたのがそれな
りに障害になるのはもっともです。これは、その内容を考えると、さらにもっともです。
或る利益率というのは、コストとして何かを認めるところを前提にしているので、前に
言っていたより高い利益率の主張というのは、そのコストを認めていたのを覆す話にな
る、ということがあると思います。

 それでも、この話はそのままに自白というわけではなく(元々、少なくとも、と主張
していただろうから、形の上で結論を覆すわけではなく、またコストの点は間接事実だ
から)、さらに、たとえ自白でもそれ程に厳しいわけではなくて、すべては総合的に認
定される際の程度問題、ではあろうかと思います。


191.  Re^6: 損害額の認否・主張の変更  N   ・東京クラス4  2004/09/30 (木) 10:20

松本先生、コメントありがとうございます。

だいたい、実務においてどのように取り扱われているか、どのように考えられているか
が理解できたように思います。

14. 差止請求敗訴確定後の損害賠償請求

192.  差止請求敗訴確定後の損害賠償請求  N   ・東京クラス4  2004/10/02 (土) 11:09

弁理士協同組合の第1回模試に私は参加できず、資料のみを購入しました。

その中の「設問」で以下のような問題とその解答が提示されています。

問題(抄)「(差止を請求する)本事案で、技術的範囲に属しないとして原告敗訴判決
が確定した。その後原告は、本件特許の侵害に基づく損害賠償を求めて別訴を提起した。
裁判所は、後の裁判で原告の請求を容認することができるか?あるいは裁判所は、特許
無効を理由として原告の請求を棄却することができるか?」

回答「いずれも可能である。前の判決には既判力が生じるが、その既判力は、原告の差
止請求権の有無にのみ生じる。前判決の理由中の判断にも、原告の損害賠償請求権の有
無ににも、既判力は及ばない。」

なるほど。差止請求と損害賠償請求とでは訴訟物が別だから、そうなるのか。と納得し
たものの、釈然としません。

1.本当にそうなのか?

2.もしそうだとしたら、原告は東京地裁に差止請求の訴えを起こし、同時期に大阪地
裁に損害賠償請求の訴えを起こしても、二重起訴の禁止に該当しないのか。
(続く)


193.  Re: 既判力の範囲  N   ・東京クラス4  2004/10/02 (土) 11:11

(続き)
1.本当にそうなのか?

一部請求に関して、「明示的な一部請求で敗訴した原告が、残部請求の訴えを提起する
ことは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない」との判例(最二小判平
10.6.12.)があります。そこでは、前訴によって紛争が解決されたとの被告の合理的期
待に反し、被告に二重の応訴を強いるものであるとの理由が示されているようです。

以上の考え方に基づけば、「技術的範囲に属しない」との理由で差止請求が認められな
かった場合も、上記一部請求の場合と同様、後訴で損害賠償請求を行うことは、信義則
に反して許されないように思われます。

民訴法基礎研修の教科書(書記官研修所監修)の中で「既判力」では、「主文判断の前
提事実(事実認定又は先行的法律関係)が他の訴訟で争いになっても、それと異なる認
定や判断をすることは可能である。」「利息請求訴訟の判決理由中で元本債権の存在が
認定されていても、元本債権の別訴では被告は元本債権の存在を争うことは妨げられな
い。」とあります。

この教科書にこのように書かれているということは、これが裁判所の実務であり、上記
回答が正解ということになるのでしょうか。

一方伊藤眞著「民訴法」では「(判決理由中の判断は、たとえそれが権利関係に関する
判断であっても、後訴裁判所に対する拘束力を認められない)との原則に対しては、有
力な学説の側から、いわゆる争点効理論が提唱され、・・」とあります。また「信義則
にもとづく拘束力」との説明もあります。ざっと読んだところでは、上記一部請求敗訴
後の残部請求が認められないのと同じ理由で、今回の設問の後訴も認められない場合が
あるように思われます。

