Last Modified: 2011年09月23日00時48分 、ウェブ頁当初掲載: 2009年5月27日

弁理士能力担保研修コメント2011年分
〜特定侵害訴訟代理業務のための研修の講師としてのコメント〜

By 松本直樹 
松本直樹のホームページ(http://homepage3.nifty.com/nmat/index.htm)へ戻る
(御連絡はメールで、上記のホームページの末尾にあるアドレスまで。)

 以下に、2011年のコメントを書きます。いただいたご質問への返事のメールと、私の掲示板での議論を、いずれもここに掲載する予定です。

 なお、以前のものは以下のリンク先にあります:
  04年分(メール分) 弁理士能力担保研修の掲示板(04年分) 05年分および06年分のファイル
  弁理士能力担保研修コメント07年分(08年も) 同09年分 同10年分
  特許事件と要件事実論


目次

1. 宿題の起案へのコメント一覧

 ……すいません、今年はちゃんと書いてないです。

2. 不当利得の計算など

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日付: 2011/09/11(日) 12:46
件名: 能力担保研修の質問 

松本先生

能力担保研修では大変お世話になりました。
また、先日も楽しく為になるお話をお聞かせいただき
ありがとうございました。

お言葉に甘えまして、さっそく講義のときにお聞きできなかった
質問をお送りしたします。

(1) 不当利得の現存利益の計算について

特許権侵害に基づく損害賠償の支払い後、
当該特許権が別途提起された無効審判によって無効になったときは
既に支払った賠償金を、民法703条の不当利得返還請求に基づいて
その返還を請求できるとされていて、判例では現存する利益のみを
返還すればよいとされていると思いますが(大判明35年10月14日、
大判昭8年2月23日)、
企業活動では、通常は得られた資金をプールして運用しているので、
受け取った賠償金も一旦プールされた後にそれぞれ使われているという
場合が多いと思いますが、このような場合に「現存する利益」とは
どのように計算されるのでしょうか。

(2) 損害論に関して

侵害訴訟において、被告が製造者、販売者など複数いた場合に、
これらをまとめて訴えようと個別に訴えようと、それぞれ侵害行為が
認定されれば全ての被告に、不真性連帯債務が生じて、
原告の遺失利益を少なくとも誰かが支払わなくてはならない
ということになると思います。
そうすると例えば製造者のみを訴えて原告の遺失利益を支払わせた後、
別途販売者のみを訴えたとすると、侵害が認定されても、
既に製造者により原告の遺失利益は支払済みであるとされれば
損害額はゼロという認定になるというような場合があり得る
ということで宜しいでしょうか。
このような場合に製造者は販売者に対して、民法442条に基づく
求償権を得るのでしょうか。
また、原告が販売者を訴えて侵害が確定しない限り、製造者には
求償権は発生しないということになるのでしょうか。

以上が質問です。

なお、同じような疑問を抱えていると思うクラス4の方々などにも
重複した質問が来ないよう Cc: を入れておきました。

お時間があるときなどにお答えいただければ幸いです。
それではどうぞ宜しくお願い致します。

2011年度能力担保研修クラス4 
F
 
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日付: 2011/09/12(月) 00:57
件名: Re: 能力担保研修の質問 

 F さん、メール(Sun, 11 Sep 2011 12:46:41 +0900 (JST))をありがとうございました、松本 
 です。

| (1) 不当利得の現存利益の計算について
| 
| 特許権侵害に基づく損害賠償の支払い後、
| 当該特許権が別途提起された無効審判によって無効になったときは
| 既に支払った賠償金を、民法703条の不当利得返還請求に基づいて
| その返還を請求できるとされていて、判例では現存する利益のみを
| 返還すればよいとされていると思いますが(大判明35年10月14日、
| 大判昭8年2月23日)、
| 企業活動では、通常は得られた資金をプールして運用しているので、
| 受け取った賠償金も一旦プールされた後にそれぞれ使われているという
| 場合が多いと思いますが、このような場合に「現存する利益」とは
| どのように計算されるのでしょうか。

 普通は、その分は“プール”が増えているはずなので、現存すると考える
と思います。(まあ、違う議論もすることはあるでしょうが。)

 まず、「判例では」ではなくて、703条の条文の問題ですね。「第703条
(不当利得の返還義務) 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利
益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益
者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を
負う。」

 なお、悪意だと、704条で利息も付けることになります。

 703条の範囲では、「その利益の存する限度」となるわけですが、そのま
まで残っていることまでを求めているわけではないので、形を変えていても
OK、つまり代わりに得たものや代わりに節約したものがありさえすれば、
「利益の存する」を満たします。特に企業活動の場合には、無駄遣いをする
訳ではないと想定されるので、受けとった分だけ残っているはずで、現存利
益というのを否定することは普通はないことになります。

 言及された二件は、いずれも703条を確認してはいますが、「存する」を
余り限定したものではありません。特に大判明35年10月14日は、請求を認め
た判例です。次の様に説明されて居ます(ウエストローからコピー): 

「裁判年月日 明治35年10月14日 裁判所名 大審院 裁判区分 判決 
事件番号 明35(オ)399号
事件名 弁済金返戻請求ノ件
裁判結果 棄却 上訴等 確定 文献番号 1902WLJPCA10146002

要旨 / 新判例体系 
法律上の原因なく他人から金銭を取得したときは、これを費消したと否とを
問わず利益を受けたものとみなすべきである。」

 もっとも、原文を読むと、703条を確認しながら、請求を認めた原審判決
を維持したものであるのは明確ですが、それは原審までで現存利益について
の議論がなかったからであり、これをもって現存利益について何か特に判断
した判例というのは当たらないようです。

