Last Modified: 2011年09月20日11時54分 、ウェブ頁当初掲載: 2009年5月27日

弁理士能力担保研修コメント2010年分
〜特定侵害訴訟代理業務のための研修の講師としてのコメント〜

By 松本直樹 
松本直樹のホームページ(http://homepage3.nifty.com/nmat/index.htm)へ戻る
(御連絡はメールで、上記のホームページの末尾にあるアドレスまで。)

 以下に、2010年のコメントを書きます。いただいたご質問への返事のメールと、私の掲示板での議論を、いずれもここに掲載する予定です。

 なお、以前のもの(翌年のものも)は以下のリンク先にあります:
  04年分(メール分) 弁理士能力担保研修の掲示板(04年分) 05年分および06年分のファイル
  弁理士能力担保研修コメント07年分(08年も) 同09年分 同11年分
  特許事件と要件事実論


目次

1. 宿題の起案へのコメント一覧

 宿題は、昨年(09年)からはその前とは違ってちょっと複雑な事案です。でも、昨年も書いたように、間接侵害の方を相手にするわけではないので、そう難しいというわけではありません。なお、番号は、登録番号の末尾です。

  1.  6
 岡山地裁は違います。
 「代表者 甲国一郎」だけでなく、「代表取締役」も入れてください。代表権限を持つことを表す肩書きだから。
 ご自分のアドレスを入れて頂く題意だと思います。また、送達場所の記載も。
 請求の趣旨において被告の製品名を書くのはあまり普通ではないです、ダメとは限らないが。
 請求の趣旨の金銭請求について、「遅延損害金」とかは書かないのが普通です。抽象的に、金銭だけを書きます。割合は金額なので、書くけれど。
 被告製品について、構成において、余りクレームのようなスタイルで書く必要は無い。誤解しているように誤解されないように。要件を充足することを論証できればよい。その論証は、もうちょっと独立した形でした方が良い(この件では簡単すぎるので仕方がない面もあるけれど)。
 よって書きに誤記がありますね。
 証拠方法の一覧も末尾にあった方が便利です。
(最初なので沢山書いてしまいました。別に問題点が特に多いわけではありません。後ろの方のものには繰り返しては書いていないこともあります。)

2.  8
 証拠(甲3まで)が付いているのは、不要だけどまあ良いとして、それが目録より前なのは誤解でしょうか? その後に計算書もついています。
 被告製品の構成を、ここまでクレームのような形ですることはないです。該当性を論証しているところはよいです。
 その論証ですが、
  ・クレーム中は「純正サラダオイル」ではないので、ちょっとヘンです。
  ・20ccの配合が「包含する」というより、該当する、という方がぴったりします。現実の被告のものが当てはまっている、ということなのです。
 違法性とか、細かく項目だてしているのは、悪くないです。
 「2500万円は下らないことも、主張する」と並べてしまうのは、ただそのままになっているのだと奇妙です。
 よって書きで、5000万円の方の性質が書いてないのはヘンです(2項の主張は難しそうなのはともかくとして)。遅延損害金はよいとして。

3.  4
 26ヶ月で5200万円というのは、期間の計算が疑問です。被告利益での賠償請求も、難しいですね、実施がないですから。
 経過も書くのは、実際的です。
 よって書きでは、金銭の請求の性質を書くのが普通です。
 甲5として登記簿謄本が出ていますが、特に証拠とする意味があるのでしょうか。資格証明だけなら、証拠とするのは不要です。

4.  2
 全体に良く書けています。
 よって書きで、請求金銭の性質を書きます。
 附属書類として資格証明がいります。

5.  3
 フィルムについての言い分を引用するのも良いですが、まとめとしては端的な再反論があるべきです。原告の主張の文書なのですから。
 目録は、独立した形で必要です。趣旨にも、別紙、と書いてあります。
 10%の理由は、他の実施者の証言ですか。でも、原告の実施の問題があります。

6.  8
 大阪地裁でもOKです。
 経過を書くなら、端的な再反論も書いた方が良いです。
 目録を付けてください。

7.  7
 大阪地裁でも良いです。
 代表取締役、との肩書きも入れてください。
 金額も数字で入れるのが趣旨です。また、ご自身のアドレスも。
 資格証明書と登記簿謄本は同じです、というか、後者を前者の趣旨で出すの普通です(今はまた書類の正式名は変わっていたりしますが。代表者事項証明書、など)。
 よって書きの書き方が不完全です。
 物件目録が極めてシンプル。これもあり得ますが、争われないなら内容があった方が良い面もあります。