本誌でこのような設問がなされた場合、理由さえしっかりしていればどちらの解答も正
解となるのか、それとも「既判力は及ばない」という解答のみが正解となるのか、そも
そもこのような論点が存在する問題は出題されないと見ておいたらいいのか、迷うとこ
ろです。
(続く)


195.  Re^2: 二重起訴の禁止  N   ・東京クラス4  2004/10/02 (土) 11:34

(続き)
2.原告は東京地裁に差止請求の訴えを起こし、同時期に大阪地裁に損害賠償請求の訴
えを起こしても、二重起訴の禁止に該当しないのか。

この件に関し、今回の研修の教科書をぱらぱらと読み返しましたが、明示の回答は見つ
かりませんでした。もし記載をご存じの方がおられましたら教えてください。

書記官研修所監修の教科書の「二重起訴の禁止」では「前・後訴が基本たる権利関係の
積極的確認請求とこれから派生する給付請求権にもとづく給付請求である場合などは、
前・後訴の訴訟物は異なる。もっとも、これらの場合、既判力の矛盾衝突は生じないが、
いずれが先に係属しても、審理の重複と矛盾判断の恐れがあるとして、後訴を二重起訴
禁止に当たると解するのが現在の多数説である。これによれば、原告は請求の趣旨を変
更することにより、被告は反訴の形式で審判の申立てをすべきであるとされる。」とあ
ります。

これからすると、前訴確定後の後訴提起については既判力の問題が生じないが、前訴係
属中の後訴提起については二重起訴として禁止されるというのが、裁判所の実務という
ことになるのでしょうか。


198.  Re^3: 二重起訴の禁止  S     2004/10/04 (月) 10:20

個人的には時間もないし、判例ベースの解答だけにし、争点効に気づいても無視した方
が得策だと考えました。

伝聞なのですが、去年の合格者が「(昨年の)講師は判例に沿った内容で十分で、何と
か説はいらない」と言ってました。旧訴訟物理論、新訴訟物理論でも新訴訟物理論は無
視するといった感じですか。

こういう考えを杓子定規に通すと法的思考力が全く身につかないと思いますので、目の
前の試験を無難にこなすテクぐらいに考えた方がいいかもしれません。つまらない書き
込みですみません。


200.  Re^4: 二重起訴の禁止  N   ・東京クラス4  2004/10/04 (月) 21:28

> 個人的には時間もないし、判例ベースの解答だけにし、争点効に気づいても無視した
> 方が得策だと考えました。

その通りですね。

私は原則ですらきちんと理解できていない受験生ですから、原則以外の領域に踏み出し
たらやけどするに決まっています。

これから本試験までは、原則のみをきちんと理解するように心がけたいと思います。


196.  Re^3: 二重起訴の禁止  松本直樹(クラス7講師)  [URL]  2004/10/03 (日) 23:46

 N さんこんばんは、松本です。

| 本誌でこのような設問がなされた場合、理由さえしっかりしていればどちらの解答も
| 正解となるのか、それとも「既判力は及ばない」という解答のみが正解となるのか、
| そもそもこのような論点が存在する問題は出題されないと見ておいたらいいのか、迷
| うところです。

 非常に微妙なところが何点かありますが、既判力が及ばないと考えるなら、その事は
示した方がよいです。そして、既判力が及ばない場合についての争点効の議論は、判例
ではないので、試験の際に支持するべきかは疑問です。絶対にダメとは言いません、場
合によっては、支持した方が常識的、という設問も考えられなくはないです。

 上記の最初のところは、次のような話です。この設問の順番の逆で、損害賠償が先で、
そこで侵害が認定されているという場合、その判決では侵害認定がされていますが、そ
れはまさに理由中の判断なので、そこは既判力の対象ではないですね。それはよいので
すが、先行が差止請求の場合、差止請求権の存否が訴訟物であり既判力の対象ですが、
それと侵害認定とはまったく重なってしまいます。それでも侵害認定は既判力の対象で
はない、侵害認定は理由中の判断に過ぎないから、……という見解がどちらかというと
一般的で、その回答でもそうなっているのですね。でも、私はどうも、まったく重なっ
てしまうために、この部分については疑問を持っています。ちなみに、そもそも民事訴
訟法の議論ではこう言うのを題材に使わないために、普通には論じられていない話です。