 次に大判昭8年2月23日の方は、確かに限定したのですが、以下の様な話で
す: 

「事件名 陸軍軍人遺族扶助料過払金請求事件
裁判結果 棄却 文献番号 1933WLJPCA02236002
要旨 
遺族扶助料の超過払を受けるのは不当利得者である。
不当利得によつて得た金銭が存せず、また、これを得ないとすれば他の財
産を費消したであろう事情も存しないときは、現存利益はないというべきで
ある。〔*〕」

 いかにも個人の費消しちゃったから仕方がないという事案ですね。こうい
う例だと、存するのところで請求排斥があるわけですが、企業の場合は普通
は当たらないと思います。

| (2) 損害論に関して
| 
| 侵害訴訟において、被告が製造者、販売者など複数いた場合に、
| これらをまとめて訴えようと個別に訴えようと、それぞれ侵害行為が
| 認定されれば全ての被告に、不真性連帯債務が生じて、
| 原告の遺失利益を少なくとも誰かが支払わなくてはならない
| ということになると思います。
| そうすると例えば製造者のみを訴えて原告の遺失利益を支払わせた後、
| 別途販売者のみを訴えたとすると、侵害が認定されても、
| 既に製造者により原告の遺失利益は支払済みであるとされれば
| 損害額はゼロという認定になるというような場合があり得る
| ということで宜しいでしょうか。

 良いと思います。

| このような場合に製造者は販売者に対して、民法442条に基づく
| 求償権を得るのでしょうか。

 そのはずです。

| また、原告が販売者を訴えて侵害が確定しない限り、製造者には
| 求償権は発生しないということになるのでしょうか。

 求償は、上記の条文では「免責を得たとき」が要件なので、弁済して元の
賠償請求債権が消滅して初めて求償請求できる理屈です。そういう意味では、
侵害が確定、でもまだです。

 ・2011年9月23日(金)00時48分54秒
 ・松本 直樹


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日付: 2011/09/13(火) 10:06
件名: Re: 能力担保研修の質問 

松本先生

お忙しい中、早々にご回答戴き、有難うございました。

不当利得の現存利益に関して、企業活動の通常の消費は
下記2つめの判例に則せば、「これを得ないとすれば他の財産を
費消したであろう事情」というのが当然にあるケースが多いわけで
過払い分のお金をあるから使ってしまった、というような言い訳は
あまり通用しない、ということ理解致しました。

特許法の話だと、損害賠償より不当利得返還のほうが
請求できる期間が長いのに、それなら何故最初から不当利得返還を
請求しないのか、ということを説明する中で、
不当利得返還だと相手が使ってしまったら回収できないから
という話を聞いたことがあったので、ずっと気になっておりましたが
現実的にはあまりこの点では差が無いと知り、すっきりしました。


また、不真性連帯債務の発生と求償権の関係についても
ご解説いただき、ありがとうございました。
この場合だと、特許権者が販売者と裏でつながっていて
あるいは仲が良くて、製造者と販売者が共同で不法行為を行った
にも関らず、特許権者の一存で、製造者だけに全額負担を
被せることができ、その場合、製造者は「裏でつながっている」
などということを証明できない限り、一人で泣き寝入るしかない
ということになってしまうのですね。

特許権侵害に限らず、ヤクザ者や権力者と「共同で不法行為を行うこと」
の怖さがよく理解できました。

また勉強していて分らないところが出て参りましたら
ご質問させていただければと思っております。

どうぞ宜しくお願い致します。


2011年度能力担保研修クラス4
F


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日付: 2011/09/16(金) 15:01
件名: Re: 能力担保研修の質問 

 F さん、メール(Tue, 13 Sep 2011 10:06:29 
+0900 (JST))をありがとうございました、松本 
 です。

| 特許法の話だと、損害賠償より不当利得返還のほうが
| 請求できる期間が長いのに、それなら何故最初から不当利得返還を
| 請求しないのか、ということを説明する中で、

 実施料相当額を請求する限りでは、基本的に違いはないものと思っていま
す。1項や2項を主張しようという場合は、それを不当利得というのは無理
なので、違いがあります(なお、2項のようなのを不当利得というのは無理
です、権利者のところで減っている分がそのまま侵害者のところで利益にな
っているものではないからです)。

| 不当利得返還だと相手が使ってしまったら回収できないから
| という話を聞いたことがあったので、ずっと気になっておりましたが
| 現実的にはあまりこの点では差が無いと知り、すっきりしました。

 一応は、現存利益限度も説明材料になるでしょうが、現実的ではないと思
われること、前回ご説明の通りです。でも、現実的でなくても、議論が余計
になる可能性はありますね。

 ・2011年9月16日(金)15時00分54秒
 ・松本 直樹 


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日付: 2011/09/20(火) 11:08
件名: Re: 能力担保研修の質問 

松本先生

お忙しい中、ご返信をいただきまして
有難うございます。

特許法102条各項と不当利得との関係
ご指摘いただき、ありがとうございました。
理解が深まった気がいたします。

また、ちょっと別の件でご質問させていただければと
思っている内容があるのですが、ちょっと頭の中を整理して
またご連絡いたしますので、その際はどうぞ宜しくお願い致します。

質問とは関係ないのですが、松本先生は今は飯田橋なのですね。
自分は少し前まで神楽坂に15年ほど住んでいて
先生の事務所近くにある中野庵の「さんま寿司」はよく食べていました。
素朴な味ですが、今が旬ですので、機会があれば
一度、ご賞味ください。

ではまた宜しくお願い致します。

東京クラス4
F


http://homepage3.nifty.com/nmat/BenrisKen11.htm
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