8.  7
 大阪地裁でも良いです。
 付記証書写しが添付されるという記載は、実際的です。
 物件目録の記載が細かいのは、微妙なところがあります。これ自体を争われる可能性も。

9.  8
 要件充足を論証しているのはよいです。
 ただし、たとえば、サラダオイルについて、実施例と比べる論旨が疑問です。また、それと「同一」というのは奇妙です。
 よって書きに損害賠償金とあるのは、良いです。

10.  5
 大阪地裁でもOKです。
 期間計算が勘違いしているようです。単価が5円。
 サラダ油の要件について、包含と言うより、当てはまる、とか該当する、とか言うべきと思います。
 目録を甲号証にするのはヘンです。
 資格証明書が1通というのは、なにを想定されているかな? 代表者の資格証明なのですよ。
 
11.  4
 知財高裁ではないです。一審は地裁で、知財高裁は控訴審です。
 訴額は、金銭請求だけでは違います。
 「以下の構成要件に分説する」というと、ちょっとヘンです。
 「相当する」だけでは、不十分、という意味にも見えます(違っていても相当するには違いない、という意味のようにも見える。テキスト2や参考起案もそうなっているところがありますが)。当てはまる、とかの方が適切です。
 2項と3項をただ並べるのは不十分です。テキスト2に準拠かとも思いますが、ドラマでご覧になったとおりです。

12.  2
 大阪地裁でもOKです。
 送達場所、を書きましょう。
 廃棄請求をする際には、どこどこにある〜、などの限定を付する方が普通ですね。でも、おにぎり自体の廃棄の意義は分かりませんけれど(継続的に残っていないし、たまたまあるものを廃棄することにどれだけ意味があるのか疑問)。
 よって書きにも請求の法的性質を書きましょう。その前に主張しているので、問題はないようなものですが。
 付記証書写し、をあげるのは実際的です。

13.  4
 証拠の複製を付けるのは題意ではないです。まあ、それは良いとしても、目録がその後ろについているのは不適切です。
 訴額が、金銭請求の2500万円だけではいけません。
 被告製品の構成と本件発明の構成要件とを比較して、同じである、という言い方はちょっと疑問。
 よって書きの後ろに賠償金額についての主張を書いているのはヘンです。

14.  7
 良くできています。
 活性、は誤字ですね。
 附属書類に、ちょっと欠落があります。証拠を付けて頂く必要はなかったですが、目録の後ろなので、やるべきところは正しく認識されているのだと思います。

15.  7
 若干量のサラダオイル、と、米5kgに対して200ccのサラダオイル、を、「異なる。」とするのは、その後で明細書を持って来て「同じ構成」とするにしても、奇妙です。概念としては違いがありますが、当てはまる、あるいは要件を充足する、とは言えるはずで、そういう主張の仕方をするべきです。
 2項での計算は難しいですが、それが駄目な場合の3項もお書きであり、悪くないと思います。
 経過をお書きの点は現実的です。ただ、フィルムと交渉せよとの回答、というだけでは、不十分ですが。

16.  8 
 請求の趣旨に製品名をいきなり入れるのも、絶対にダメではないですが、出題文には沿っていないです(目録を求めていますから)。
 金額が半端なのは、過去分の遅延損害金を加えているのですね。それもあり得ますが、実際的にそこまでやってないです。また、複利計算になるところは当然ではありません(民法405条で、1年以上延滞なら催告の上でなら元本組み入れできますが、本件では以前に催告の事情がないようです)。
 甲号証を付けるのは要求されてはいません。

17.  0
 岡山地方・家庭裁判所、は違います。
 受付印、がこれに入っているのは奇妙です。テキスト1は、裁判所のファイルのつもりです。
 訴額の計算で、計算書の@のところが2400万円になっているのは、一桁違うようです。なのに、掛け算の結果は、更に桁が違います。はて?
 テキスト2に極めて忠実ですね。ただ、相当する、は、十分ではないように見えます。また、2項と3項をただ並べるのは不十分です。
 
18.  1
 地裁の名称を書くのが題意です(「訴状」としては、不要と明記されている以外は完成形を書きましょう)。
 効果の記載が詳細なので、被告のものとしての記載が合致するまでになっていません、なのに同一とするのは妙です(もっとも、効果の議論が必須な訳ではありません)。
 2項での請求は難しそうです。
 よって書きでは、損害賠償などの法的性質を書きます。