 ただ、試験の回答としては、是非、既判力の理論の理解を示したいところです。そう
いう意味では、ここが重なっているから、というだけの回答は、少なくともダメです。
オーソドックスなのは、訴訟物についての判断だけが既判力の対象で、理由中の判断は
後に拘束力を及ぼさない、という原則論をちゃんと理解していると示すことです。たと
え批判するとしても、理解していることをまずは示す必要があります。


197.  Re^4: 二重起訴の禁止  松本直樹(クラス7講師)  [URL]  2004/10/03 (日) 23:56

 松本です。二重起訴の話を別発言にしました。

| これからすると、前訴確定後の後訴提起については既判力の問題が生じないが、前訴
| 係属中の後訴提起については二重起訴として禁止されるというのが、裁判所の実務と
| いうことになるのでしょうか。

 それは十分にあり得る結論ですが、多少は留意しておくべき事があると思います。正
面きってそうやって並べると、むしろ矛盾していると言われる面もあるような気もしま
す。N さんご自身もそう感じて釈然としないのではないかと思います。

 私も確信を持っては判例および学説状況を把握してないところがありますが、次のよ
うな理解は常識的なところだと思います。既判力の関係の話については、争点効を否定
する最高裁判決が(ある意味でたまたま)存在するのですね。これに対して、ここで取
り上げている二重起訴の問題のようなものは、はっきりと否定する話はないと思います
(私のよく知っている範囲では)。

 そんな状況なので、二重起訴として禁ずるという話については「多数説」とまで言え
るのですが、既判力ないし争点効については、試験の回答としては、なかなか広げる方
向の考えをとりにくい、というのが状況だと思います。本当は、余り違いのない話のハ
ズだと思うのですよ。

 試験についての話として重要なのは、訴訟物の理解と、そういう意味では既判力とい
うのは極めて限定された内容になってしまうということを良く理解することが、まず重
要です。さらには、二重起訴の話も原則はそこにあるのだが、まあバリエーションがあ
り得る、といった程度に理解する、という事になるように思います。


199.  Re^5: 既判力の範囲と二重起訴の禁止  N   ・東京クラス4  2004/10/04 (月) 21:26

松本先生、コメントありがとうございます。

>  試験についての話として重要なのは、訴訟物の理解と、そういう意味では既判力と
> いうのは極めて限定された内容になってしまうということを良く理解することが、ま
> ず重要です。さらには、二重起訴の話も原則はそこにあるのだが、まあバリエーショ
> ンがあり得る、といった程度に理解する、という事になるように思います。

わかりました。

とにかく試験に向けては、

「既判力は主文で表示された事項(あるいは訴訟物たる権利関係)についてのみ生じ、
理由中の判断は既判力を有しない。」という原則のみを肝に銘じることにします。

一部請求敗訴の場合の残部請求に関する最高裁判決がつい頭にあることと、伊藤眞先生
の教科書の書きぶりから、余計なことを考えてしまいました。

上記一部請求の判決について、書記官研修所監修の教科書では、脚柱にしか記載されて
いません。例外であるかのような扱いです。一方、伊藤眞先生の教科書では、実務と異
なった主張を展開され、逆に(一部請求と残部を合わせた)債権全体が訴訟物となると
いったお考えのようです。

私のように中途半端な知識しかない受験生にとっては、伊藤先生の教科書は危険かもし
れないと思うようになりました。これから本試験までは、書記官研修所監修の教科書の
みを参考にしようと思います。
以上
http://homepage3.nifty.com/nmat/IconCom.htm
松本直樹のホームページ(http://homepage3.nifty.com/nmat/index.htm)へ戻る
御連絡はメールでホームページの末尾にあるアドレスまで。
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