19.  8
 良くできています。
 「代表取締役」の肩書きも入れて下さい。
 「被告製品の構成要件」というのは妙な言い方です。
 1年と計算しているのは勘違いでしょうか。それで240万個、でも2項での請求は難しそうです。
 よって書きでは、損害賠償などの法的性質を書きます。

20.  9
 良くできています。
 「代表取締役」の肩書きも入れて下さい。
 経過を書くなら、原告としての主張も加えるのが普通でしょう。
 目録は、別紙の形にしましょう。

21.  0
 岡山地裁は違います。
 「代表取締役」の肩書きも入れて下さい。
 「構成要件Aの一部であるから」というのは、趣旨としては良いと思いますが、ちょっと違和感もあります。
 2項は難しそうです。なお、「〜の利益の額を得ている。」ではなくて、〜額の利益を得ている、では?
 3項を予備的に主張するわけですね。
 証拠もご用意頂くのも良いですが、目録の前に綴じてはヘンです。

22.  4
 良くできています。
 大阪地裁でも良いです。
 2項は難しそうです、それで3項も主張するのはよいですが、ただ並べるのは不十分です(テキスト通りではありますが)。
 肩書きに「社長」まで入れるのは普通と違います(無くて良いです)。

23.  2
 岡山地裁は違います。
 訴額が5億円余りとはずいぶんと多額になる計算ですね? どうしたのでしょうか?
 要件の分説の仕方がさすがに細かすぎます。位置づけが把握できないように思います。
 740万個というのは計算違いと思います。
 よって書きに、遅延損害金、という性質も書きましょう。
 甲3に原告履歴事項全部証明書を入れているのは、名称変更の関係でしょうか。そうなら良くお考えです。
 附属書類は、ちょっと足りないようです。

24.  8
 金額が○ですね。
 請求の趣旨の本文中に「目録記載のおにぎり」とすることはなさそうです。
 証拠説明書も、求められていないとはいえ、詳細に作られていて、良いです。ただし、閉じ方はちょっと違います。
 「中に含まれる」等、その通りで、とても緻密な論証です(ここまで必要かはともかくとして)。
 よって書きで、不法行為の後の日である本訴状送達の日の翌日から、というのは、必要な論述なのでしょうか。
 2項での請求は難しそうです、それで金額にも問題はあります。

25.  7
 大阪地裁でも良いです。
 「代表者」だけの肩書きでは不十分です。弁護士、等の肩書きだけというのも不足です。
 ご自分の事務所アドレスで、との題意です。送達場所を記して下さい。
 訴額を書くなら、5000万円だけではいけません。
 2項の請求は難しそうです。
 予備的請求は、この形の場合に入らなさそうです、一部認容になるから。なお、その金額の計算が妙です(桁を間違えた? )。
 よって書きの中で、金銭請求の性質を書くのが普通です。

2. 差止請求だけの場合の管轄など

日付: 2010/05/16(日) 20:04
件名: 能力担保研修クラス5の○○です

松本先生

能力担保研修クラス5の○○です。
昨日は詳細なご講義ありがとうございます。

早速ですが、昨日帰宅後にいくつかわからない点がでてきましたので、先生のお言葉
に甘えて質問をさせて頂きます。

管轄について、講義では、知的財産訴訟においては民訴法4条1項、5条1号、9号
がよく用いられるとのお話でした。

そこで、以下の質問があります。

@例えば、宿題の事案の訴状の場合、仮に差止請求のみ(損害賠償請求をしない場
合)であれば、民訴法5条1号を根拠とできず、4条1項又は5条9号を根拠として
6条1項より大阪地裁のみの管轄となるという理解でよろしいのでしょうか?

Aハンドブックp181において、差止請求権不存在確認の訴えは民訴法5条9号所定
の訴えに該当するとされていますが、例えば宿題の事案において、丙川フーズが確認
の訴えを先に提起したとすると、その管轄裁判所はどこでしょうか?

以上、お忙しい中大変申し訳ありませんがご回答お願い致します。


------------------------------------------------------------
日付: 2010/05/17(月) 11:08
件名: Re: 能力担保研修クラス5の○○です

 ○○ さん、メール(Sun, 16 May 2010 20:04:11 +0900付け)
をありがとうございました、松本 です。

| @例えば、宿題の事案の訴状の場合、仮に差止請求のみ(損害賠償請求を
| しない場合)であれば、民訴法5条1号を根拠とできず、4条1項又は5
| 条9号を根拠として6条1項より大阪地裁のみの管轄となるという理解で
| よろしいのでしょうか?

 そうです。

 この設問では、中国地方で販売、ということになっているので、不法行為
地として主張できるのは、そちらに限られそうです。なので、仮に差止請求
だけの場合を考えると、普通裁判籍と不法行為地だけを根拠とすることにな
り、大阪地裁になります。また仮に、これが東日本でも何らかの不法行為が
されていれば、それを根拠に東京地裁もあり得ることになります。

| Aハンドブックp181において、差止請求権不存在確認の訴えは民訴法5
| 条9号所定の訴えに該当するとされていますが、例えば宿題の事案におい
| て、丙川フーズが確認の訴えを先に提起したとすると、その管轄裁判所は
| どこでしょうか?

 被告の普通裁判籍を根拠としての東京地裁と、自らの実施場所(それを主
張されている不法行為地として)を根拠としての大阪地裁と、ということに
なると思います。被告と原告が逆なので、被告の普通裁判籍での管轄は変
わってきますが、不法行為地については同じですね。

 さらに現実的には、併合請求(不正競争の関連の)がある場合にどうか、
とかも問題になり得そうですが(私も即答できないところがあります、その
へんは)。

 ・2010年5月17日(月)11時07分51秒 
 ・松本直樹


------------------------------------------------------------
日付: 2010/05/17(月) 21:34
件名: RE: 能力担保研修クラス5の○○です

松本先生

能力担保研修クラス5の○○です。
早速のご回答誠にありがとうございます。
管轄につき理解が深まりました。ありがとうございました。
今後ともよろしくお願い致します。

3. 作用効果は要件か?

 クラス5の初日の講義の終わり頃にご質問をいただいて、作用効果についての話をしました。ちょうどそれと同様の話が、講師間のメーリングリストでも話題になりました。宿題の参考答案で、“被告製品が発明と同一の作用効果を奏するから、技術的範 囲に属する”という記載があるが、構成がすべて一致することが、技術的範囲に含まれるために十分ではないか、等とのご指摘です。

3.1 作用効果は間接事実

 まず、この話題の発端の講師のお考えでは、作用効果の点は立証が不可能な場合も多くて、むしろ有害的、仮に作用効果を奏さないとすれば、それはクレームが広すぎるのでは、……などであるものの、異論もあるので書いといた方が無難か、とのこと。

 これに対して私は次の様にご返事しました:

 私もおおむねそういう方向に考えていて、“厳密な意味での請求原因事実
ではない”と自分は考えている旨の説明をしています。ただ、間接事実にな
り得る、という説明です。

 ただこの辺り、微妙な話ではあります。A4サイズのテキスト4では、
90〜91頁で結局は「重要な間接事実」としています。これがよいのだと思っ
ています(とはいえ、こちらもよく分からないところはありますが)。

 ハンドブック134頁では、かなり強調していて(「主張するのが通例」と
か、「有機的に結合」云々とか)、でもまた「抗弁」とする見解もあるとか
と書いてあります。ハンドブックは、結局は抗弁説をしりぞけて、「訴状に
おいて..主張も行うのが通例」と結論していて、けっこう強調する方向にあ
り(まあ、現実に即しているようにも思いますが)、あたかも訴状に書くべ
き請求原因事実とする見解をとっているような印象を受けるとも思います。

 それでも、良く読むと要件事実としているわけではありません。それで、
どこがおかしいとも言いにくいのですが、要件事実教育の趣旨から言うと、
ハンドブックはちょっと強調しすぎのような気がします。

 なお、「抗弁」というのだと、被告の主張・証明の対象とは言え(不奏効
が)、それ自体が要件事実と扱うことになるわけで、疑問です。

3.2 特許性との関係

 Y先生からのメールで、次の様なご指摘をいただきました: 「要件事実論」を実務的に理解することが最重要、という観点から、差止請求権における要件の法条関係は、100条←68条←2条3項←70条1項となること、作用効果は法令の文言から直ちに要件とはいえないこと、をご指摘いただきました。それで次の様にご返事をメールしました:

 先生のご指摘のように、70条などから言って、クレームの規定する要
件によって技術的範囲が決まって侵害が決まる、作用効果はそれとは違って
それ自体は要件事実ではない(請求原因でも抗弁でもない)、と私も考える
のですが(既に書いたように)、次の点で多少とも微妙なところもあるかな、
と思っています。

 特許性との関係です。作用効果は特許性の主張では確かに重要です。ハン
ドブックの134頁では、「そもそも特許発明は」「作用効果を奏することに
特徴がある」としていますが(それで訴状でも主張するのが重要とする)、
特許性についての議論を考えると、まったくその通りです。そして、それは
クレームの要件のいずれかと関係があるのが通例とも思いますが(そうなら
間接事実というので問題ない)、そうとも限りません。考えてみると、そう
いう場合の考え方は難しいです。

 典型例として、化学物質特許の場合にも、進歩性の議論では作用効果を考
えるとされるのが一般的です。この場合は、クレームの文言としては、その
作用効果の利用に限定して解釈する端緒は無いのですが、それでどうするの
か、ということです。そういう理由で特許性を認める「思想の創作」として
の特許発明の場合に、侵害時の技術的範囲では無視するというのには、スッ
キリしないものがあります。

 物質特許の場合など、クレームに書いてないなら、基本的には広く侵害と
するべきと思います。でも、作用効果に対応するように限定したところこそ
が、クレームには書いてないけれど、発明だ、という場合もあるとは思われ、
その場合は侵害の成否についてもそうするべきです(または、クレームの要
件は不十分というなら無効というのもあり得ます)。

 産業上利用可能性についても同様の話があります。どう役に立つか、とい
うのは、例示が求められるだけで、その役に立て方と違う使い方でもクレー
ムに合致する限り侵害というのが原則と思います。

 それでも、70条は独占権の規程のところにおかれているとはいえ、特許性
と技術的範囲(侵害についての)とがそれなりに対応が付くべきものではあ
るはずです。特に、新規性ではその通りです、そのために審査中は補正をし
て狭めたりするわけです。

 結論的には、特許性の中でも「新規性」は技術的範囲を対象に考えるが
(上記のようにその技術的範囲に該当する先行技術があるかどうかが問題)、
それ以外の「進歩性」や「有用性」(産業上利用可能性)は必ずしもそうで
はない、むしろ開示内容の問題である、技術的範囲はそれより広くあり得る、
と考えています。でも、その様に積極的に論じた(開き直った? )ものは見
た記憶がないのですが。

3.3 均等侵害との関係

 Y先生から、「技術的範囲はそれより広くあり得る」という点は、均等侵害の場合はまさにそれだ、という趣旨のメールをいただきました。均等侵害を認める際の「手がかり」は、作用効果等であり、そこでは作用効果が要件事実になる、というご指摘です。確かに共通点はありますが、私の取り上げた上記3.2の話とは、また別の場面です。以下のようなご返事メールを書きました:


 均等侵害の場合が、或る意味で技術的範囲が広げて認められる場合である
のはその通りですが、それは“クレーム文言”よりも、という点ですね(こ
れを広げているというべきかどうかも微妙なところですが)。

 均等侵害については、Y先生がお書きのように、非充足の要件の代わり
に最判の要件が(そのうちのどれまでが積極要件かはまた議論があり得ます
が)要件事実になりますね、当然ながら。

 私の元の趣旨は、ちょっと違う場面のことで、「進歩性」や「有用性」
(産業上利用可能性)の認められる点と被告製品がズレていても(=それを
使っていなくても)侵害を認めて良いのではないか、そういう意味で“技術
的範囲はそれ(発明の効果などのポイント)より広くあり得る”という話で、
基本的には、クレーム文言通りを考えています。

 場面としては、方向が反対向きです。つまり、「クレーム文言」の範囲を
調整する話としては共通ですが、均等は同じ効果を達している等を理由とし
て広げる話であるのに対して、元の私の(また牧野さんの)話題は、説明さ
れた効果の無い場合に狭めるべきか(必ずしも狭めるべきではないと私は考
える)、という話です。

http://homepage3.nifty.com/nmat/BenrisKen10.htm
松本直樹のホームページ(http://homepage3.nifty.com/nmat/index.htm)へ戻る
(御連絡はメールで、上記のホームページの末尾にあるアドレスまで。)


(HTML originally created on 27 May 2009 JST
by WZ5.03 with xhtml)